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第二部 第21話 3人娘② いや、RPGとかで仲間がだんだん増えてくのは王道だとは思うよ? でもさ。






 まきっちと浜さんに話しかけられ、ガールズトークに突入! ‥‥かと思いきや。


「ひひひ。コレやっとかないと。コレ」


 まきっちがぬっくんの寝顔をイジりだした。鼻をつまんだりおとがいを撫でたり。さらには、顔にまくらを押し付けたり。


「う~。む~~」


 ぬっくんは顔を振って回避。苦しそうな寝顔。


「なんだ。タヌキ寝入りじゃあないのかぁ」


 ちょっと!? 寝ている人にあんまりじゃあ? 鬼!?


 でも知ってる。まきっちは私と出逢った小学校時代よりももっと前、幼年教育舎の頃から自分より先に寝たら必ずいたずらをよくしてて。私はそれを隣で見てきた。

ぬっくんとふたりで、どっちが先に寝落ちするかよく勝負してたっけ。‥‥いまだにやってんのコレ!?


 そしてそれは9割方まきっちが勝利して。――からの、彼へのイタズラ行為。ぬっくん起こさないようにしながらイジリまくって遊ぶチキンレース。


 そして本当に起こしてしまったりする。さすがにぬっくんが怒るので、まきっちは平謝り。というここまでがワンセット。


 誰にでも物おじせず無敵感のある彼女だけど、怒ったぬっくんと梅園家のひよりさんには、何故か頭が上がらないんだよね。


「ひっひっひ。ほら。浜さんもやったら。ひめっちも久しぶりだろ? はっはっは」


 腹の底からの笑い声を殺しながら、まきっちは指2本で鼻腔を塞ぐ。やりすぎだよ~!


「わ、私を共犯にしようとしてるし」

「そうよう。私だって小学校以来だよ~。てか見てただけだし」



 ‥‥‥‥とか言いつつ控え目だけどぬっくんをイジらせてもらったよ。頭を撫でたりほっぺたつんつんしたくらいだけど?


 浜さんと私、くすくす笑いを口に溜めながらぬっくんをイジる。やだこれ楽しい。だってぬっくんの寝顔って本当に邪気が無くて赤ちゃんみたいなんだもん。


 浜さんも楽しそうだった。それを離れて見つめる桃山さんの、優しい視線があった。



 訊いてみようか? あのこと。‥‥‥‥今なら訊ける気がする。



「あの、あのさ。浜さんってさ。体験乗艦の時、‥‥ぬっくん推しだったんだよね?」


 そういえば思い出した。私の代わりに火に飛び込もうとしてたよ。この子。



「‥‥そ、それは過去形だし‥‥‥‥」


「え~~。知りたい。ね? 私もコスメ情報全出しするから、教えてよ?」


「あ~もう。傍観する予定だったけど、入れて入れて♪」


 ついに桃山さんも輪に加わった。楽しい。なんかあれだね。やっぱり修学旅行の夜だね。


「『ふれあい体験乗艦』中ってさあ。やっぱ羽目外せなかったじゃん? なんだかんだで」



 とはまきっちの弁。


 公共のイベントで。

 自分たちは選抜された中学生の代表で。

 戦艦に乗せてもらって運用して。

 大人と連絡つかなくなって。

 子供だけで全部何とかしなくちゃならなくなって。

 実際に本物の戦争が始まっちゃって。



 うん。わかるよ。艦内の様子はさんざんまきっちから聞いたけど、確かに心からくつろげたり、はしゃいだりできないよね? 最後の一線で。


 それよりは今夜の方が気楽な夜だよ。マジカルカレント後遺症候群で休んでるパイロットだったら、うっかり寝顔にいたずらできない。こんな風に。あはは。



「は、暖斗くんはもう憶えてないみたいだったけど‥‥」


 浜さんが例の話を語りだした。――こういう時の女子の恋バナって「前置きから本題、その後の顛末」まで時系列で、しかもそのすべてに「その時の私のキモチ」がくっつくから、ものすごい長話になったりするけど。


 そんな感じで「まず私の恋についての遍歴と恋愛観は~」を予想してたら、浜さんは簡潔だった。キャラだね。普通なら「それで結論は?」って男子に呆れ顔で中断されるのまでがデフォ。


「‥‥さ、3回目の研修の時。‥‥暖斗くんと一緒の班になった。課題が出て、その解決策をグループで考えて発表するヤツだった」


 そういう研修を繰り返して、適性を見てたんだよね。運営は。


「わ、私はこの通り、ちょっと吃音があって、言葉も聞き取りずらくて、男子が‥‥‥‥」


 彼女は桃山さんと同じく、「さいはて中」。男子がいない、事実上女子校状態の中学出身だ。研修はみなと市の中学生全体が集まってるから当然男女混合。男子と同じ班だったりするのはもう、それだけで緊張、気が重かったらしい。


「発表が終わったあと、だ、男子にバカにされた私はへこんだ。中学生になって、大人っぽくなった男子と話してないし、怖いし。ろ、廊下でひとり泣いてたら」


「あ~。私は自分の発表の順番近くて、動けなかったんだよね」


 そっか。当然桃山さんは気づいてたか。


「‥‥‥‥そしたら、は、暖斗くんが来て。『大丈夫。良かったよ?』って。同じ班の間はずっとフォローしてくれて」


 まきっちが両腕を頭の後ろに組んだ。

 

「あ~それな。ぬっくん無自覚に女子に親切だから。それって本人曰く『僕がそうしないとなんかイヤだから』なんだよな~」


「わかる。私も背が伸びた時に男子に『首長竜~』ってディスられて。ぬっくんが助けてくれたし」


「あれはまあさ。時は小学五年。ひめっちが日に日にモデル体型になってくのを男子が横目でじろじろ見ていて、絡みたくて絡みに来てたんだけどな?」


「それは逆にうらやましい。ど、どうしたら手足がそんなに長く?」

「そうよねえ。何? ここでモデル自慢? 姫の沢さん?」


「ええ~~そんな!?」


 みんなで笑いあって、ぬっくんが寝てるのを思い出して声をひそめる。‥‥でもまだ楽しいから、押さえた手の隙間から笑みが漏れてしまうよ。



「やっぱぬっくんだよなあ」



 感慨深げに言うまきっちを合図に、みんなで彼の無垢な寝顔を見た。


 あの「ふれあい体験乗艦」の時も女子の間で話題になったんだよね? 「咲見暖斗くんの寝顔が‥‥」って。


 ああうん。そうだよ。

 この人の無垢な寝顔は、小学校の時から変わってないんだよ。全然。


 みんなで覗き込んで、また笑った。



 ねえ何で? 不思議だよ。



 この赤ちゃん見てると、それだけでみんな優しい気持ちになれるんだよ。





 ねえ。何で?






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