第二部 第24話 異世界でスローライフって正直難易度高いよね? だって治安悪いし社会保障制度ないし。あと普通に魔物いるし。①
いつものミナトウ村の昼下がり。いつものぬっくんハウスといつものちゃぶ台。
「それで、その窃盗団の実力は?」
「はい。そもそも窃盗団は魔法が不得手で社会から落ちこぼれた輩。しかしその代わり腕力にまかせて暴れまくるので、個々の戦闘力があります。しかもかなりの数だと」
エイリア姫がゆっくりとうなずいた。私は姫と春さんに、お茶を淹れる。
ある村が窃盗団に襲われた、という情報を、春さんが仕入れてきていた。それで姫様に報告してるんだけど。あれ? 春さんいつの間にそんな話仕入れてきたの?
「その賊の主力が村を襲ったのですが、副首領のいた後段本陣を急襲した人物がおりまして、被害が出たのでしょう。このまま撤退していったそうです」
私、姫の沢ゆめと仲間が住むミナトウ村。そこからはかなり離れた村での出来事なんだけど、春さんまるで見てきたみたいに詳しい。しかもスマホも無い異世界なのに情報が早いね。
私と春さんは、残るラポルトメンバーを探す旅に出る予定だった。「工科のメンテ3人組」や「さいはて中コンビ」は割と近場の村にいたけど、残りのメンバーを探す旅。
あ、「附属中3人娘」は向こうから探し当ててくれてたね。その3人ももう、カミヒラマへと帰って行って。
「その窃盗団は他にも仲間がいて、現在追われる身となったので、糾合して森林内部に逃れたとも」
でも、その矢先のこの情報。私たちの出発は延期になるそうだよ。安全第一。
‥‥まあ私はぬっくんとお別れしなくていいから、内心ラッキーって喜んじゃったけど。
ただ、こんな治安の異世界で、みんなバラバラなのも良くないと思う。魔王討伐どころじゃないよ。できればみんなで固まって安心安全に暮らしたいよ。
あれから数日経った。それからの盗賊団の動向は不明らしい。もしかしたら山づたいに移動して、この村の近くまで来くる可能性も、だって。やだ怖い。
そんなせいもあって、魔物討伐に遠出ができにくくなっちゃった。村から離れた所で、盗賊団とバッタリしたくないもんね。
だけどそれで討伐遠征もできず、魔石も大きいのがGETできないから、収入も目減りしてしまった。一応お金の管理は必殺のアイテムボックス! 春さんが姫様に報告する形でやってるんだけど、姫様がため息つくことが多くなっちゃたよ。
「‥‥お金って‥‥貯まらないものなんですね」
そりゃそうだよ。その辺の経済感覚はさすがお姫様。‥‥‥‥ってまあ、私たち中学生が知ったかすることでもないんだけど。
「ぬっくん、こっそり遠出して稼いでこようゼ☆」
「ダメだよ。ゼッタイ失敗するフラグじゃん?」
「いやいや。撃墜王の名誉騎士様のお言葉とは思えませんな」
「‥‥‥‥麻妃。‥‥‥‥怒るぞ」
「ごめん! ごめんて! ぬっくん」
またしても懐かしいやりとり。そして失敗フラグ立ちまくりの、まきっちの悪だくみが実行されることはなかった。
んだけど。
「いや~~。あの村キライになった訳じゃないんだけどさ。やっぱ毎日同じ場所じゃ飽きるじゃんか?」
石畳の街道を歩きながら、赤い野球帽の後ろで両手を組むまきっち。嬉しそうだね。
盗賊団徘徊の報に触れて、とりあえず近隣のラポルトメンバーでどこか一か所に集まろう、ってことになった。カミヒラマで軍事行動してる附属中3人娘は別として、さいはて中コンビはあのミナトウ村に呼び寄せた方が良いのでは? となったよ。
メンテ班3人組はたぶんあのまま旅の一座と行動してる。ああいう人たちは盗賊団に近づかずに上手く躱すみたいだ。
それに窃盗団は「富を蓄積した定住者」をターゲットにするみたいだから、ああいう旅芸人は相手にしないんだって。それどころか「同じ漂流民」というシンパシーすらあるらしい。
それで、ザイガ村までふたりを迎えに行くことになった。私と春さんで行って盗賊団と鉢合わせしたりしたらヤバいので、結局全員で動くことに。
まあ、ぬっくんハウスは姫様が魔法で施錠してあるから、留守にしても大丈夫だしね。‥‥んん? あれ? だったらあの家に籠って施錠すれば、安全じゃない?
「そうですね。空き巣くらいなら跳ね返せますが、大勢に囲まれて攻め立てられたらムリです。そもそも施錠の魔法結界は侵入者がいるのを、周囲に知らせるのが役目ですから。‥‥もっと強固なものも可能ですが、さすがに魔力を消費します」
だそうです。まああくまで防犯サービスみたいなものね。
街道をみんなで歩く。整備された石畳は馬車のために作られたんだって。街道は魔物も出にくいし景観もいい。――と、そこへ。
「うわああ! 魔物だ!」
「大きいぞ! ヘクトアロペクスだ!」
声のするほうへ分け入ると、木々の向こうに人影が見えた。同時に高さ2m、巨大な狐っぽい魔物も。
旅人みたいな服装の男女数人が逃げまどってる。
「春」
「はッ!」
春さんは姫様と連携していた。早い。
「【リンク、大魔力】!」
「【ウインドブレード】!!」
春さんの詠唱と共に頭上に現出する巨大な刃。透明のそれはレンズのように周囲の景色を曲げて、そこに刃があるのを主張する。
小型飛行機の片翼くらいのおっきなブレードが、水平に打ち出された。
旅人の頭上を風切り音が走り、襲う大狐の首が胴と離れる。
‥‥‥‥けど、大狐は絶命してなかった。切り離されたそれぞれが旅人を襲う。
「危ない!!」
「なんでまだ動いてんの!? キモッ!?」
ぬっくんとまきっちの驚きの声が、森に響いた。




