第二部 第31話 泉花音Ⅱ② と第六部プロローグ
再び襲来した盗賊団。やっと撃退した~、と思ってたのに。
そうしたら、泉さんが進みでて、話の方向性が変わってきたよ。
「そうですね。先ほど、村を襲って得たであろう報酬の対価、と申しましたが。――どうでしょう? おひとりあたり『カノン・ギフト』5枚では?」
「5枚? 金貨5枚と同等か? ‥‥お前らはどうだ?」
副首領が首を回して問いを後ろに投げる。
「5枚‥‥!」
「5枚だってよ?」
「5枚かあ」
伝言ゲームのように、波のように。みるみる情報が伝播していくのが見てとれる。
「‥‥悪かねえけど」
「俺は5枚でいいぜ?」
「傭兵稼業よか楽だろ?」
「もっと稼ぎがいいぜ。傭兵はよぅ?」
どう? どう? 色んな声が聞こえてくるけど? 盗賊たちがお互いの顔色を見あって、そのざわざわが波紋のように広がっている中‥‥‥‥。
唐突に泉さんが。
「ではこれで如何でしょう? おひとり様、10枚!」
「「「そんなに貰えるのか!?!?」」」
あっ! さっきと全然違う! 反応が!
「ええ。私どももこの『カノン・ギフト』を、無限に持っているわけではございません。――が、おひとり様10枚。通常、村を襲えば、村人からの抵抗もあり手傷を負う事もしばしばでしょう? 実際私たちと事を構えるとなると、先ほどのように。ほら」
泉さんが愛依さん、盗賊にとってはエイリア姫、の方を向く。
愛依さんはぬっくんがローブを着せていた。
彼女の壮絶な【スキル】を思い出したのか、盗賊のお兄さん方、一気に血の気が引いていくのが見えた。
「王宮との密約があるのは、あの頭領の方のみですよね? 恐らく。――でしたらエイリア姫の引き渡しの件は忘れて頂いて。彼女を害するというのであれば、こちらは全力を以って阻止する以外選択肢がございません。――ですが、ここで兵を引いてくださるならば、おひとり様あたりギフト10枚、イズミ商会の名に於いて、お引渡しを確約致します。如何ですか?」
「い、いま『イズミ商会』って?」
「『泉さん』って呼ばれてたぞ?」
「じゃあこの女が、こんな小娘が? あの!?」
何? 「イズミ商会」って単語が出たら、さらに盗賊たちがざわついたよ。みんな口々に何か言いあって、何人かは副首領に強く詰め寄ってる。
「わ、わかった。それで手を打とう」
手下の勢いに押し出されるような形で、副首領の人が了承した。
「お取引き頂き、誠にありがとうございます」
すうぅぅっと深く、泉さんは頭を下げた。両手を前に組んで、足を揃えて。
それは流麗な、とってもきれいな所作だった。
「――では、ただ今より条件執行のお話に移りたいと思います。私どもは身辺の安全の意味も含めて、村の入り口までこのメンバーで移動したいと思います。そちらは、副首領の貴方が代表受取人となり、村入り口でこの『カノン・ギフト』を受領して頂きたく。部下の方々は、村から――そうですね。1キロ以上退去して頂けますか? あ、護衛や荷物運びの方は数名いらっしゃっても構いません。――如何でしょう?」
「わかったわかった。それでいい。俺たちはアンタを信用するんだ。そっちも信用してくれよ? 盗賊にだって仁義はある」
そのセリフに、彼女が声をかけた。
「左様ですか。ええ。あの‥‥副首領様の『仁義』というお言葉で‥‥今思いついたのですが。如何かしら? 今後、この村を襲わないと確約して下さるならば、『カノン・ギフト』のお支払いを、さらにさらに5割増しに致します。おひとり様につき15枚。ご検討いただけますでしょうか?」
「15枚‥‥。部下に聞いてみるが、それはそれとして。‥‥アンタ、俺たちを信用する、ってえのか? さっきの取引は成立したとはいえ、この村に火をつけて襲撃した俺たちを、そこまで信じるのか?」
「はい。そうです。ご信用申し上げるのはこの村が、ではなくこの『イズミ商会』頭取、泉花音がその眼力を以って、でございます。副首領様は自らのお言葉を違わない方と拝察いたしました。そして僭越ながら申し上げます。こういったご稼業で、盗品を金貨に換えるには色々とご苦労が多いかと。買い叩かれますし、足もつきやすいですし、これだけの規模の盗賊団ですと、その維持なども。手痛い反撃による怪我など、そのご苦労を拝察した上での、こちらからのご提案でございます」
「‥‥いいだろう。それだけで金目のモンが懐に入るなら、願ったりだ。もともとこの村の金品なんて大して期待して無かったからな。あの首領が王宮にいい顔しようとして、魔導士に唆されてやってただけだ」
***
「――では。こちらになります。お確かめ下さいませ」
村の入り口に移動。10メートルほど間を開けて向かい合うと、泉さんはその中間に「カノン・ギフト」って呼んでたあの白い紙束を置いて。
手下が3人がかりで枚数の確認をしていく。盗賊さんはトータルで108人って申告してきたから、×15枚、でえっと~~?
愛依さんが即答。「1,620枚よ」。
あ~~愛依さんスゴイ。さすがギフト持‥‥。
――って!? つまり1,620万円!?!?
数えるのは数分かかった。逆に言えばそれだけで終わった。数え終わった紙束は、レンガ3、4個分の大きさだった。
それを、使い込んだ麻の袋に入れていたよ。――きっと今まで村々を襲って強盗した物を詰めてきた麻袋だ。そう考えたら背筋がぞわっとした。
「さっき部下に聞いたけどよ。この紙切れをアンタんトコの商会に持っていきゃあ、金貨と交換してくれるんだよな?」
「左様でございます。ですが近頃は金貨にするよりも、ギフトカードのまま使われるお客様の方が多いですね。寝る時に下着に入れ込んだり、枕に敷いたりもできますし」
「なるほどな。そりゃあ便利だ! なるほどなあ。じゃあ、邪魔したな!」
と、いう謎会話を最後に、盗賊団は姿を消した。
***
「ふう。危機は去りましたね。皆さん、お疲れ様でした」
盗賊を見送った後、‥‥‥‥う~~ん。「見送る」って言い方はへんよね? また襲って来ないか警戒しつつ、いなくなるのを確認しながら入り口付近を警戒していたけど。
くるっと振り向いて頭を下げた泉さんのこのセリフで、みんな緊張の糸が切れたよ。
私は泉さんと長く同行してた折越さんに質問責めをする。
「‥‥泉さんっていったい? 何者?」
「ちなみわかんなぁい。ただ商売やっててすっごいお金持ち」
「‥‥商売? どんな?」
「なんかねぇ。村とかを回って、そこで欲しい物を聞いて回りながら、同時に売り物も仕入れてくの」
「‥‥イズミ商会、とは?」
「王都とかにある、泉さんのお店よぉ。カワイイ小物を置いたギフトショップよぉ。あと店番してる男の子もカワイイのぉ。ちなみもセレクトのお手伝いしたんだから!」
う~~ん。イマイチ全容がわからないよ。私は初島さん来宮さんにも訊く。
「‥‥前に言った通りっス。私らはたまに護衛とか荷物持ちで手伝っただけっス」
「そうね。体育会系の私らに訊かないほうが。はは。あ、でも」
‥‥‥‥やっぱりわからない。盗賊が納得するほどのアイテム「カノン・ギフト」とは?
ただ、3人が口をそろえて強く言っていた情報がひとつあった。
「王都にあるギフトショップ、そこの店番の男の子はかなりカワイイ。そして交換品である店置きの小物は、マジで超カワイイ」
は?




