第二部 第21話 3人娘④ いや、RPGとかで仲間がだんだん増えてくのは王道だとは思うよ? でもさ。
あくる日。朝ごはんの後、浜さんと桃山さんがザイガ村へ出立した。
昨日の夜、盗み聞きした疑惑でぬっくんと揉めてたけど――?
「色々ありがとね。暖斗くん」
「ううん。僕で良ければまた相談に乗るよ」
固い握手をするふたり。実はあの後、彼女は結局困りごとを全部彼に相談したのでした。熱烈なファンとアンチみたいのが来ちゃってたので、その対処。まあ、相談すれば軍とかが動いてくれるみたいだしね。
彼女の家はいわゆる通い婚家でひとり娘。病弱なお母さんがいるので、母娘でそういう人たちへの対処に困っていたそうだ。気の毒に。
昇る朝日に映る、手をつなぐふたりのシルエット――って、ちょっと? 手つなぎ過ぎじゃない? 彼女はラポルト16の中でぬっくんと一番相性がいい子。‥‥‥‥と見せかけて実は、なんと350万人にひとりくらいに好相性の子。
350万人、って、みなと市のある「はたやま県」、その東西にある「ゆづ県」「とうみ県」、3県合わせたくらいの人口だよ。
つまり、私なんかよりずっと相性が良い。検査の数字上は。
「ゲノムシーケンス解析型N項判例分類式相性診断」だっけ? 紘国の遺伝子学なめちゃダメだよ。占いとかよりガチで当たるんだから。
スピリチュアル好き女子を黙らすくらい、その人の遺伝子が「相補的にどんなDNAや免疫システムをパートナーに求めているか?」を言い当ててしまう。
私がふたりを見て固まってたらまきっちが来た。
「じゃあね桃山さん。次会う時は魔王討伐で全員集合かな?」
なんか妙に雰囲気があったぬっくんと桃山さんがやっと離れたよ。
おおわが友よグッジョブ! 昨日は友達止めようか迷ってすまなかったよ。
「ひ、ひめさん! また!」
浜さんとも熱いお別れをした。彼女が私に向ける視線は完全に「モデル 咲見ひめ」へのそれ。あっちの世界に戻れたら、私もちゃんとしないと、と思う。
***
「では30分後にわたし達も」
エイリア姫が品よく言う。そうなんです。さいはて中コンビに割と気前良く路銀を渡して、昨日は3人娘のために気前良く食事を外注したから、討伐したりして稼いだお金が目減りしたのです。
でもいいのかな? 3人娘にも出張ってもらうなんて。
「うん。我々も今後の為に、スキルの運用を見せておきたいんだよ。うん」
子恋さんがしきりに頷き、その横で春さんも。
「3人のスキルはレアな能力です。あちらの世界の方がこちらに来ると、魔法への対応に苦労する割にすごいスキル持ってたりしますから」
キタ! そういう設定。‥‥‥‥ほら私たちって、魔王討伐の為にあっちから呼ばれたワケだし。
ご都合展開じゃあないよ。異世界から元の世界に転移した人が、あっちでファンタジー作品を書き始めたのが「剣と魔法の物語」の始まりだって説、私は一理あると思う。
私はまきっちと村のお弁当屋さんへ行く。3人住みの家に7人お客が来た時点で、台所でごはんを用意するのは諦めたよ。食器も無いし。だから昨夜は外食のデリバリー頼んだし、今日のお昼も買い弁です。まあ、コレが散財の理由でもあるんだけど。
その間に春さんがギルドへ行って討伐依頼の受注手続き。姫様と3人娘はお留守番&戦略会議だって。
「こら澪。ちゃんと歩きなさい」
「ヤダ~。だるい~」
ふわふわと浮く大珠に乗って、ぐでっとする紅葉ヶ丘さんを渚さんが叱る。
ラポルトでは「紅葉ヶ丘さんを見かけたらレア」だとは聞いたけど、なるほどこういう人か‥‥! (設定が座敷わらし過ぎる!)
あの戦役の末期。旗を立てて敵DMTに囲まれた愛依さんを救うべく、電脳戦闘室から颯爽と飛び出した彼女。愛機に乗るべく大空にその身を躍らせて――。
って聞いたけど。
急に走ったから、後部デッキからジャンプした時に両足攣ってたみたいね。空中で。
そしてクエストに出発。
昨日とは真逆方面へ村から2時間。昨日の森とは違って、岩山? ゴツゴツとした大岩があって、所々に草木が生えてる山に着いた。高さは200mくらいかな? 急傾斜を登って山の中腹くらいまで来た。この辺までくると、森も深くなっていた。
いや~。この世界に来てから歩きは鍛えられたよね。徒歩で世界を旅してるんだから。Vチューバーさんの企画みたいなコトしてる。
「この辺でいかが?」
「うん。そうだね」
おお? 姫様が子恋さんに指示を仰いだ? 何なに? スゴイ人だとは聞いてたけど、やっぱりそうなのね。――っとよそ見をしてたら、唐突に渚さんにハグされた。
「姫の沢さん。【リンク】!」
「わっ!? わわっ? はい!?」
私は正面から捕獲され、渚さんと見つめ合う。【リンク】は人と人のキズナの行為。目を合わせた方がスキルの伝導効率が高いそうだ。しかも、この人!
「そして、こうしてカラダを密着させた方がさらに良いのよ! 電気と一緒!」
彼女はぬっくんにも抱きついていた。ああ~~!!
‥‥‥‥さっきの抱擁でわかった。渚さんはものすごくナイスバディ。私がほれぼれするくらい。
だから困る。ぬっくんにはくっつかないで欲しい! それはヤバいよ!!
「陽葵? まだ?」
「まだよ。暖斗くん意外と容量あるね。さすが勇者」
なんの会話かは知らないけどもうやめて。ぬっくんがそっち方面の扉を開けちゃう前に!
「そろそろかな?」
「はい終わり。じゃね。暖斗くん」
「え? う、うん」
ぬっくんにしてた抱擁を解き、大物外人女優みたいに悠々と去ると、まきっちにも抱きつく渚さん。
暖斗くんは、突然のお色気攻撃にぽかんと硬直していて。
‥‥‥‥私はひとり唇をかみしめて、涙。




