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第12話 砲戦②

 




 ゴリゴリゴリ‥‥‥‥ゴゴゴゴォォォォン!!



 重力子エンジンの錘羽根が回る、石臼の様なゴリゴリした音から、地響きみたいな音に変わる。おじいちゃんは旅客機のジェットエンジンみたいな音って言ってたけど、そんな昔の乗り物は知らないし。



「Botが逃げた方向を哨戒するよ」


 僕は麻妃が指し示す森――その方向にDMTを向けた。


 そうすると、いた。木々の合い間に白い球体。



 そのBot1機が撃ってきた。



 僕はビームをできる限り避けながら、両腰にあるビーム砲で打ち返す。マジカルカレント効果で発生エネルギーが大きいので、ビームの一発がデカい。そのまま弾幕で押し込んでいく。


「おっ、今シールド割った。そのまま、いいぞ暖斗(はると)くん!」



 麻妃はそう言うけど、ここからだと距離があるしよくわからない。が、麻妃のKRM(ケラモス)からの視点(カメラ)をもらってようやく見えた。大量のビームでBotがボコボコになっていくのを。



「いけるぜ。ハイ次」麻妃がガッツポーズしてる。――多分。


 2機目は1機目を助けようとしたのか、姿を現していた。ちょっと距離があるが、弾幕を張りながら間合いを詰めていく。


「‥‥敵は3機目と合流するつもりだ。学習してるよ」


 彼女が短く言った。2機目はたぶん全力で後退していて、なかなか間合いが詰まらない。


 しばらく森の中の追いかけっこになった。



突撃(アサルト)しよう。シールド残量も十分あるし」


 僕からそう提案した。戦艦を飛び越したあの跳躍を、水平方向にすれば。


「よっし。そうしよ。たぶん敵は、回避と防御に注力してるから、それだけ注意ね」



 すこし森が開ける所があった。そこを麻妃は戦場に選んだ。



突撃(アサルト)!」



 突然背後の土砂が爆発した。


 いや、自機の蹴り足で巻き上がったんだ。



 僕とDMTは弾かれた様に前へ跳ぶ。森の木々が開けた景色が猛スピードで眼前に迫ってきた。いた。Botだ。2機が合流しようとしてる。


 オートフロートで着地すると、すぐさまビームを打ち込んだ。プラス、もうひと跳躍。



 1 戦闘距離(スタディオン)(180メートル)くらいの距離で、打ち合いになった。


 敵もシールドを張り増しながら、2機の連携で何とか凌ごうとしてる。



 DMTやBotの表面(サーフェイス)シールドは、シールド発生器で作られる。エンジンの出力と発生器の性能次第だけど、あんまりいっぺんには作れない。

 だから、シールドレイズといって、打ち合いになる前にある程度「積み増し」をしている。

 そのシールド総量を超えるビームを当てると、装甲表面に張られたシールドが割れて、実装甲に実被害がでる。



 あ、DMTの盾は「アスピダ」といって、別にある。今自機(ぼく)が左手に持っているヤツだよ。これはいわゆる本当の盾だから、シールドとは別物。ちょっと紛らわしい。


 ちなみに盾にもシールドは張られている。


 DMTの装甲表面を覆う「サーフェイス・シールド」と、物理的にも防御する「(アスピダ)」、このふたつが戦闘の防御をになっている。



「砲戦で押せてるよ。コッチのがエンジンの瞬間最大出力が上だからね。暖斗くん?」


 麻妃がそう言う。僕は麻妃の意図を察してその時を待つ。



 Botが、突如後退を始めた。シールドを削られ、ジリ貧だと判断したのだろう。


「逃げられる!」


 誰かの声が聞こえた。でも。



 DMTは三度(みたび)の跳躍をしていた。旭煌をまとった回転槍を掲げながら。


 朝日が、宝石みたいな槍先に当たって、キラキラ反射する。


 そのまま腕を伸ばすと、長柄の回転槍(サリッサ)が、逃げるBotの背を捉えた。



 ガキ!! バリィィン!!


 初速のついた刃部に当たったBotは、深く内部をえぐられながら、勢いよく地面に落ちた。刃の回転に引っかかったのか。


 すかさず、2撃目の刺突を繰り出す。標的は3機目だ。



 バギン!!


 今度は芯をとらえた。いきなり火花が散る。内部機器まで届いた手ごたえだ。Botは、回転する刃部から滑るようにボトッと地面に落ちた。


 戦闘終了だ。全機仕留めることができた。



「おー、やったな暖斗くん。あれだけ砲戦で有利とれて、さらにサリッサの予備回転する

 容量があるとは。マジカルカレント恐るべし、だね」



 僕は、額の汗をぬぐった。


「ねえ、麻妃(マッキ)


「なにさ?」



 敵機を撃破したことでこの後のことが気になった。そう。このことだよ。


「‥‥‥‥朝ごはん、操縦席で食べちゃダメかな?」


「‥‥‥‥ん?‥‥‥‥あーね。その手があるか。愛依(えい)に訊いてみよ」



 これから艦に帰投するけど、僕はこの戦闘でまたもやマジカルカレントを使ったから、後遺症候群になる。でも症状が出るのは、操縦席から出るか、DMTのエンジンを止めるかしてからだったよね?



 だったら、その前に朝ごはんを食べたらどうだろう。


 なんて思いついたのだ。しかし!




「ごめんね。暖斗くん。前例がないの」


 毎度の医務室で、いつものセーラー服に白衣(ドクターズコート)姿の逢初(あいぞめ)愛依(えい)さんにそう言われてしまった。



 彼女は丁寧に頭を下げている。


「そういうのは、軍の研究とかでもう試していて。このタイミングで固形物を摂取すると、対照群(コントロール)が正常に消化するのに対して、症例群(ケース)の方はことごとく悪化したのね。ごめんね」



 ん? コントロール? ケース? 出た。なんかまた専門用語だ。



「つまりね。今身体が動く内にDMTの中でご飯食べたとしても、すぐ降りなきゃいけないし、そうしたらどのみち動けなくなるでしょう? そうしたら、胃に入った物の消化がうまくできなくなるの。そういうことなの」



 かみ砕いての的確な説明。


 という訳で、反論する気も失せた。


「朝飯前」という言葉があるけど、本当に朝飯前に出撃すると、僕の場合ミルクしか飲めなくなる。


 また逢初さんにお世話になる。こんな早朝から。


 いくら彼女が「医療」担当だからって。


 彼女にちょっと申し訳ない。



 ‥‥‥‥そう思う反面、逢初さんの大きな黒瞳と艶めく髪が僕の眼前にある。


「なんだろ?」





 ――胸の奥で何かが疼く感じがしていた。





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