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第二部 第19話 茶飲み話だよ。みんな集まれ。Ⅱ⑥

 





「ふ~~。終わった終わった」


 ぬっくんとまきっちが外から戻って来た。洗濯物干しが終わったんだ。



「や~。‥‥ん? どした? みんな妙に笑顔で?」


 まきっちが部屋の空気を感知。


「え? そう? 洗濯お疲れ様。何か飲む? 暖斗くんも」


「あ、ウチはお茶でいいかな~☆」

「あ、うん。悪いね桃山さん。じゃあ‥‥」

「って! 桃山さんお客じゃん? いいよウチやるよ座ってなって」



 桃山さんが機転を利かせて話題を変えることに成功。さすが気くばり女子。



 まきっちが立ったままお茶を用意して、全員で談笑してたんだけど。




 不意にぬっくんが動いた。


 エイリア姫様の前に行って、座りなおすぬっくん。姫様の顔をそっと覗き込む。


「‥‥‥‥どうしたの?」

「え? 暖斗さん。私が何か?」


「‥‥うん‥‥ちょっと悲しそうな目に見えたから。どうしたの?」

「いえいえ。何でもないですよ? あら? 私が愛依さんに見えたのかしら。うふふ」



 そっか。


 エイリア姫様と愛依さんにとって、ゼノス氏との記憶は苦い思い出。「傷は癒えた」とは言ってもいい気分にはならないよね。


 そして。


 ぬっくんはそれを感じ取った。‥‥‥‥たぶんそう。



 たぶん私のこの予想は当たっている。彼は優しいから。


 エイリア姫、そして中にいる愛依さんから漏れ出る女の子のキモチを、汲み取ったんだよ。


 あの日のまま。私に板チョコ(テオブロマ)をくれた、優しい彼のままだよ。



 でも、ぬっくんは、次のセリフで、ちょっと意外なことを言った。さっきの姫様のセリフへの返答だったんだけど。




「そこはちょっと、違うかな」


 静かに、でもきっぱりと。


「『エイリア姫様が愛依に見えた』んじゃなくて。逆だよ」

「え? 暖斗さん?」


「この瞳()。『愛依がエイリア姫様に見えたことがある』のを思い出したんだよ」



 うん? どゆこと? 他のみんなも思わず注視した。


「えっと。まほろ市民病院の裏手で話した時。最終決戦の前だっけ? ‥‥あとはもうちょい前。ハシリュー村に愛依を送り出す時あたりかな? 食堂だったと思うけど?」


「あの旅。ラポルトに乗ってた時のこと? 暖斗くん」


「そう。庭から少し見えたんだ。その【リンク】ってヤツをやってる姫様と仲谷さんが。僕が魔法を外しそうな時にも使ってたよね? その【リンク】。瞳が赤くなるのはその時知った。‥‥で、既視感あったんだ」


「つまり、ウチらがラポルト乗ってる時の、【リンク】を使用してる愛依、と見せかけて?」



「そう。エイリア姫。食堂や病院裏で逢ってたのは、愛依じゃなくて中から出てきたエイリア姫だったんだよね? あの時愛依の瞳は赤く輝いて見えて、夕日や非常灯の反射だと思ってたんだけど、違った」



 エイリア姫が洗い物を終了する。ゆっくりと手を拭うと、綺麗な所作でぬっくんの前に正座した。


「申し訳ございません。ご賢察の通り。(やよい)から、そしてあなたから【マジカルカレント】をお借りするために、愛依さんの意識下から浮上、入れ替わっておりました」


「あ、いや。怒ってないし逆にありがとうというか」



 ぬっくんは穏やかに微笑んでた。


 そっか。愛依さんと姫様の関係はこの異世界に来てから知ったんだもんね。そしてあの旅の中で、ゼノス氏と対峙した時以外にも「姫様」は出現していた、と。


 【リンク】発動時の赤い瞳で、ぬっくんには思い当たる記憶が呼び起された、と。



 その後、あらためて仲谷さんが【リンク】のことをぬっくんまきっちに説明。あ、戦争の犠牲者ゼロの裏話は、姫様がもうしていたそうです。そっか。この三人で住んでたんだもんね。



 説明が終わるまで私はお茶飲んで、桃山さんと浜さんはハグしあってた。で、それを見てたまきっちが。


「なんかさいはて中コンビ、いつもより5割増しでくっついてんだけど?」


「「えへへ~~。【リンク】の練習で~す」」 「「ね~~」」



 満面の笑顔で顔を見合わせるふたり。


 そんな光景で笑顔になる予定だったんだけど? 私。




 あっ!!



 べったりくっつく浜さん桃山さん、そして、ぬっくんの顔を見て唐突に思いついてしまった!



【リンク】の条件!!


 脳裏をよぎる春さんの言葉。はっと顔を上げる。



 あの【リンク】って能力。‥‥相手と絆? キモチ? だっけ?



 それが通じてるほど、借りた魔法の威力に反映されるんだよね? オリジナルの火力に近づく。



 やば! つまり!?


 ‥‥‥‥ぬっくんが私と【リンク】したら? 貸した魔法の威力次第で「『ぬっくんの私へのキモチ』が可視化できちゃう」ってコト!!?? きゃあああ!!


 ぬっくんに見つめられたエイリア姫が、太ももの上、そっと重ねられた彼の「右手」の下の。


 自らの手を「ひょっ」って引っ込めた。



 深呼吸をして、居ずまいを正しながら彼女は、私に軽く微笑んで「ん?」と小首をかしげてから。



「ではみなさん、午後の討伐までお寛ぎください。‥‥そうですね。折角ですから魔物相手に各々(おのおの)の【リンク】を試してみてもいいかもしれません」


 と微笑んだ。



 え? 試すの? 【リンク】!? 今日!?





 どどど、どうしよ?






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