第二部 第24話 異世界でスローライフって正直難易度高いよね? だって治安悪いし社会保障制度ないし。あと普通に魔物いるし。②
姫様と春さんの【リンク】で放たれた、巨大な透明の刃。
それで首と胴が離れた魔物が、まだ旅人を襲っていた。でも。
「はッ!!」
なんと! さっき魔法を打ち出した春さんが、もう魔物に近接していた。首のほうは姫様が静かに焼き払う。
春さんはそのまま魔物胴体のふところにすべり込み、下からその剣を突き入れる。心臓に達するほど深く刺さったところで「バチィ!」と音がした。――剣に雷魔法を【リンク】させて、魔物の臓腑を焼いたんだよ‥‥!
「そちらの方々、お怪我は?」
言葉もなく棒立ちする私たちとは対照的に、姫様が追われてた人たちに声をかける。
その向こうで、巨大な獣の影が光の粒子に変わった。
「い、いえ。無事です。ありがとうございます」
「それは僥倖です。こんな街道に大物が出るなんて」
「そうなんですよ。森の奥から突然現れて、‥‥いやぁ」
「森の奥? それはいけませんね」
やっぱりだ。春さんの今の動きとか。姫様たちってホントは強いんだよ。さっきの春さんの風魔法だって姫様が【リンク】で貸したんでしょ? とっさに。連携良すぎ。
だけどまあ、首だけ魔物が動いた件に触れないってことは、「この世界では割と常識」。
そういうことなんだね?
私はぬっくんまきっちと視線で語り合った。
「惣領。まだ来ます。皆さんも陣形を作ってください」
森の奥をにらむ春さんが、魔力残滓のついた剣を払いながらそう言った。
我に返った私たちはそそくさと配置につく。
私と春さんが前衛。その後ろにぬっくんとまきっち、中央奥に姫様。
それと春さんはエイリア姫のことをたまに「惣領」と呼ぶ。人前で「姫様」と呼べない時だよ。‥‥‥‥一瞬「は? 誰?」ってなる。
「どうやら、さきほどクラスが多くいるようですね。‥‥‥‥では」
木々が生い茂る街道沿いの森。その向こうに気配を感じたエイリア姫が旅人さんに声をかけた。
「ここは私たちが食い止めます。できれば応援を呼んでいただきたいのですが」
「わかった!」
「任せて」
「あんたらもムリするなよ!」
アテがあるのか、旅人さん達は四方に散って走り出していた。その背中を見ながら姫様が独り言つ。
「‥‥‥‥さて、これは。私の力を使わざるを得ないかも、ですね」
むむ? 非常に少年マンガ的な発言。
「姫様。逃げるって選択肢は?」
私が振り返って姫様に尋ねると、後ろから声が返ってきた。
「敵が強く、私たちが全滅するか怪我人が出るならそれも選択肢です。しかしこのまま放置すれば、街道利用者への被害が確実に出るので、この地形で迎え撃つ訳です」
なるほど。理路整然。クールな姫様。
「あと、ここはザイガ村や近隣へつながる主要道。往来する商人も最低限武装していますし、その警護のかたがいるかも。逆に救けが来る期待値も高いのです」
なるほどなるほど。予防的な意味でも互助的な意味でも、ここで魔物を迎え撃つのがベターな選択なんだね。
「わかりました! 予防は大事!」
私は剣を抜き森に向けて構える。すると、木々の暗がりのその向こうで、枝が折れる乾いた音がした。
と、さっきの大狐? ヘクトアロペクスって呼ばれてた魔物が、何匹も現れた。
うわ。4匹!
「おふたりに【リンク】、【大魔力】!」
「【ライトニングボール】!」
「【ファイヤーボール】!」
姫様が後衛ふたりそれぞれに両手を乗せ、魔力を供給して。
ぬっくんとまきっちが大き目魔法を打ち出していく。
ズゴゴン!!
スゴイ威力だよ。ヘクトアロペクスに見るからに大ダメージ!
「ひめさん。私たちは壁役です。損耗を避け、敵を止める役割」
それでも大狐はこっちに向かってくる。さっきの春さんの増幅魔法でも一撃では倒せなかった。
「うん。壁役は! 得意いい~~!」
ヘクトアロペクスの噛みつきやしっぽ攻撃を受け太刀する私。
そう。ぬっくんの前衛役をラポルトで担う予定だったんだから、これはさんざん訓練してるし。
むしろ、ぬっくんが受けるダメージを私が肩代わりしてると思うと、なんかゾクゾクしちゃう。「あ、私役に立ってる! 存在意義がある!」って心が震える。
「惣領? ‥‥‥‥大丈夫でしょうか?」
魔物の出現が止まらなかった。【大魔力】のおかげで堅実に倒せてるけど、いささか数が多い。
春さんが敵の爪牙をしのぎながら後ろに問いかける。
むしろ、というか私、敵の攻撃が激しいほどテンション上がっちゃう。
そうやって身を挺してぬっくんの肉壁になってるのを、本人に真後ろから見られてるんだから! 直で!
もっと攻めて! もっと激しく!
全部受けきるから!
見てて! ぬっくん!!
「わったしはまだ! 大丈夫よっ!? みんなっ! がんばろうっっ!!!!」
戦意維持のつもりで声をかけたんだけど、春さんから内情が告げられる。冷静に。
「ゆめさん。このままでは不味いのです。姫様は国の中央から追われている身。【大魔力】の出力を上げるほど、政敵の魔法感知に抵触するかも。村の方々は匿ってくれていますが、探知されては姫様の身が」
そうなんだ。それで活躍しなかったのね。姫様。
魔力は人に貸すけれど、自分では行使しない、というか、できない、と。
っていうか。今ひとりだけやけにテンション上げちゃって。
そのノリに誰もついて来てなくない‥‥!?
私! 超痛い子みたいになっちゃってるんですけど‥‥‥‥!?!?
一瞬涙目になったけど、姫様と春さんがシリアスな会話してるから、空気を読んで引き下がることにする 。
「春。些事です。今は国民の安全が第一。探知されたらまた逃げれば良いのです」
「‥‥ですが‥‥!」
あの春さんが動揺してる。止めを刺しそこなったよ。そこにフォローの光球が叩き込まれた。
「ぬっくん! ウチらは!」
「うん。後衛ポジの仕事に徹する!」
さすがぬっくん。そしてエイリア姫はやっぱり姫様なんだね。国や臣民の事を考えて、引けないんだね?
じゃあ、ココは私が踏ん張るところだよ!! さっきスベったのの雪辱!
真性ドMのチカラ!! 見せるわよ!?
(なお、このセリフへのご意見や苦情は、一切受け付けませんので悪しからず)
※一切受け付けませんので悪しからず。(あ、普通の感想はお待ちしております)




