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第二部 第26話 泉花音Ⅰ③ 第一部で目立たなかったキャラが第二部デビューってありですか? あ、それ私のことか。






 みんなで布団に入ってトークをした夜。


 その明くる日は休養に充てた。



 特に初島さん。盗賊と接触して怖い目にあったから、この村で静養してほしい。



 彼女は頑張り屋さんだから、心のダメージを表に出さないタイプ。確かに対魔物戦では復活してたっぽいけど、あれは彼女が自信を取り戻すための、泉さんの差配だった。


 まあ静養の仕方も人それぞれで。スポ中コンビは筋トレとかしてたよ。ホントは初島さんはあちらの世界では膝を故障してたんだけど、この世界に転移したら、怪我をしてない状態だったんだって。



 で、夕食はまたあのVIPルーム。ぞろぞろ来た給仕のお兄さんに椅子を引かれ、「どうぞ、姫の沢様」って名前で呼ばれてしまった。ぐうう‥‥‥‥これが世に聞くVIP待遇?


 えっと? これって毎晩続くの?

 泉さん!? どんだけお金持ってるの?


 だめだよ。戻れなくなっちゃう。

女子は1回生活レベル上げちゃうと、落として戻す時大変なんだから!




 そして、昨日と同じ配置で就寝。


「なんか枕元に暖斗くん居るの慣れてきた~。あとで寝顔見せてね?」

「見せないよ!? 何言ってんの?」

「まあまあ。暖斗くんの寝つきの良さはみんな知ってるっスから‥‥」

「じゃ、じゃあ今日俺寝ない」

「あはははは!」

「お? 美羽が笑ったっス」


 初島さんは笑顔だった。「やっぱり知り合いの男の人がいると安心感が‥‥」とも。


 でしょ? ぬっくんはなんていうか、まわりの女子をほっとさせる属性なんだよね。人徳? 個性?


 まさにそれは、私が惹かれたところ。




 初島さんが本格的に元気になって、来宮さんも明るくなった。昨日より会話が弾んだよ。

ふたりはスポ中界隈のアスリート事情、周防学園高校への進学とかを喋って、私はやっぱりモデル業とか芸能界隈の話をしたっけ。


 あと、どこ中の誰がイケメンだとか全国大会でカッコイイ人を見ただとか。



 そんな話題になったから途中でぬっくんが、「僕はもう寝るね?」と言って布団にもぐったけど、寝つけなくて結局私たちのハナシ聞いてたの、知ってるよ?


 こんな時間も、修学旅行の夜みたいで楽しいね。




 そのまた次の日。朝、知らせがあった。村長さん曰く、昨日村にほど近い森の奥で盗賊団らしい集団を見た人がいるんだって。この村からは離れていく動きだったそうです。


 もう既に王都には状況を知らせる伝令を走らせていて、もうすぐ治安維持の騎士団か何かが来てくれるらしい。――この村は戦争で人手を取られて男の人があまり多くない。このまま無事にやり過ごせればいいけど?



 王宮でクーデターが起こって、王家の人じゃない人が実権握ってるんでしょ? だからエイリア姫はこの村に隠遁してるし、その精神のみを私たちの「あちらの世界」に避難せざるを得なかったわけだし。


 で、そのクーデターやった人たち率いるこの国は、対魔族国との戦争は一進一退で芳しくないみたいだよ。政情不安って感じだよね? 大丈夫かな‥‥?




***




 それからまた数日。



 私たちは村の農業をお手伝いしたり、魔法の訓練をしたりして過ごしていた。それで、毎晩みんなでおしゃべりして過ごしたよ。



 あ、新しいお布団が来ました。ふかふかだぁ!


 で、それに関連して、泉さんがなんでお金持ちなのかを探る話題が盛り上がった。

 ――そんな、楽しいトークをして夜更かししてしまった、とある朝。




「‥‥‥‥‥‥‥‥?」


 パチパチという乾いた音と変な臭いで目が覚めた。‥‥んん? 



 天井が白い‥‥‥‥‥‥?




 ‥‥‥‥‥‥。んん?



 こっ! これ!? 煙だ! 火事だ!! 

 天井じゃなくて部屋中が白いんだ!!



「「みんな起きて!!」」


 私がぼ~~っとした頭から、まさか、と起き上がった瞬間、跳ね起きたスポ中コンビはもう水場に走っていた。ぬっくんとまきっちは今目覚めたところだ。


 火元は家の玄関横。50センチ四方の壁が地面から近いところで、バチバチと燃えていた。来宮さんと初島さんのバケツリレーで水をかけ出す。


 って言ってもバケツがある訳じゃない。お風呂にあった桶でやってるだけだよ。そもそも異世界で火事とか、ぜんぜん想定してなかったし。


「ひめっち。水魔法は!?」


 ああッ!! そうだ!


 私は出来るんだった! ――ええと、焦ると上手くいかないよ~!



「【ウオーターボー‥‥じゃなくて、【ウオーターシャワー】! お願い!」


 正面にかざした両手の中に水が生成されて、斜め前に降り注いでいく。私は突き出した手を固定したまま不格好に前後移動して、じょうろから落ちるような水が火元に当たるように狙いを定めた。



 ふう。何とかここは消せそうだよ。でも何でこんな所から‥‥‥‥‥‥?


「待った‥‥‥‥‥‥! 村の様子がおかしい。‥‥‥‥なんだこれ‥‥」


 やっと火が消えて、もう少しやらないとちゃんと消えないんだっけ? とか考え始めたころ。


 ぬっくんが変な声を上げた。




 ‥‥‥‥‥‥村のあちこち、‥‥‥‥というか見える全部の家から煙が上がっている。


「愛依の家は!?」


 ぬっくんが鋭く叫ぶ。みんな頭が事態に追いつかないけど、最悪の想像が脳裏をよぎって背筋が凍っていたよ。

 残りのみんながいる「ぬっくんハウス」は離れている。村の反対側。


「どうする? 片っ端から消してくか? 人を呼ぶ?」


 まきっちが問うけどもう何がなんだか。どうしたらいいの?



 と、次の刹那。


 突然空が暗くなって、頭にぽつりと打つものが降ってきて。「あ、これって?」って思う間もなく土砂降りの雨になった。


「見て。こんな景色」

「見たことないっス」


 パジャマ姿のまま驟雨に打たれる来宮さんが空を指さすと、確かに奇妙な光景がそこにあった。 みんな思わず空を見上げた。



 朝焼けの空が赤から青に変わっている。今日の天気は晴れなのね。なのに、私たちの頭の上だけに低い黒い雲が立ち込めて、ザ~~って雨が降っている。


 ちょうど、この村だけが豪雨になっていた。あっちの世界でもたまに遭遇するよね。車で走ってたら急に雨の中に入ったり抜けたりすること。正にそんな感じだった。


「ほら。あっちは降ってない」


 初島さんが見つけた。村の外に出れば、日が当たった地面がある。このままずぶ濡れなのも良くないので、誰ともなくそっち、降ってない村の外方向へ動いたんだけれど。



 迂闊だった。――ううん、火事からの不思議な豪雨で、私たちはもう思考停止しちゃってたんだと思う。


「きゃあああ!!」


 真っ先に向かった初島さんの悲鳴。彼女がそうリアクションするってことは?


 そう。





 村の外には、いかつい武具をきた蛮族、話に聞いた盗賊団がいた。





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