第二部 第20話 うわさ話③ 暗黒微笑のあの黒メガネさんは異世界でも、な件だよ。
「僕が持つよ。ひめちゃん」
討伐遠征の帰り。ぬっくんが声をかけてくれた。
あの「石板魔物」を倒したら、バスケットボールより大きい魔石が出てきて、ちょっと重かったんだよね。
そしたら、夢のようなシチュ。ぬっくんが私の魔石を持ってくれるって。やっぱり想い人にこうやって優しくされるとヤバいよね。
あれから私たちは7人パーティで洞窟周辺で狩りまくりました。元々村からちょっと離れたエリアで、出る魔物も強かったし、取れる魔石も大き目だし。石板魔物が居着いてからは他の人が寄りつかなかったので、魔物も増えていたのでした。
桃山さんが後衛からの援護射撃、守備専門の浜さんが前衛に加わって、パーティはつよつよだった。
桃山さんって視野が広いというか、「こういう援護が欲しい」って時にタイムリーにそれをやってくれるんだよね。ああ、この子嫁にしたい。こんな人が家族にいたら、人間関係も家事も楽だろうなあって。彼女の旦那さんになる人が羨ましいよ。
対して浜さんは矛盾のカタマリだった。盾のみ、防御の専門家なのにえげつないシールドチャージをしまくってたよ。まあ、前衛メンバーの私と春さんが万能タイプだからってのもあったかもだけど。「攻める盾役」ってどうなの? 盾で殴られた魔物の「なんで!?」って表情が忘れられない‥‥‥‥。
そして最後衛のエイリア姫。今回はさすがに回復役だったり、強化魔法をかけてくれたりしてた。うすうすはわかってます。姫様が毎回やればもっと戦闘は楽なハズなんだけど、わざと私たちを鍛えてくれようとしてるんだよね。レベリングってヤツね。
ああ、仲谷さんが「姫様は王族です。本来このように前線に出ることはないのですよ?」的な圧を出すこともあるけど。
「ひめの巨大光球【ライトニングボール】が魔物倒しちゃったし、ここらでイッコ自分の見せ場を作ってんじゃね?」
とはまきっちの弁。まさかそんな。あはは。
と、いうワケで、魔石はかなり大量だった。普通狩れないような大きな魔石ばかりを、みんなで抱えての帰還。だから重い魔石を持ってくれたぬっくんの優しさが余計にうれしいんだけど、これギルドに持ってったら「うわさ話」になっちゃうよ。家に泥棒が来ないか心配になってきた。まあ、留守宅は姫様の【施錠】の魔法かけてあるからまず大丈夫なんだけどね。
「ね? 姫さん。あのぬっくんが持ってる魔石とかさ、姫さんの【空間収納】で持ってけるんじゃね~の?」
「岸尾さん。あまり姫様の【空間収納】は便利道具として使いたくはないのです。モノを入れた分、魔力が使われます。大量の魔力行使は、政敵の【探知】に引っかかる可能性が」
「ああ。姫さんは潜伏中の身だった」
「ふふ。それに。このほうが良いのではないですか? あなたも?」
「そうきたか☆」
‥‥‥‥え? 何か言った? 姫様とまきっち?
そして、歩いていると思い出すさっきの現象。私の魔法、なんであんなに威力があったんだろ? ぬっくん→私の【リンク】はまるで、姫様のそれみたいに光球が倍加した。
ぬっくんが姫様の【大魔力】の能力を? あ、でも【リンク】で能力の又貸しはできないんだよね?
それとも、近くにいた姫様の中に眠る愛依さんとの「絆」がそうさせたの?
春さんが言ってた。【リンク】の上位互換が【リンケージ】、さらにその上もあるんだって。
そのレベルになるともう体に触れなくても能力共有ができるとか。
ふたりの心が強くつながってるからこんな事が起こる、とか? 訊くのはちょっと恐いな。
「どした?」
後ろからまきっちが、がばっと肩に手を回してきた。お見通しだ。
「大丈夫。もう涙も枯れたし、前へ進むだけだから」
「うん。そっか」
それだけ言って彼女は離れていった。まきっち――岸尾麻妃はバランサー。「ふれあい体験乗艦」の時も「男子ひとり、女子15人の閉鎖環境で咲見暖斗が孤立しないように」運営から指示をもらってたって。こっそり教えてくれた。
本人はケロッと言ってたけど、同じ幼馴染でも私には無理。女子たちとたったひとりの男子じゃあ、絶対何か起こるよね? 普通。
実際、ライドヒさんだっけ? 他の男子が乗艦したら、秒で色々揉めたらしいし。
そうなる前に「調整」を入れて、ぬっくんがどんな人でどんな考えで行動してるかを、女子に伝播させる役割だったとか。
そして、ぬっくんと愛依さんの婚前同居が決まる前後も、私に寄り添ってくれた。私が一歩を踏み出せないばかりに起こった結末。全部私の行動の結果なんだけど、彼女は上手に状況を紐解いて、しっかり説明してくれた。
おかげで私はゆっくり少しずつ現実を受け入れながら、ふたりにちゃんと向き合うことができるようになった。
こんな素敵な親友いないよ。
私は彼女に報いるために、涙を止めた。
第一席が埋まっても大丈夫。まだ3席ある! それで諦めなくてもいいのが「重婚制度」の良いところ!
単婚世代のひいおばあちゃんが聞いたら、ゼッタイ引き笑いしそうだけどね。
***
大荷物を抱えたまま、今回は全員でギルドに行く。魔石を換金して「ああ、やっと身が軽くなった~~」と喜ぶのも束の間、ギルドの人に教えてもらった。
留守中のぬっくんハウスに、泥棒が入ったらしい。
「え? 泥棒!?」
声を上げると、後ろで姫様が笑っていた。
「大丈夫。私の防御結界に侵入者がいただけ。貴重品はほら、こちらですし」
見れば、ぬっくんもまきっちもリラックスしてる。大丈夫ならいいけど。
彼女の手の前に光る魔法陣が浮かび上がる。魔法空間収納、アイテムボックスだ。これを運用するにはそこそこ魔力を常時消費するし、姫様くらいしか使えないけど、それにしても便利な能力。
「しっかしゲームみたいだな~」
まきっちがそう言うと仲谷さんが反応した。
「いえ。むしろあちらの世界のゲームこそ、こちらの世界みたい、なんですよ? 行った私が驚いたものです。超有名な国民的ゲームでも、持ち物袋にホーリーランス、オーガシールドとかが普通に武器で入ってますね?」
「うん。そだね。魔物が落としたりするし。槍が2、3本入ってたりするよね」
ぬっくんが腕組みをして うんうん、と返す。
「そうですよね。武器防具やブロンズ像なども平気で入ります。そんな状況ザラです。でもどうですか? ゆめさん。金属製の武器防具を余分に持ったまま、戦えますか?」
え? 私に振られた。正直に答える。「そんなの無理よ。重いもん」
実際ここで戦ってきたからこそ実感してる。
「ですよね。ですが何らかの魔法空間収納をしているなら可能です。紘国でそういったゲームを楽しんでいる人々も、この辺り指摘をしないご様子。うすうす我らの世界の存在を認知しているからではないですか?」
う~~ん。さっきも言ってた「紘国のファンタジー作品はこの世界の人の知識、記憶があちらの世界に逆輸入したから説」ね。
それはない。あれはゲームだからみんなスルーしてただけ、と言いたい所だけど、100%否定もできないよ。でも、まさかね。
そんな、他愛ない話をしていると、ギルドで魔石換金を終えた私たちはぬっくんハウスに到着していた。――あれ? 玄関の前に人がいる。村長さんと?
私たちと同い年くらいの女の子が3人。
みんなカミヒラマ国の軍服を着ている。え?
村長さんと主に話をしていた3人の先頭の子が、こちらを見て会釈をした。
オーソドックスな黒縁メガネに、何か企んでそうな暗黒微笑の、知的な顔立ち。
知ってる。この人たち。
附属中3人娘だ。




