第二部 第27話 事務所NGなのに拒否れない現場③
男たちがあまりに痛がるから、十数人の盗賊団は我先にと逃げ出した。
あ、声をかけたら、痛がる仲間も連れていったよ。
一応油断はできない。私の風魔法の射程、効果範囲を離れれば痛みは無くなるハズだから。
たぶん急にケロッと治る感じ。
でも、あれだけ痛ければ、たぶん私に近づこうとはもう思わないハズ。
「ひめっち~~!!」
まきっちに抱きつかれた。ぬっくんもそばに。
よかった。本当によかった。「私が人質で、そのせいでぬっくんが盗賊に」ってイメージがあったから、そうならなくて本当によかった。
「ひめっち、怪我は?」
「ないよ。パジャマはこんなだけど」
上着は前がわを大きく切り裂かれていた。
「いやいや。盗賊に剣突きつけられて、トラウマになっても?」
「それは意外と大丈夫。春さんとの冒険で色々あったしね。それに人に見られる仕事してたし、いつか水着もやるかもって思ってたから、これくらいの露出はね」
人質って無事でいるから人質なんだよね。「上玉傷つけんな」って声も飛んでたし。そう思ってたから意外と冷静でいられた。
自分ではそう思っていたけど。
「‥‥だめだよひめちゃん」
「‥‥‥‥あ!」
バサッ。
切られて胸元がはだけたパジャマの上に、ローブみたいな布を掛けられた。
その上から、私の両肩に手が乗せられる。じんわりあったかい、男子の掌。あの人のぬくもり。
私を正面から見据えたぬっくんの目には、明らかに怒りの色があったよ。
「‥‥‥‥戻ってくるのが遅れてごめん。ひめちゃん」
「大丈夫だよ。それより初島さんはどう?」
「来宮さんがついてる」
「よかった。――――とにかく私の方は何とかなったから――――」
「ひめちゃん!」
来た!
ぬっくんがあの瞳、あの表情でいる時は、何か思いがある時。
「だめだよ。『大丈夫』なんて言っちゃあ。あんな泥の上でならず者に捕まって、パジャマ切られて、『大丈夫』なワケ無いよ。ウソついちゃダメ。僕は心配だよ‥‥‥‥?」
ぬっくんはいつも優しくて、こういう大事な時はド正論で殴ってくる。
ドMの私は、殴られて目が覚める。
この、他人に何かを強いることを極端に嫌がる人が、私には命令口調で強い言い方をする。
こんな時に。――私が実は、ホントは傷ついてる時に。それを癒すために。
当然、私は1ミリも言い返せずにノックアウトされて。
「ひめちゃん!?」
ああ。‥‥‥‥そうやって詰問されると、申し訳なくて立っていられなくなる。この世から消えてしまいたくなる。
でも同時に、私の身体の芯のほうから、どんどん熱が生まれてくる。その熱は、小賢しく抵抗する私の理性を溶かして押し流す。
「うん。ごめんね。‥‥‥‥本当はすごくイヤだったよ」
「だよね。ひめちゃんは無理しようとするから」
「すごくイヤだったしすごく怖かったよ。盗賊だし」
「うんうん」
「‥‥‥‥ぬっくん」
「よしよし。よく言えたね。ひめちゃん」
彼に今日もド正論で殴られた。結果、あのテオブロマを貰ったあの日のように。
今日も、私は救われた。
あ、恥ずかしいついでに、ちょっと確認。
「ぬっくん。ひとつ訊いていい?」
「何?」
「あのう。私のウエストおかしくなかった? 太ってなかった?」
彼より高い背をかがめて、上目づかいで顔を見上げた。――だって、こんな質問!
「‥‥‥‥み、‥‥見てね~し」
急に目が泳いだ、もう「怒りを宿した双眸」はないよ。
「だって捕まった時、パジャマめくれちゃって。おへそ見えてたでしょ?」
「だから見てね~し」
「ズボンも脱げかけてたんだよ。胸だって危なかったんだから」
「む? むむ、胸? 見えてたの!?」
「私が聞いてるの。答えて!?」
「え~~~っと‥‥」
「私からぬっくんの顔は見えなかったの。でも、そっちからは全部見えてたよね?」
「あ、いや、‥‥えっとですね‥‥」
まきっちが横で手を叩いて爆笑してる。
「見えてた。見たよね? 私のハダカ」
「ハダ!? ‥‥いや‥‥ま、まあそうだった‥‥かもだね」
「お願い。ウソでもいいから『スタイル悪くなかったよ』って言って? 業界ってすごい人の集まりだから、私、自信が持てないのよ~」
結局まきっちが「もう止めたれや」と入ってきたけど。
「‥‥‥‥うん、まあ。え~~~~っと」
「はいはい」
「スタイルは悪くないでしょ? そりゃ」
「うん。ありがと。それで?」
「‥‥き、‥‥綺麗だったと思うよ。肌とか。すごく」
ハイ。いただきました。 °˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°




