第二部 第28話 どの異世界でも悪い人っているよね?②
「人さらいなど! ひ‥‥惣領!」
焦った春さんが目の前の男を打ち倒そうとするけど、部下の男は強い。たぶん盗賊団の幹部みたいなのだよ。逆に剣戟の末に押し込まれてしまった。
そして、春さんは一般の人の前ではエイリア姫のことを「惣領」と呼ぶ。思いっきり正体バレちゃうからね。‥‥今も「姫様」って言いかけたし。
首領が姫をまわりの部下に引き渡して、ふたりの男が姫様の細腕を片腕ずつを掴んで動けなくしたよ。か弱い少女に大掛かり。ゼッタイに逃がさない構えだ。
「放しなさい。この身体はある方からの借り物。あなた達が汚してよい物ではありません」
でも敵中で拘束されててても、エイリア姫の姫様的ムーブは止まらない。あれ? この人すごい聡明だと思ってたんだけど? 自分で正体バラすヒント撒いてるような。いや、ピンチでそんな余裕ないのかも?
「その訳アリな物言い。しかもあの大規模魔法で魔力切れのようだな。‥‥‥‥これは上玉だ。戦利品にするぞ?」
「「おお~!!」」
今まで手ぶらでテンション低かった盗賊団が、首領のこのセリフで雄たけびをあげた。
両腕をがっちり掴む左右の男が、姫様の太ももくらいの剛腕で華奢な姫様を捻り上げる。
私を捕まえた時もそうだったけど、か弱い女の子に大げさじゃない? ――あ、これ、この盗賊団の特徴だ。「人さらい」が生業だから、絶対に逃げられないようにまずするんだ。‥‥たぶん、捕まった人の心までもを折るために。
ちょっと!? 姫様ヤバくない? しかも、その身体は愛依さんのモノだし!
「‥‥どういう状況だと思う?」
ぬっくんが囚われの愛依さんを見ながら私に問いかける。ぬっくんの焦りが手に取るようにわかるけど、彼はなるべく冷静になろうとしていた。私は後ろにいる、まきっち、初島さん来宮さんと顔を見合わせる。
私も春さんとの旅で鍛えられたけど、ラポルト勢もだ。こういう状況になってもパニックになったりしないんだね?
「状況を整理しよう。姫がこの村にかけた魔法」
「あのやりとりと、火事があったにもかかわらず、未だに誰ひとり家から村の人が出てこないってのは」
「出てこなきゃ安全、なんじゃね?」
「そう思う。『家に魔法の障壁』って。それで盗賊が『仕事ができない』って」
「あの豪雨はエイリア姫の大規模魔法。それで火事を消して、たぶんさらに障壁っス」
私も頷く。
「私たちのところは火事に気付いて咄嗟に家を出たのと、『蹴り技女』を探す分隊が攻めて来たから他の場所に逃げたけど?」
「家自体には入れるっス。美羽を匿おうとして他の家の納屋に入れたっス」
つまり。
今の状況、エイリア姫がこの村にかけた魔法を整理する。
「家に逃げこむことができれば、障壁が発動して盗賊は手出しできない。それがエイリア姫の障壁魔法‥‥!」
「あとウチら全員に刃物とかから身を守る防御魔法な」
ぬっくんが静かに言い、まきっちがこうつけ加えた。
姫様が村人を、私たちを守るためにかけてくれたんだ。自身の魔力切れも顧みず。
私たちで何とか不意をついて! そして姫様を奪還できれば、ワンチャンあるかも。
「げへへ。観念しな小娘。お前みたいな上玉は高く売れるぜ。――へへ。なんなら俺たちがかわいがってやってもいいんだぜえ!」
囚われの姫に、蛮刀をぺちぺち叩きながらひとりの盗賊が進み出たよ。
うわ! 絵に描いたような盗賊的なセリフキタ。エイリア姫を取り囲む下っ端的なヤツだ。盗賊団の首領は冷静な感じだけど、やっぱ盗賊なんだよね。
「――若い女性にこのような無体。あなた方は一体、どの様な悪事を。今まで何人の女性をさらってきたのですか?」
毅然とした姫様だけど、まわりの盗賊は下品にゲラゲラ笑う。
「そんなの憶えてねえよなあ。オイ」
「誰か帳簿でもつけてたか?」
「ぎゃははは! 俺たちがそんな町人みたいな真似、するわけねえよ」
「‥‥この国にあなた方のような下劣な人間がいること。‥‥まことに恥ずかしい限りです」
「なんだコイツ? ドコから目線でモノ言ってんだ?」
「‥‥あなた方が数えていなくても、犠牲になった女性には、それぞれにその人生があったのです。あなた方は、自分の罪を、女性の痛みを知るべきだわ」
「なんだとこの女ッ!」
「手も足も出ねえのに、言いやがるなあ」
あああ、姫様なんか余計なこと喋ってない?
盗賊団煽ってどうすんの?
「あなた方にも生んでくれた女性、母親がいたはずです。売られていった女性の心の痛みは如何ほどのものか‥‥」
「首領! コイツ生意気だ。やっちゃっていいですか!?」
「黙らせちまおう!」
「言ってくれるじゃねえか!」
あれ? 姫様が煽るから、盗賊が姫様のところに集まってきたよ。
捕まって動けない女の子に、盗賊たちが身を乗り出して言い返してる。
「盗賊とはいえ、娘を持つ者はいないのですか? 女性の兄弟など。その者が同じ目にあったら、とは考えないのですか?」
「うるせええ!!」
「俺らに説教すんな!!」
「生意気な女め!」
「黙れったら黙れ!!」
「わからせてやるよ!? その身体に。たっぷりとなぁ!」
「「げひひひひ!!」」
「‥‥‥‥やめなさい。そのような不埒な真似を。許しませんよ?」
‥‥いやぁ。‥‥私が言うのもなんだけど、その台詞は逆効果では?
盗賊さんの盗賊ムーブ助長するパス出してるような。
あ~、姫様の物言いも通常運転だけど、煽られた盗賊も通常運転始めたよ。何人かが姫様に刃物を見せたり、服をめくって恥をかかそうとしだした。
「‥‥そのような辱めには屈しません‥‥‥‥くっ‥‥やめなさい」
白いワンピースのスカートをひらひらされて、あわててふとももを閉じる姫様。くの字になった白い脚を見て、盗賊さん達のテンションが上がる。
「‥‥‥‥やめなさい! ‥‥‥‥やめて!」
‥‥‥‥姫様わざとやってない? ってくらいに定番すぎる展開だよ。強気で高飛車だった態度から、そんな顔を赤らめてもじもじしだしたら、盗賊さんは余計にイジりたくなるってば。
「高慢女には、刃物よりこっちみてえだなあ」
「「ぎゃっはははは!」」
ほらぁ! スカート余計にひらひらされてるし、肩ひもはずそうってヤツをいる。そうだ。この姫様の白いワンピースって、ぬっくんと愛依さんの小さな結婚式の時の花嫁衣裳だから、肌率高めだったっけ。
首領っぽい人は腕を組んだまま動かない。盗賊の幹部たちにいたぶられる姫様を横目には見るけど、それは部下にやらせる感じだよ。自分はあくまで春さんや折越さんを警戒してる。
う~ん。あの人が油断して、姫様いじりに参加してくれたほうがやりやすそうなんだけど? こんなこと言っちゃダメか‥‥。
「「ヒャッッハ~~!!」」
あからさますぎる蛮族の掛け声。「じゃあオレも! オレも!」って感じでエイリア姫にどんどん男が群がる。
見た目ヒャッハ~な人たちが、本当にヒャッハ~って言い始めた。
「やめなさい! ‥‥‥‥やめ‥‥」
そんな彼女にもう人だかりができて、ちょっとしか姫様が見えなくなって‥‥‥‥‥‥え!?
「「さっきまでの威勢はどうした! ほれほれほ~れ!!」」
「‥‥ああ! ‥‥やめて! やめ‥‥‥‥ん‥‥」
見えた。ちょうど今見えたけど。
姫様が気絶しちゃった。魔力切れ、だから?
あの華奢な首もとが、カクン、って折れるのが見えちゃった。
え? ヤバくない!?!?




