第二部 第22話 安定のぬっくんクオリティ④
※作者メモ
作者脳内には、「ベビアサ第二部が存在しないVer.」 つまり春さんが乗艦せずに当初の予定通り姫の沢ゆめが「特別枠」として乗艦するVer.があったりします。
(そうすると第4話「右手Ⅰ②」の【異世界転移の夢】も消滅します)
暖斗くんはひめちゃんだったら、ほ乳瓶に対してどんな反応をしたでしょうか?
想像してみるのもおもしろいですね(*^▽^*)
ひめちゃんと僕、村の民家での、ふたりっきりでの昔ばなしは続く。
最初は、ラポルト乗艦中に女子に「過去女子と絡んだ話」をせがまれた件だった。
そこから、ちょっと意外な展開になった。麻妃がこっそり、僕の話(恋バナ?)をみんなに追加していて、その話はひめちゃんも知ってる、っていう。
まあでもそんなに重大事件じゃあないハズだよ。だって小学校時代に、そんな恋愛とか交際なんて、僕自身が全然してないんだから。
だから、恋バナとかって自覚は僕自身は全然ないんだけど。
女子って何でもかんでも全部恋バナにしたがるからなあ。
「小学校6年の時のことが抜けてるでしょ? ほら。ぬっくんに弟子入りした女子」
「ああえっと。いたねえ。そんな子」
言われて思い出した。え? それが恋バナ案件? ‥‥‥‥そうなるのか。
「ドローンレースにハマってたぬっくんに『私も興味ある』って弟子入りした子」
「結局、自分ではドローンも買わずに僕がやるの見てただけの子だった。よくわからなかったなあ」
「その子もね。ぬっくんのことが好きでそう言って近づいたんだよ。まわりの女子は気づいてたけどね? 自覚あった?」
ええ? とは驚かないな。うすうすは感じてた。だってドローンのことあまり興味なさそうだったし。
「私もどうなるか見てたよ。でもその子、ウソが下手っていうか、ドローンに興味ないのぬっくんにバレバレでしょ? だからあんまり会話も続かないし、すぐ師弟関係は終わったよね?」
「そだよ。気がついたらそんな感じだった。でも、なんか‥‥‥‥」
「そう。思い出した? その子、ぬっくんに高校生が読む雑誌とか見せてたでしょう? ちょっと際どい、水着の女の人の写真のとか。『こういうの興味ある?』とか言って」
「ああ。思い出した。‥‥っていうか記憶を封印してた。ドローンと関係ないし、あんなの見せられても困るだけだったから」
「困らせるのが目的だったかもよ。ドローンレースより、そっちが本命」
「えっ? やっぱり?」
「ふふっ。あれは良くなかったね~~」
彼女はひとしきり笑ってから、ぽつりと呟いた。
「‥‥‥‥‥‥でも結局、ぬっくんのハートを射止めたのは、愛依さんなのよね」
この子にそう言われると、なんだかとても申し訳ない気持ちになる。
ひめちゃん。この子は僕にとっても、他の子とは違うんだ。
「‥‥愛依とは? そうだなあ。あ、本人はね、こうなるのは『ほら穴理論によれば、医学的、心理学的に必然だった』って言ってたなあ」
「え? 愛依さんが?」
「うん」
「『ほら穴理論』?」
「それは愛依の愛読書。変な題名だよね? ‥‥ただ愛依はその本の理論の信奉者なんだ」
「へえ。愛依さんの医学理論の元になる本かあ」
「うん。その本によると、えっとね。僕がマジカルカレント後遺症候群で、首から下が動けない状態で、彼女に色々お世話をしてもらう。それを繰り返す、でしょ?」
「うんうん」
「そうすると‥‥。難しい専門用語は忘れたけど、不安な気持ちの時に優しくされたり、親しい人と同じくらいの距離感のスキンシップをしたり。それを繰り返してると、だんだん好意を抱くものなんだって。心理理学的に普通のこと。人間の脳はそういう風に出来てるんだってさ」
ひめちゃんにこんな話していいのかな? 惚気話みたいで嫌われないかな? と思ったけど、意外に理知的な反応が返ってきた。
「それ、わかるよ。芸能界でもね、売り出すアイドルは積極的にメディアに出るの。そうすると視聴者さんの目に止まった回数、その分だけ好感度が上がるんだって。ただ出ればいいんじゃなくて、感情? 自分の気持ちとかを表現したほうが印象に残るって。たぶん同じ心理だよ」
「そっか、芸能界でも色々あるんだね。医療の現場でも『患者さんに好かれた』スタッフは多いんだってさ」
異世界には電気が無い。だから魔法力を注入した道具で灯りを生み出すんだけど、基本日が落ちたら寝る。もう大分、日が落ちてしまっていた。
「麻妃、遅いな」
僕とひめちゃん、ふたりきりで随分喋った気がする。
「まきっちは大丈夫だよ。日が暮れたら向こうの家に泊まるって言ってたから」
とはひめちゃんの弁。続いてこう言われた。
「さっきの話の続きが聞きたい。女性遍歴じゃないよ。医務室での、愛依さんとの話。どんな風に仲を深めたのか。ぬっくん。医務室で何してたの?」
言われてドキリとした。そうなんだ。もし予定通りこの子がラポルトに参加していたら、どんな未来になっていたんだろ?
退艦後だったかな? あらためて乗艦候補としてのひめちゃんのデータを見て、驚いたんだ。
ひめちゃんの保持資格。
準歯科衛生士、準保育士。それに加えて。
準看護師。‥‥‥‥医療系の資格を網羅してる愛依が、まだ持っていない資格ばかり。
まるで愛依と表裏一体のような、相補的な資格の所持。
あの旅、医務室では愛依の負担が大きかったけど、本来はそうじゃなかったんだ。
「医者の役目は診断して病名をつけ、治療方針を立てること。それから必要に応じて処置、手術などをすること」だって愛依が言ってた。つまり。
戦闘で動けなくなった僕を介助する仕事は、実は医師の守備範囲じゃない。
看護師のこの子の役目だったんだ!
そうなったら? そうだったなら?
医務室で僕に寄り添っていたのは愛依じゃなくてひめちゃんだった、ってことになる。
だとしたら?
愛依と僕はくっついたかな? 愛依が言う心理学的なあれこれ、「患者が医療従事者に抱くキモチ」はあっただろうか?
そうなんだ。僕はずっと先送りしてしまっていた。ひめちゃんが僕から逃げているのをいいことに。
婚前同居の準備中に愛依が言っていた。「わたしと向き合うのであれば、同じように、姫の沢さんの気持ちにもちゃんと向き合ってあげて」って。
その言葉は、この異世界に来て現実になった。
今エイリア姫の中にある、愛依の人格。
あの世界で愛依の中にあった、エイリア姫の人格。
そう。本来は春さんの乗艦とひめちゃんの落選はイレギュラーだったんだ。愛依はそれを心中のエイリア姫の意識から感じ取っていた。
だったら? あの「ラポルト16」での旅はどんな形で、どんな結末だったのか?
僕、咲見暖斗と姫の沢ひめの、幻の物語は?
愛依が「教えてあげて」と、こくりと頷くイメージが脳をよぎった。
「愛依と医務室で、かぁ。うん。ひめちゃんにはちゃんと話すべき。そうなんだよ」
僕は「右手」を差し出す。不思議とやましい気持ちはない。
伝えよう。気がついたら手を取り合っていた、|突撃する赤ちゃんと中学生女医の顛末を。
そして。
「‥‥‥‥‥‥おいで。今から、ちゃんと話すからね。ひめちゃん」




