第二部 第23話 折越ちなみ あたしが魅力的すぎるから捕まえたのね?③
いいや。今日はスポ中コンビ助けるの優先だから。
鎖骨折れても本望でしょ? 男子的に。ちなみのパンツ見れたんだから。
スカートの中が見えてしまう角度で、地面に転がしたヒャッハーお兄様たちの鎖骨を割っていく。
4人ほど片付けたらボス的な人のかけ声がして、撤収しようとし出した。予想通り。
だから次は猛ダッシュ!
美羽ちゃんのところまで走り寄る。あたしから動くと思わなかった敵は、不意を突かれてテンパってる。
美羽ちゃんの目前で横に飛ぶ。彼女を取り押さえてた左右の盗賊団に前蹴りを放つ。
「シッ!」 「「うおっ!?」」
蹴りは空ぶったけど、彼女を取り押さえていたふたりは、その手を放して逃げていった。
ちなみわかってるもん。美羽ちゃん押さえつける役は、あの中で最弱のお兄さんの役目だって。
ハイ。初手であたしを「舐めプ」したからよ? あ、あたしが魅力的すぎたから、捕まえてイロイロしちゃおうとか思っちゃった? それはわかる。わかるけどぉ。
結局、美羽ちゃんという人質を活かせずに怪我人出してエンド。お疲れ様~♪
でも山賊のボス的な人。
いい判断よ。
これ以上骨折したお兄様増えたら、今後の窃盗活動しにくくなるもんね?
「「折越さあん!! ありがとおお!! うわあああん!!」」
絶叫するスポ中コンビ。
むっちゃ抱きつかれた。
正直お礼を言われるのは慣れてない。くすぐったい。
でも美羽ちゃんも櫻ちゃんも心底安心したみたい。良かった。
素人がイキナリ人相手に刀傷沙汰とか、やっぱムリよねえ? しかも花も恥じらう中2女子が。
「戦おうとしたんだけど、私の矛が消えちゃって~。うえええん」
うんうん。美羽ちゃんの能力が途中で消えて、櫻ちゃんとの連携もできなかったのね?
「あら。こんなに泥だらけじゃあ美人が台無しだわ。ね?」
花音ちゃんが、抱きあってべそをかくふたりの涙をぬぐってあげてた。
やっぱり刃物持った人間と戦うには、まず精神的な覚悟がいるよね。あとそのための訓練も。あたしは対人特化の町道場が実家のとなりだったから、勝手に体が動くようにできてるけど。
あとあの盗賊、言うほど強くない。やっぱり異世界の人って魔法頼みじゃない? 基本。
対魔物、対魔法戦闘が主流だから、そういうの抜きの対人格闘術とかはあるけど、そこまで発達してないっていうか。人対人で剣術、物理で戦うことを想定してない感じ。
あのラポルト16に、あたしが選ばれたのも当然だった気がする。だってこんな、刃物系荒事に耐性ある中2女子滅多にいないもん。そりゃ武道や格闘技やってる子はいるとは思うよ? このふたりだってフェンシングやってるし。
でも古武道で刃物持った相手想定したヤツって、今のスポーツ化した武道じゃないよね? これを修めていたあたしは、武装した窃盗団でも負ける気がしなかった。
あの空中戦艦ラポルトで「憲兵」のポストにあたしを選んだ運営さん。その目に狂いはなかったってことよぉ。
ま、あたしが選ばれた理由のイチバンは、この容姿とセクシーさ、なのはデフォだとしても。
でもさあ。結局ラポルトではあたしの見せ場、派手な立ち回りはなかったのよね。 Botや敵兵と素手で格闘するワケないし、あたしの任務は基本、警護やクルーザーの運転ばっかだった。
でもいいもん。そのぶん、この異世界で暴れてやるんだからぁ!
「ごめんなさい。私が待ち合わせ場所をココにしちゃったから。迂闊だったわ」
「‥‥あいつら見るなり襲ってきて。怖かった~」
「まさか盗賊に出くわすとは思わなかったっス」
村を見下ろす小高い丘。窃盗団は主力があたし達と入れ違いで村を襲って、ここを後方陣地というか、ボスと予備メンバーの集合場所にしてたみたい。
そこにスポ中コンビが近づいちゃって鉢合わせ。
で、こんなんなってたのね。
あたしはこの世界に転移した時、花音ちゃんと一緒だった。彼女が始めた商売を手伝う中で、美羽ちゃん櫻ちゃんと合流した。魔物討伐がメインのふたりも、たまに花音ちゃんの護衛や荷物持ちを手伝ってくれてた。
(ちなみにあたしもふたりもちゃんと「バイト代」を日割りでもらってる。花音ちゃんスゴ‥‥!)
スポ中コンビ、特に美羽ちゃんが落ち着いたところで、花音ちゃんが今後のことを提案する。
「ちなみさん。村の様子はどうかしら。被害が出ているかお見舞いしましょう」
あたしは村の気配を確認してみて。
「もう窃盗団はいないわぁ。さっきのボス的な人と一緒に帰ったみたい」
やったあ狙い通り。直接村を襲わない予備兵的な人とはいえ、骨折者が4人も出たら襲撃は中止になる。盗賊に治癒魔法使いがいなさそうなのも大きいよね。村を襲った本体が50人くらい? さっきいた人たちが15人くらいであそこが本陣だったとして、4人負傷、その人たちを移送、ケアするのに倍の数の人手がいる、ってなれば、もう窃盗してる場合じゃないもんね。
後方支援の15人中12人が戦闘参加できなくなるんだから。
あ、ちなみの蹴り痛いよぉ? 膝裏を蹴った、ってことは関節が腫れてしばらくは歩けない、ってことだしぃ。靭帯も伸びてるし。
「でも、一回襲われた村には怖くて泊まれないわね。どこか、安全な村はないかしら。このふたりを一刻も早く、安全なところで休ませてあげたいわ」
それはそうなんだけど、花音ちゃんのメンタルどうなってんの? リアルに盗賊に襲われそうだったのに、気にしてない?
そういえば、ラポルトの時もそうだったって。あのラポルトの「潜空艦モード」。
侵略軍の陣地、敵の真っ只中に単艦で降り立つ、考えてみれば世にも恐ろしい戦法なのに、花音ちゃんはどこか涼しげに操艦してたって。あの附属中人娘3人娘が驚いてたって。
いくらあの3人娘を信用してたにしても、あたしだったら「無理!」ってなる。ゼッタイ。
結局、今から他の村を探す案は否決された。その移動の途中で魔物や山賊に出くわすリスクもあるし。
あたしたちはさっきの村に戻り、またさっきの顔役さんの家に行った。花音ちゃんがあのおじさまに金貨をバシバシ渡して、例のお屋敷の最奥部の部屋を借りれた。この村でイチバン安全そうな部屋だあ。
あ、村は無事だったよ。村のお兄さん曰く、盗賊は本当はもっと大勢なんだって。50人ならこの村の防備なら撃退できるんだって。あと、あたし達が出くわした15人は別動隊で、村の裏門を狙ってたかも、だって。
今日はこのまま、ここに泊まる。灯りを消すと、スポ中コンビ、櫻ちゃんと美羽ちゃんの寝息が聞こえてきた。秒で。おつかれさま。そして。
「ちなみさんを探す時に確認したんですけれど、ミナトウ村はここから遠くないみたいね。そこなら安全かしら? お手紙だけじゃなく、そろそろ一度お姫様に逢っておいたほうがいい頃合いね」
彼女、泉花音ちゃんがぽつりと言った。
「お金の目途も立ったし」




