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第120話「エンディング 後編」②

 





「にぎゃあああああ!!! 光莉ちゃんが怒った!! 光莉ちゃんが怒った!!」


 のどかな初春の公園に響くこの声は。


「逃げてえ! みんな逃げるんだよ! 光莉ちゃんの視界から逃げてえ!」


 紅葉ヶ丘澪さんだ。――今まで気配を消していて、からの恐慌状態。


 みんながそっちに気を取られてる間に、子恋さんは僕の目前まで来ていた。


 真っ正面で詰められる。


「子恋さん。わたしも悪いの。その辺曖昧にしてきちゃったから」


 愛依の取りなしを目で躱して。



「うん。話を聞こうか。暖斗くん。――つまりふたりは晴れて婚前同居はする。――しかし今日現在正式に告白もしてないし、交際もしてないし、プロポーズもしてない、と。――こういう事実関係でいいかな?」


 すごい殺気だ。マンガだったら「ズゴゴゴゴ‥‥!!」って擬音が出てそうな。


 相棒の渚さんも怒ってる? と視線を泳がせたら。子恋さんの肩越し、立ち昇る怒りのオーラの先で。



 地面を叩いて爆笑していたよ。



 ‥‥‥‥取りあえず質問に答えるとするか。


「えっと、‥‥そうか。愛依の家の事情で『じゃ、僕の家に住んだら?』みたいな話が最初にあって」

「うん。それは承知してる。それで?」


 子恋さんのレスポンスは早い。間髪入れず、詰めてくる。


 この紘国において、同級生女子に詰められるという事は中々ない。あり得ない経験かも。ある意味新鮮だとも思ってしまった。


「ああ、それで。『じゃ、コハビテシオンできないかな?』ってなって『じゃ、キャトルエピスしなきゃ』と。で、愛依のお母さんを説得して、‥‥‥‥今日に至る感じかな」


 愛依も援護射撃。


「わたしのお母さん、すっっごく拗らせてやさぐれてるから大変だったのよ。ラスボス攻略して燃え尽き症候群だったの!」


「そこまではわかった。でも逢初さん。結婚は女性の一生もののライフイベントだよ。うん。やっぱり然るべき段階を踏むべきだ。――それこそ『コハビ逃げ』、あなたの人生つまみ食いされたら大変だよ」


「暖斗くんは大丈夫だと――」

「それでも言質は取るべきだ」

「でも本当に大丈夫だし――」




 なんか、愛依VS子恋さんになってきたところで、相変わらずエビフライをくわえていた麻妃が、ようやく食べ終わった。



「今からでいんじゃね? 別に」

「岸尾さんはちょっと黙――――え?」



「もう過ぎた事で過去には遡れないゼ☆。だから、ぬっくんと愛依が今からちゃんとすれば良いんだよ。今から。そうだよね? ぬっくん」


 麻妃は僕を見てウインクする。さすが我が相棒。助かった。



「そ、そうだな。今からちゃんとする。うん。そうするよ」


 まわりからも「そっか」、「そうだよね」と聞こえてきた。正直女子全員から詰められる気配もあったからね。麻妃は僕の救世主、グッジョブだ。



「『今から』ってのは、『今この瞬間から』だゼ☆」




 ‥‥‥‥は?




「だから、今ここで言うんだよ。ぬっくん。今まで愛依にあやふやな態度をした罰だ。――――ほれ。ここにいる私たち全員が見届け人だゼ☆」




 ‥‥‥‥‥‥‥‥やりやがったなコイツ!!!

 ハメられた!



「いや、そういうのはここじゃあさ。愛依には後でちゃんと言うから」



 時すでに遅し。女子14人。みんな目をキラキラさせながら集まってきた。



「包囲殲滅だ! 公開処刑だ!!」



 後進(バックステップ)して包囲陣形からの脱出を試みる僕の視界に、愛依が見えた。


 あの清純可憐な純白のドレス。赤らめた頬を両の手で隠して、くすぐったいのを耐えるように、もじもじと体を揺らしていた。



 もはや退路無し。ここで敵前逃亡したらどうなるか? もうみんな口聞いてくれなくなるんじゃない? 告る!? いやしかし! くそう! でも無理だって!




 でも。ちょっと。


 懐かしい気持ちになった。そう。あれは。





 初めての医務室。





 愛依に「ほ乳瓶でミルク」を強要され、進退窮まった時だ。


 そりゃあ頭ではわかってるよ。ほ乳瓶が最適解で最善手なんでしょ? でもそんなの恥ずかしすぎる。死んでもイヤだ――――と。





 あれから、あの医務室から、僕は何か変わったのかな? どうだろ? 僕らは今や『救国の英雄。ラポルト16』だ。――でもそんなの出来すぎ。そんなの虚像。


 僕は相変わらず僕のまま、のハズだ。――――だけど。





 あの時踏み出せなかった一歩を、踏み出すことができたりもする。今日の僕は。


 なぜなら。


 あの夏休みは、色々特別すぎたから。







「わかった。言うよ。その代わり、冷やかしたり笑ったりは禁止な!」



 わあっ! っと黄色い歓声が上がった。ああ声が大きい! 公園の他の人まで聞こえちゃうよ!!



「ええっと。‥‥‥‥こほん」


 新郎の席から花嫁に向けて、90度角度を変える。「席」って言っても芝生の上のレジャーシートなんだけど。


 ちな、「新婦」じゃなくて「花嫁」って言ってるのは、愛依がまるで花そのものの美しさだから。


「立って。立って!」(はや)されてしぶしぶ立ち上がると、愛依もしゃなりと腰を上げた。



「ん? あ~はいはい。そういやウチMCだった。皆さん。見届け人を代表して、子恋さんからひと言。はい」


 突然麻妃がMCキャラを思い出して降臨。場を仕切り、子恋さんに振った。


 ああ、彼女は麻妃に合図してたんだ。‥‥‥‥もう怒ってない? のかな。



「え~。みなさん。潜空艦ラポルトの名誉艦長、子恋です」


 立ち上がりながら話しだす。


「結婚って、人生の重要な通過点ですよね。想いは人それぞれだと思いますが。パートナーと出逢って、そこで待ち合わせて、同じ電車に選んで乗り合わせて、その先の人生に共に旅立っていく。結婚って、駅みたいな物かなあ、って私は思うんですよね。紘国海軍風に言うと(エスタシオン)


 今日、思いがけず、私達の大切な仲間、あの夏休みを戦い抜いた仲間が、生涯のパートナーを見つけて乗り合わせて、人生という旅路を歩いていく。私達は、その大切な瞬間に居合わせた訳です」


 子恋さんは、僕に手を向けた。


「さ、暖斗くん。戦場でのミスは命取りの時もあるけど、そこからのリカバリーはアリだよ。寧ろそれが大切。ラポルトの名誉正パイロット。名誉騎士の挽回プレイを見せてもらうからね? ‥‥‥‥ふたりとも。お幸せに!」


 拍手と「お幸せに~」の声が入り混じる中で、渚さんの声が。



「光莉はねえ。最近この挨拶の文言に思い悩んで『またしても』眼科行くの忘れそうになったんだから」


 え? 僕はまじまじと子恋さんを見る。


「あ、黒縁メガネじゃない!? コンタクトにしたの?」 


「今頃!? また私を怒らす気!?」 「ぴぃぎゃああぁぁ!!」





 今日2回目の紅葉ヶ丘さんの悲鳴に、みんなで笑った。






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