第二部 第21話 3人娘⑤ いや、RPGとかで仲間がだんだん増えてくのは王道だとは思うよ? でもさ。
渚さんが、そのナイスバディでぬっくんと、そしてみんなとハグしてる間。
大珠に乗った紅葉ヶ丘さんは瞑想して何やらブツブツ言ってた。
「どう? いた? 澪」
「補足したよ。光莉ちゃん」
「じゃあ、【リンク】」
子恋さんも、紅葉ヶ丘さんと【リンク】、彼女まで瞑想してブツブツ呟きだしたよ。それを姫様と春さんがガードしていた。
そして、全員で移動となった。周辺の山野に分け入り、渚さんの指示する岩に私やまきっちが順番に手を置いていく。
「あの向こう隘路になってる」
「じゃ、行きましょう」
「あ、この岩に手を置いて。もうそろそろね。じゃあこっちの岩には春さんが手を」
紅葉ヶ丘さんが地形を予言してぞろぞろと移動、子恋さんが岩を見つけ、渚さんが「誰がどの岩に手を置く」か指示をしていく。
私たちは指示通りに岩に手を置いて、数秒待つ。
一体何の儀式なのか? 姫様と春さんが粛々と従ってるのでつきあうけど。
そう言って岩に触ってまわること小一時間。気が付くと元居た場所、姫様が「この辺でいかが」って言ってた場所に戻っていた。
そこは土と岩肌が半々、一見平らな地面から大岩が顔を覗かせた場所だった。その人の足で角の取れた岩の上面にレジャーシートを敷けたり、ちょうどいい高さの岩かどに腰掛けたりができる。木々の隙間から下界の景色も見れて、お弁当食べるにはもってこいの場所だよ。
――――あ、私別に、お弁当の事ばっか考えてるんじゃないからね? ただちょうど休憩にちょうどいい岩場だなあって――――。
「じゃあ、皆さん、お弁当にしましょう」
「はッ! 姫様」
軽くコケそうになった。
***
「いいのですよ。魔力回復には個人差がありますし、寝るか休むのが最善ですから」
「へ~。ちなみに姫様の魔力総量が多いのは? 王族だから?」
「そう、やはり血脈でしょうか? あなた方の世界でいう『遺伝』ですね」
「なるほど~」
魔法教室 in 異世界。おにぎりをほおばりながら、姫様は上品に言われた。
と、談義も終わり、空になったお弁当を片付ける頃に。
ズゴオォン‥‥! ドカァン‥‥!
何か地響きが聞こえてきた。ぬっくんが首を傾げた。
「なんか‥‥向こうから聞こえてくるんだけど?」
姫様と春さん、3人娘は呑気にお茶を飲んでいる。
「ああ、ごめんなさい。説明してなかったわ。春?」
という姫様のセリフを合図に、春さんの解説が始まった。
「まず、咲見さん、岸尾さん、ゆめさん。ごめんなさい。この附属中お三方の能力が国家機密レベルなので説明を躊躇しておりました。――でも、あなた方なら話しても問題ないでしょう」
ああ、そんな大仰な能力なの?
「今回、カミヒラマ国との軍事同盟を正式に締結する運びとなりましたので、この附属中3人娘の方々のお力を借りる事が可能となりました」
なるほど。それで3人の能力で、ギルドの高難度依頼もこなせる算段になった、と。
「うん。ここからは私たちで3人のスキルを解説しようか? まず澪から」
子恋さんが後を引き取った。
「まず澪の固有スキルは【8番から8番】。周囲の地形を把握する。精密な地形図は作戦立案に必須だね。把握した地形内での物体レーダーも兼ねている。そして陽葵の固有スキル【即時埋入】。これはさっきの岩とかに、陽葵が作り出した武装をくっつけて仕込む能力なんだ」
「あ、じゃあさっき僕らがやってたのは」
「無断でやってごめんね。私が武器を作って、暖斗くん達の魔力で岩に仕込んでたのよ」
それで気がついた。
「あ! じゃあさっきのハグ! 【リンク】は!?」
「そう。私ひとりでもできるけど、味方と【リンク】して武器を仕込む能力を貸し出す。その人の魔力を借りて、各所に武器を仕込む。そのほうが、たくさん罠を仕掛けられるのよ」
「そして私、子恋光莉の能力が【君の名は】だよ。魔物の【ステータス】を読み取ったりするのさ。うん。それで作戦や対策を立てれる」
「ほえ~。なんか子恋さんのためにある能力だわ」
まきっちは感心した様子だ。3人とも軍人属性なのか、すごく戦闘向きなスキルだね。
「そしてこの【リンク】。非常にユニークな能力だよね。人とつながったり能力の貸し借りができてさ」
「あ、俺わかったかも。3人娘が【リンク】したら‥‥‥‥!!」
「おお。暖斗くんご名答。そう。私が魔物のステータスや行動パターンを読み取り」
「私が地形を読み取って」
「私が罠を張る、と」
子恋さん、渚さん、紅葉ヶ丘さんが順番に手順を披露。
「もうそれだけで勝負がつくヤツだ。ああそうだ。この前の砦の時だって」
「うん。異世界に来てだいぶ勘がいいね。暖斗くん」
――――そっか! 附属中3人娘は砦に籠城する前に兵士のみなさんと「握手会」をした。
渚さんもそこにいたから、全員に【リンク】で彼女の能力【即時埋入】を貸し出す。武装を仕込んで罠を張る能力を。借りた兵士さんそれぞれが自前の魔力で、敵の退路各所に罠を張って。
さっきの私たちも、同じことしてたはず。
その前準備として、紅葉ヶ丘さんの【8番から8番】で地形を精密に読み、子恋さんの【君の名は】で敵の能力を調べておいたら完璧。あとは適切に罠を張るだけ。
「侵入経路や退路は、戦術屋の私が十八番だしね~」
大人っぽく髪をかき上げる渚さん。これ以上罠を張る適役がいるだろうか。
「あ~~コレ。敵に同情しちゃういつものヤツだ‥‥‥‥」
ぽつりとぬっくんがしゃべってた。その間もずっと。
ドゴォォン! ズガァン!
と物音はしていた。‥‥けど、大分音が近づいてきた? 魔獣の悲鳴も混ざってきたような?
「そろそろですね、時間通り。私たちも鍛錬の成果を見せましょう。暖斗さん、岸尾さん、それにゆめさんはわたしの側に。春は前衛を」
「はッ! 姫様!」
お。春さんいつものいい返事。‥‥だけどわたしまで後衛? いいのかな?
と思ったら、向こうから巨大ミミズみたいのが飛び出てきた! でっかい! 電車のトンネルを塞ぐくらいの太さだよ!
「ほい」
その声と同時に山側の岩壁一面から一斉に光の刃が飛び出して、ミミズを串刺しにした。ものすごく巨大な魔獣、直径で10メートルはありそうなのを、同じスケール感の十数本の光のトゲトゲが壁から生えて動きを止めている。
「ああ~♪ エイリア姫の【大魔力】! 大仕掛けができて助かるわ♪」
渚さんが両手を合わせてくねくねして。
「うん」 「来たね」
子恋さんと紅葉ヶ丘さんも全然慌てずに、魔獣に魔法攻撃をしてる。
ああ、飛び出てきたんじゃなくて、渚さんの罠でここに誘導してたんだ最初から。だってミミズ的な魔獣、かなり満身創痍だもん。
だから春さんがひとり壁役でも、ぜんぜんOKか。
そして。
わたし含めた3人。「小屋敷小トリオ」が魔法を発動する。こうなったら附属中3人娘に負けてられないよ。そして姫様との魔法力接続で威力マシマシ!
「【リンク】、【大魔力】」
わたしとまきっちの火魔法とぬっくんの光魔法が膨れ上がって。
「おお、すごいね。これがエイリア姫の【大魔力】!」
「ココの罠にもお借りしました♪」
そのまま魔獣に放たれる!
ぎゃおおおおぉぉぉぉん!!
ギルドの討伐対象の巨大魔獣さんは、こうして魔石になったのでした。
ぬっくんの言葉、「敵がかわいそうになるヤツ」。
心と身体で理解したよ。はい。




