第二部 第19話 茶飲み話だよ。みんな集まれ。Ⅱ④
ぬっくんの「マジカルカレント」は。
この異世界の魔法? 【固有スキル】!?
確かに「マジカル」って魔法っぽい名前だけれど? ‥‥‥‥それにもうひとつ!!
あ~びっくりした。「ラポルト16の栄光」それがまさか!?
「敵味方、民間人すべてに於いて、死者ゼロでの戦争終結」
この人類史上に残る偉業が成立した舞台裏には、このエイリア姫と仲谷さんの暗躍? があったなんて。‥‥‥‥言葉が出ない。
「あっと、でもさあ、話戻るけど。私たちが成し遂げた『犠牲者ゼロの戦争』。結果から見たらやっぱりエイリア姫様と仲谷さん。居てくれて結果オーライなんじゃない?」
みんな絶句してたからね。気づかい女子の桃山さんが場を持たそうとしてくれたよ。
「何だかんだで、ハ、ハシリュー村の逢初さんを敵兵の魔の手から守ってくれたし」
相棒の浜さんも追従してくれた。
そうだよね。エイリア姫が逢初さんの中にいたからこそ、敵兵の前で無防備になっても、間一髪で切り抜けられたワケだしね。
そうだよ。ここ大切なところだよ。うん。
「ああ、その点に関しては」
仲谷さんが、すっと手を挙げた。‥‥この人几帳面だから、また何か種明かしする気配だよ。
「そもそも、あのハシリュー村に小Botを引き入れたのは『ゼノス王子の意識に影響された』ツヌ国将校ゼノス氏。あの家に行くのが目的でした。そこに偶然ながら近づいてしまった『姫様の内在意識に影響された』逢初さん」
んん?
「逢初さんは、姫様の意識の影響が無ければ、あの家に近づくことは決してありませんでした。ご本人も『吸い寄せられるように、気がついたら家のドアの前に立っていた』みたいなことをおっしゃっていましたよね?」
「そ、そうだよ! 逢初さんは『アイゾメ・レポート』でそんな感じで書いてたよ!」
浜さんが叫んだ後で、姫様が補足。
「申し訳ございません。わたしとゼノス王子の、この世界での因縁、因果律がそうさせてしまったのでしょう。あの時、戦場での経験豊富な渚さん。武術の達人の折越さんが逢初さんの両脇にいました。そして渚さんとわたし、愛依さんは手をつないでいた。通常ならお二方のどちらかが、わたしを止めることができたはずですが、しかし」
そこまで話していったん言葉を切る姫様。優雅な所作でお茶をひとくち。
「わたしの意識のほうが勝ってしまいました。内なるわたしの意識が無ければ、逢初さんは決してあの家に近づこうとはしなかったはずです。そうすれば、敵兵ゼノス氏との邂逅もありませんでしたし、彼によってその心身が傷つけられることも無かった。『通常ルート』で物語は進行し、彼女がツヌ国に囚われることも、暖斗さんとゼノス氏の決戦もありませんでした。そう。全ては『あの家』に近づいたことから分岐したのです」
すうぅ‥‥、と息を吸った。
「‥‥‥‥『あの家』。アピドーハ・ミタハ女王の家に」
「‥‥‥‥?」
「それって? あのラポルトが拾った村の女の子?」
「アピちゃんのフルネーム‥‥?」
ぎゃ~~!!
もう! なに!?
この「茶飲み話」。
さっきから、ぜんぜん雑談とかじゃない。重要な分岐点とか「実は‥‥!」みたいな話ばっかり!
情報多すぎなんだけど!!!
***
「そうですね。おおよそ10の分岐がありました。あのハシリュー村の。逢初愛依さんと敵兵ゼノス氏の邂逅には」
異世界転移組。私と桃山さん、浜さんが絶句する中、姫様と仲谷さんは割と淡々と種明かしを進める。
「‥‥‥‥そうですね。今ちょうど麻妃さんと暖斗さんが外で物干しをしています。おふたりには悪いですが、好都合です」
「そうですね、姫様。10の分岐、すべてを言うとなると、特に咲見さんにはつらいかと」
ちょ! ちょっと待って!? どういうこと!?
「待って! 私、ぬっくんもまきっちも大切な親友だよ!? 『分岐』ってタイムリープとかがあるSFとかの『ありえたかもしれない未来』のことでしょ? ふたりが、ぬっくんが傷つくなら言わないで!!」
そんな私に、エイリア姫が胸に手を当てて、そっとほほえんで。
「‥‥ご心配なく。おっしゃる通り、もうそんな未来は回避しています。‥‥そして、この話をして欲しいと望んでいるのは、他ならぬ、わたしの中にいる愛依さんの意識なのです」
ええ!? どゆこと!?!?
「この世界で云うところの因果律、あなた方の世界の科学では『遺伝子検査での相性』と言い換えても間違いではないですが」
「うん」
「よく私たちって、意中の殿方を『運命の人』っていいますよね?」
「そうね」
桃山さんが、代わりに相づちを打った。
「その『運命の人』が、私と逢初愛依さんにとって、ゼノス王子、敵兵ゼノス氏だったのです」
「「え~~!!」」
転移組三人で、一斉に声を上げたよ。やっぱり女の子は、「運命」って言葉に弱い。
「もう察していたかたもいるでしょう? 何しろ愛依さんとゼノス氏の相性、遺伝子適合率は75億分の1、あの世界の全人類の中で一番相性が良い組み合わせなのです。そのふたりが出逢ってしまったら、いくら机上の計算とはいえ、何も起こらないハズもありません」
やだちょっと!? ドキドキしてきちゃった!! 彼女の運命の王子様って!?
仲谷さんが補足する。
「10の分岐、10通りの未来は、私の双子の妹が算出していました。その上で、逢初さんをあの村に送り出しても大丈夫だと判断しました。‥‥姫様を護るのが、あの艦に同乗した私の役目でしたので」
そうだったね。それがために仲谷さんは「あっちの世界」に渡ったのだし、ラポルトに乗りこんだ。「プリンセスガードナー」だもんね。
「‥‥愛依さんは、この機会に皆さんにどうしても、知ってほしいみたいです。その心の内を。姫の沢ひめさん、浜一華さん、桃山詩女さん」
「そ、そこまで言うなら」
「そうね。私は聞きたいな」
「この3人なのは気になるけど‥‥うん。わかったよ」
さいはて中コンビの意見は固まった。私もうなずく。
「では。‥‥10の未来、すべてを細かく伝えるのは時間もかかります。端的に、10の分岐で一番重い未来だけお伝えしましょう。愛依さんが、敵兵の手に堕ちる未来‥‥」
「「ひゃああぁ!!」」
それ悲鳴しか上がらないヤツ!!!!
し、心臓に悪いよ‥‥‥‥!!




