第122話 退艦式② &第二部「泉花音」プロローグ
※週2回ペースを守りつつ、投稿時間を変化させてみます。
地平線の彼方に見えてきたのは竹取山だ。紘国一の霊峰。この時期雪は無いから、竹取山は青黒く見えるはずだけども。誰かの声が。
「‥‥‥‥白い? 雪じゃあないよね‥‥‥‥‥‥」
この時期、9月には竹取山は冠雪しない。している訳がない。
近付くにつれハッキリ見えてくる白煙。特徴的なカルデラ山地の独立峰の頂点から、もくもくと噴煙を上げる竹取山は、まるで冬景色のように白い灰を全身にまとわせていた。
「そういや、噴火してたんだったな‥‥‥‥」
噴火の情報に、一番派手なリアクションしてた七道さんがそんな風に言ったので、みんなで笑った。
重い空気が少し取れた。
子恋さんが「ああそうだ」と前置きしながら。
「みんな。『式典礼装』着てよ? まさかなくしてないよね?」
式典礼装。この「ふれあい体験乗艦」の出発式の時に着てた服だ。スーツみたいで軍服みたいなヤツ。その時以来自室のクローゼットに放り込んだままだったよ。
「あと、各自室の撤収。仕事場の方は後日でもいいけど、自室に忘れ物ないようにね? 退艦式終わったら、この艦は正式に軍の管理下に戻るから」
みなと市の東隣、はたやま市と紘国平っていう丘陵も見えてきた。それにつれて、竹取山もよりハッキリと見て取れる。
「山の形は変わったとかじゃないけど‥‥」
僕の横で愛依が、心配そうに見ていた。無意識なのか、僕のシャツの袖を きゅって掴んでる。
「うん。偏西風とかあるから、みなと市までは火山灰はまず来ないけど。すばしり市やその先、さががみ県や‥‥‥‥帝都にも届いてそうだね‥‥」
どんどんみなと市へ近づく艦。どんどん明らかになる、故郷の変化。
「そうよね。この山の噴火がキッカケで、世界中から攻められたんだよね‥‥‥‥」
愛依が、そうひとりごちた。
正面の景色に目を移す。
景色の奥の方に標高500メートルの山、手前には広い扇状地、その平地には建物とかがびっちりひしめいていて。さらにその手前には大きな川が左から右へ、海へと注いでいる。
良く見なれた、みなと市とれんげ市だ。まあ海上側の空中戦艦からの視点は初めてなんだけどね。航空写真みたいだね。
みなと市の右側、東が海に面していて港がふたつ。手前に見えるのが「みなと港」。民間港だよ。そして奥の方、川の河口辺りに作られたのが、今回の僕らの大冒険の終着駅、みなと軍港だ。
戦艦ラポルト‥‥いや「潜空艦」か。
あ、いや、潜空艦能力はあの戦いでネタバレしちゃったけど、一応軍事機密だから、戦艦、でいいのか?
あ、待てよ? そもそもラポルトじゃなくて「ウルツサハリ・オッチギン」じゃんか? なんかラポルトって呼び名でいい、みたいなこと言われたけど、正式な場面、退艦式とかじゃあどう呼ぶんだろ?
なんて悩んでもしょうがないこと考えてたら、アマリアのふたりと泉さんもついに来た。
これで全員集合だ。
操舵手の泉さんまでここに来ると、なんかドキドキするよね。実際は泉さんが24時間舵を持っていたわけじゃあないし、渚さんや折越さんと交代しながらやってた。
夜とかは今みたいにオートで自立運航させたりして。
でも泉さん、あの操舵席に座っているのが好きなんだって。可能な限りほとんどの時間を、操舵に費やしてくれてた。
「本当にありがとう。泉さん。このラポルトが移動に戦闘に、そんなに不自由が無かったのはこの泉さんの陰の功績よ。艦長として深く感謝します」
アマリアコンビの後ろから現れた泉さんに、子恋さんがそう言葉をかけて、みんなで一斉に拍手をした。慌てて拍手を避けたコーラのリアクションが少し面白かった。
桃山さんが進み出る。泉さんは照れた様子だった。
「戦艦って、後ろ向きにも進むんだね。すご~い」
「ええ。空中戦艦ですし、戦闘中でもないから」
「可能だとしてもすごいよ。なんでこんな操艦ができるの?」
「私は『船舶運転許可証』持ってるので。全長500メートル以下なら」
「え~。中学生でそんな免許取れるの? 『わチャ験』?」
「いえ、家業が回漕業、というか回漕問屋だから。商社って言ったほうが正確かしら」
そうだった。泉さんの実家は、みなと市有数の企業だった。港(民間港のほうね)の近くに、窓が無いクリーム色の、巨大な四角い建物が並んでる。
あれ全部、港関連の冷凍倉庫だって知った時はびっくりしたなあ。
人口10万くらいの地方都市では、泉さんの会社はトップクラスにデカい地元企業なんだよね。そこの創業者の孫かなんかが彼女だって、愛依から教えてもらっていた。
あ、でも。
「あれ? 泉さん。ラポルトは全長550メートルだよ。500メートル以下の船舶免許じゃあ?」
「あら。そうなの? 私聞いてないわ」
僕の質問に本当に驚いてた。口に手を当てて「まあ!?」って感じで。この辺確かに良家のお嬢様っぽい。
この質問の回答は、苦笑いした附属中3人娘からだった。
「‥‥‥‥はは。バレたか。うん。完全に法律違反なんだ。この件はみんな、本気で内密でお願いするよ。うん」
「うふふふ。お願いします。みなさん」
「ちょうど大型持ってるからいいか? と思ったら、ラポルトが存外に大きかったんだよ。ほら。この艦実は軍事機密のカタマリだったから」
「光莉が把握した時にはもう、間に合わないタイムスケジュールだったのよね。」
「艦の諸元公表は直前。だから私ら3人娘も運営も『知~~らね。沈黙で通せ』ってさ」
‥‥‥‥絶句。そういえば。
悪びれず淑やかに笑う彼女のプロフィールには、ちゃんと「500メートル以下」って記載されてた気がする。‥‥そして他の子はともかく、僕はラポルトの全長を知っていた。
もっと早く気づけたのか。ここにきて何だそれ!!
しかし、ラポルトより大きな戦艦って、紘国旗艦の「ティムール(全長580メートル)」しか無いハズ。
500メートル級の船舶免許を、乗艦前に取得していた中学二年生の泉さん、そしてその実家って?
いったい何考えてんだろ。
※渚と同じく、第二回人物紹介に仕込んでいたネタです。




