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第二部 第23話 折越ちなみ あたしが魅力的すぎるから捕まえたのね?①





 こういうの「座敷牢」っていうのかなぁ。涙が出ちゃう。



 旅する途中で立ち寄った、とある村。


あたし、折越ちなみがここに閉じ込められて、何時間経ったんだろ?



 みなとの丘公園ってトコで暖斗(はると)くんと愛依(えい)ちゃんの「婚前同居(コハビテシオン)」をお祝いしたくて、「小さな結婚式(ミークロガモス)」をやってたんだよね。すっごく楽しかった。


 なのに、撤収! ってなってからしばらくして、すっごい眠くなっちゃったんだよね。



 で、なんとぉ!


 気がついたら、あたしは異世界にいて。


 まるで映画やゲームの中みたいな、剣と魔法の世界!  ――なんだけど、ゲームみたいにはサクサクいかないのね。まあそれって当たり前?


 転移した時いっしょにいた花音(かのん)ちゃんにくっついて、何とかこの世界でも生活できると思った矢先なのに。


 その花音ちゃんとはぐれちゃった。ちょっとカッコイイお兄さんに声かけられて油断したあたしが悪いんだけど。


 花音ちゃん心配してるかなあ。「はぐれた? じゃあいっしょにキミの相棒探してあげるよ?」って言われたから信じたのに、こんな3畳ひと間くらいの座敷牢に入れられて。


 信じたあたしがバカだったよぉ。


 うすうす分かってる。あたし売られちゃうんだ。異世界だもんね。警察とか、私たちのいた世界ほどカッチリお仕事してないもんね? あっちの世界だって夜の街フラフラしたら危ないのに、こっちの治安だったら完全アウトじゃん?


 なんか盗賊団とかがたまに来るらしいし。




***




「こんな時代だからこそ、オンナは強く生きなきゃね?」



 あたしは閉じ込められた部屋の真ん中で、膝を抱える。このセリフを言った人を思い出す。



 あたしが元いた世界、紘国のみなと市。


 まだ10歳くらいの頃ね。

となりの家に20歳台のキレイなお姉さんが住んでいました。明るい色の茶髪をいつもくるくるして、本当にキレイだった。


 お姉さんが「お仕事」に行くのはいつも夕方。そこから夜中までだから、あたしは寝ちゃって帰ってくるところを見たことはない。


 バッチリメイクをキメて、まつエクして赤いルージュを引いて、ヒールの高い靴でバシバシ歩いてた。――後になって知ったんだけど、お姉さんはいわゆる「夜のお仕事」してたのね。



 「夜のお仕事」――あっちの世界の私たちの国「紘国」では、そういうお仕事に就く女性って少ないんだよね。意外でしょ?


 でもそれは、この国ならではの事情があんの。オトコの数がむっちゃ少ないから、マトモな人だったらまず女性に不自由しないのね。普通のオトコ。ただそれだけで。


 だから、わざわざ「お店」に行って安くないお金払ってまでして、女の子とおしゃべりしたりお酒飲んだりしなくていいのよ。そんなことしなくても、彼氏が欲しいオンナなんてじゃんじゃんいるのがデフォだから。あの国は。


 でもまあ「キレイなお姉さんとイイ感じでお酒飲みたい」

 そういうオトコが全くゼロになるかというと、違うよね?


 そういうの好きなオトコはいるし、お金払って「お店」のキレイな子を口説きたい、って人はいるもんね。だから紘国では「そういうお店」は極端に少ないけど、その中で商売が続いてる「潰れないお店」は、超ハイレベルなのね。


 「お店の子」になんて普通じゃなれない。芸能人目指すのとほぼ同義。


 そもそもこの国は女の子がムチャクチャ多くて、彼氏も仕事も取り合いで。あぶれた女子が「じゃあしょうがない水商売でもやるか?」なんてのは50年前、ビフォーアサジタ時代の思考。


 すっごい競争率よ?



 ――で、隣のお姉さんは、その中で「お店」のお仕事をゲットしてた人。すっごい人。


 どんだけキレイで華があったか伝わった?


 あたしはよく出勤前のお姉さんの家にアソビに行って、10歳だけど「メイク」とか「オトコの落とし方」とか教えてもらったよ。どんだけスカートの丈短くするか、おへそ出した方がいいか? 目線の使い方、とかね。


 そのお姉さんの口ぐせがこうだった。



「こんな時代だからこそ、オンナは強く生きなきゃ、ね? ちなみちゃん」



 よく、振り向いてウインクしてた。結局お姉さんはあたしの知らない理由で「お店」辞めて引っ越してっちゃうんだけど――――。


 強さ――元々あたしは武道をやっていた。お姉さん家の反対側のお隣が道場だったから。でもお姉さんの言ってた「強さ」って武道の強さじゃないよね、とは小学生のあたしもわかってたよ。



 学校とかでさ。


 あたしのこのキャラがどうしても好きになれない、っていう女子はいる。男子にも引かれることもある。でもあたしは急に変われないし変わらない。このままが楽しいからこのままでいい。


「ちなみ、ラポルトでイマイチ目立てなかったぁ。やっぱりハシリュー村で敵兵ボコして愛依ちゃん助けるルートが正解だったのかなぁ」


 異世界の座敷牢。そのモルタルの天井を見上げながらそんなことを考えていた。





 この座敷牢に入れられてもう半日くらい? 右も左もわからない異世界であたし、売られちゃうのかなぁ。ま、行った先で何とかする予定だけど。


 あたしが魅力的すぎるってのも考え物よねえ。


 思わずため息が出たところで気がついた。部屋の外が何やら騒がしい。大勢の人の声がかすかに聞こえて、それがだんだん大きくなる。


「いやそんな。身受け金をいただけるんでしたら、それはそれは」


 最初に聞き取れたのはこのセリフだった。そんなおじさんの声が近づいてきて、部屋の戸が開いた。



「折越さ~ん。無事かしら?」


 戸から静かに顔をのぞかせたのは、見知った顔。泉花音(いずみかのん)ちゃんだった。


「花音ちゃぁ~ん!」


「お~よしよし。無事なようね? 探したわよ~」


「どうしてここがぁ? ちなみ、捕まってたの?」


 そう。あたしは自分の置かれた状況がわかってない。


「ここは留置場みたいなものよ。あのちなみさんに話しかけたというお兄さんは、村の見廻りをしてた人。未成年のあなたをここに保護して、相方の私を探してくれてたのよ」


 異世界はあたしが思っていたよりずっと治安がいいらしい。魔物とか魔王とかがいる世界で、人間同士が足を引っ張ってる余裕はないんだって。


 あたしは村の顔役の人の家の、このちょっと座敷牢っぽい部屋に入れられて――いや保護されていたんだって。もう。驚かさないでよ。


 ただ、治安って意味では、ヤバいコトも起こるんだって。盗賊とかが大規模に村を襲うことがあるんで、その時はマジでヤバい。あたしみたいな魅力的な子は真っ先に狙われるし、村人は殺されちゃうらしい。異世界ヒャッハー。


 盗賊団が出没した情報もあったんで、この部屋に入れてくれていたのだとか。


 そしてやっぱり。この世界でも花音ちゃんは成人(オトナ)だと思われてた。あたしの保護者? おんなじ中3で、どんだけ大人っぽいのよ!?


「花音ちゃぁん。身受け金って?」


 さっきのセリフ。ちょっと気になった。


「ああ、どうもね。そういう仕組みらしいのよ。ふふ」


 部屋から出て長い廊下をすたすたと歩きながら、彼女が説明してくれた。


 一応、あたしの身柄を保護してくれた代金というか謝礼というか。手間賃というか迷惑料というか。名目は色々あるんだけど、関係者の方にお金を払って万事解決するみたい。


「ちなみさんが無事で八方上手く収まるなら、それでいいかしら。お金ならあるわ」


 花音ちゃんはさらっという。確かにあたしと同い年とは思えない。



 異世界に転移して、しばらく経つ。


 彼女はこの世界のお金の流れを瞬時に理解して。





 秒で大金持ちになっていた。





※作者メモ


>敵兵ボコして愛依ちゃん助けるルート

前話メモの通り、ハシリュー村での「邂逅」事案は複数ルートが存在します。

そもそも愛依の精神深部にエイリア姫が存在したからこそ「無意識に家のドアの前まで来ていた」んですし。ゼノスとの因縁ですね。

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