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第122話 退艦式③ &第二部「泉花音」プロローグ






 空中戦艦ラポルト。


 すっかりこの呼び名で馴染んでしまったけど。


 この呼び名はもう元に戻さないとなあ。空中戦艦「ラポルト」、もとい、「ウルツサハリ・オッチギン」が空中浮遊を止めて海面に着水する。すごくゆっくりとだ。艦のメインエンジンを休めるために。メンテもするそうだし。


 さばさばと静かに波が立って、金魚の風船みたいな丸っこいフォルムが海中に沈んでいった。



 しっかし泉さん、こんな巨大戦艦の舵を取るとか、肝が座ってる。(実は無免許ということも判明しちゃったし)


 空中戦艦に喫水線があるのかどうか知らないけど、けっこう深く沈んだ感じだ。


 そして、ついに。ゴウゴウと低く響いていた、この艦の重力子エンジンが、静かにその回転を止めた。



 静寂が、旅の終わりを告げていた。



 網代さんがこう言っていた。「あ~。海面着水させるとフジツボ付くしダルいな~。でもメイン切るからしゃ~ない」と。


 (めい)国の軍事基地とかもあるから、それにも配慮してるらしい。同盟国とはいえ、基地上空を超兵器がふわふわ浮かんでたら、刺激しちゃうから、とか。


「けどなあ。わざわざ塩水に漬けるなんて! 私ら大事に扱ったのになあ!」


 って七道さんもブツブツ言ってた。



 僕らは乗り込んだ時と同じように、派遣された水上船で、懐かしい故郷の土を踏んだ。





 退艦式までに、昼食とまとまった時間を軍が用意してくれた。


 やっと家族と会えたよ。みんな港湾で待っててくれたんだ。父さん母さんと同母妹(いろも)たちが来てくれてた。父さんは「帰ってきたな!」、母さんからは「無茶して!」って怒られ気味だった。


 特に泉さんのところは賑やかだったね。やっぱり資産家なのか、みんな雰囲気からしてそんな感じだったし、従業員? スーツの男女が大勢群がってた。なんか泉さんに書類を渡して、彼女がそれにバシバシ印鑑押してたな。


 一ヵ月も音信不通だったから「書類が溜ってる」とか「この決裁を」なんて聞こえてきてたよ。


 あまりの喧騒に泉さんが「お仕事の件は外で。席を外しましょう」って、一回退出したくらいだ。




 まあ人それぞれだけどさ。


 16人分の家族が再会に、それぞれの歓声を上げていた。


 軍の港湾施設の応接間。バスケコートに二個分くらいの広さなんだけど、明るい声で満たされて、あふれんばかりだった。











 その中で。










 愛依のところだけ、やけに静かだった。







 父親が来ていない所――渚さんとか桃山さんとか――もあったけど、みんな母親や家族親戚が来ている中で、愛依には幼い女の子がひとりだけ。‥‥‥たぶん、ふたりいる下のほうの同母妹(いろも)だ。


 布が被せられたテーブルに用意された、銀皿のサンドイッチが彼女のところだけ、ほとんど手つかずで残されている。


 明らかにあそこの空間一帯の、なんというか‥‥室温が低い。




 愛依がどんな表情してるのかな? あれ見えないぞ? ってそっちばかり向いてたら


同母兄(おにい)ちゃん! 私の話聞いてる!?」


(もえ)――自分の同母妹(いろも)に涙目で怒られた。




***




 そして、軍の楽隊のファンファーレと共に退艦式が始まった。僕らは例の式典礼装を着て、横一列に並ぶ。麻妃に頼んで入れ替わりに愛依の隣になった。‥‥ちょっと心配だったんだ。


 軍の偉い人の挨拶とか、市長さんの挨拶とか。あとみなと市教育委員会とか。式は30分くらいで終わったかな。そういえば出発式の時にいたマスコミの人たちがいないな、って思ってたら、愛依が教えてくれた。


「この後、記者の方々からの質疑応答がある、記者会見をやるんだって」


「ああ、そんな予定だったね。ノスティモの記者さんとかもその時かあ」


「ホントはほら、出発式の時にもあった立食パーティーとかが予定されてたんだけど、お流れでさっきの軽食会になったそうよ。‥‥だって戦争が終わったばっかりだし、あまりにわたしたちの旅が長びいて、もう9月だもんね。子供は早く家に帰そう、ってなったそうよ」


 え~~。「5泊6日の予定をこんなに長引かせておいて今さら!?」‥‥とツッコもうとして、止めた。

 こう言えば彼女は「ふふ。本当にね」って楽しそうに笑ってくれるはずなんだけど、そのイメージが浮かんでこなかったんだ。



 ‥‥‥出発前だったら絶対にわからなかった。けどあの旅を経験した今ならわかってしまう。手に取るように。








 普通を装ってるけど、元気がない。愛依は。



「‥‥さっき応接室にいたのは、妹さん?」


「そうだよ。下の同母妹(いろも)詠夢(えむ)


 そして僕が「わかる」ということは、向こうも僕のことが「わかっている」ということだった。





「大丈夫よ暖斗くん。わたし、大丈夫」





 先に言われてしまった。そして。


「それよりも暖斗くん」


 愛依に言い返されてしまった。


「暖斗くんこそ、大丈夫かな? この後の記者会見は正に『暖斗くんが主役』の晴れ舞台になるんだけど?」


「‥‥え? ‥‥僕? ハレブタイ?」


 困惑した。どういうことなんだろう。


 でも、聞き逃さなかったよ。愛依がその後に。





(ふう。‥‥‥家か‥‥‥‥)


 って小さくため息をついていたのは。





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