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第119話 主任務②

 





 同刻。「潜空艦」ラポルト。1F B通路。


「いやっほ~」 「いえ~い」 


 岸尾と折越がカメラに向かってポーズを取る。写真を撮って加工印刷する、ゲームセンターによくある筐体だ。


「ほら。ソーラさんも」


 岸尾が筐体の外でひとり待つソーラを引き入れる。


「でも、わたし」


「なんでよぉ。ソーラちゃんもやろうよぉ」


 折越からの誘いにも、乗り気でない様子だ。



「‥‥‥‥だって、私はアマリアの武娘(たけいらつめ)研修生。戦士になって戦うのが『主任務』だから。どうせ見た目が変わっちゃうなら、こんな写真残したくないんです」


 ソーラは下唇を少し上げ、顔を背けた。‥‥‥‥が、ふたりは頓着(とんじゃく)ない。


「まあまあ。そういう悩みは後で悩めばいいって」


「そうよう。今を楽しまない理由にはなんないわよう」


「その写真が気になるなら、ウチがその時に相談に乗るゼ☆」



 渋々加わったソーラが徐々に打ち解け、カメラに向かって屈託のない笑顔を向け始めた頃。



 その後ろをメンテ3人組がB通路を歩いていく。周りの風景は――――いわゆるゲームセンターそのものだった。


「え? 師匠。‥‥‥‥。あのDMTが『セプタシオン』だって知ってたの?」


 多賀が前を行く七道の顔を覗き込む。


「ああ、まあ消去法で薄々な。暖斗機がどえらいプレミアムワンオフ機なのは言ったよな? それにあのデタラメな重力子エンジン」


「あ~。あの『青天井システム』。ダルいなあ。思い出しただけで胃もたれする」


「発生出力の上限値無し。最大値が『無限』の『青天井』ってなんだよなあ」


「安定と信頼のぶっ壊れスペック。‥‥‥‥。物理の先生が聞いたら怒る案件」


「だろ? 子恋はあのエンジンに最敬礼までするし、そこまで尋常じゃないと、さすがにお察しだ」


「あ~。しかし、あ~しらマジメだ~。こんな時まで『主任務』のハナシして」




「なんか町の雰囲気が変わって来たな」



 3人が歩くB通路は若者向けの遊戯施設が消え、細い路地と紘国風情たっぷりの飲み屋街に移りつつあった。照明が徐々に落ちていき、赤ちょうちんとネオンが目立つ。



「‥‥しかし‥‥ラポルトにこんな遊興施設があったとは、な」


 先頭を歩く七道が路地を横目に見ながら、B通路の大通りを奥へと進む。


「‥‥‥‥。長期潜空用に作られてる」


「あ~。だったら早くココで遊ばせてくれれば良かったっしょ?」


「ラポルトのあちこちにある『こっから先は軍事機密KEEP OUT』だったからなあ」


 多賀と網代も、映画館や飲み屋の看板を横目で見ながら続いて歩く。



「特別に子恋が上に許可を取ってくれたんだとよ。敵撃滅のご褒美な。この『B通路』は遊興街。中学生の私らにはOK出にくいだろ?」


「‥‥‥‥。今から映画館で、さいはて中コンビが映画見るって。貸し切りだから好きなコンテンツ見放題」


「貸し切りでスクリーンで見んのか。贅沢だ」


「あ~~ね。そして、そろそろなんかそこかしこに紳士仕様のお店がちらほら。あ~しら子供には、確かにまだ早いかな~」


「いくぞ。私らには無縁の場所だ。さすがに飲み屋やそういう店は稼働してね~だろ」


 七道の言うお店の前は自然と早足になる。そこには、明らかに成人男性向けと思われる各種サービスを提供する店舗があった。



「‥‥‥‥。え? 店内無人だし女の子用もあるよ? ふたりとも入った事ないの? ああいうお店」

「「オイ!!」」



 ボソッと爆弾発言する多賀に、七道・網代が同時にツッコミを入れた。




 *****




 同刻。「潜空艦」ラポルト。1F C通路。


 晩夏の公園風景の中を、軽く汗をかきながらランニングする影が二つ。初島と来宮だ。


「いやあ気分がいいね。こんな縦に広い通路にずっと公園とかの風景投写してくれてるなんて」


「もう戻りたいっス。みんなB通路で盛り上がってるのに」


「ダメよ櫻。学校戻ったら新人戦始まるんだから。ほら」


 来宮は腰のあたりを叩かれる。


「こうしてる間にみなと市に着いちゃう。今日くらいは遊びたかったっス」


「そう。あっという間。秋季大会もあるんだから」

「違うっス」




 *****




「ねえ」


 立ち去ろうとする子恋に、渚が問う。


「これで良かったのかしら。たしかに『潜空艦ラポルト』の能力は証明できたわ。‥‥しかも研修を受けた程度の、素人中学生16人が操艦してのこの戦果。敵国は怖いでしょうね? この艦の能力発揮の顛末として戦死者も捕虜も出なかったわ。けど結果論じゃ?」



 子恋は、アルカイックに笑った。



「‥‥‥‥結果論でしか語れないよ。私だってすべてわかってた訳じゃないし、私達16人に犠牲者が出たけど、戦争勝ったから良かったね、なんて未来もありえた」


 くるり。もう一度振り向いて渚と正対した。


「‥‥ただ、これだけは言える。これは『中学生16人が、中2の夏休みを使って終わらせた戦争』なんだ。確実に人類史には残る。それを見た誰かが




戦争(コレ)って、殺し合う必要無くね?』




 それが私の本望。‥‥私の望みはそれだけ‥‥」


 渚も子恋の正面を向く。


「あなたの『主任務』もあったでしょうに」


 子恋は、笑っていた。


「それはお互い様。このシナリオを史上唯一実行できるポジションにいたのが私だった。それに気づいた。‥‥‥‥だけ」


「気づいて、それに懸想したのよね。眼科に行くの忘れるくらい」






 渚陽葵は副艦長室に入る。瀟洒な造りの家具、その一角を押すと家具の一部が開いて鉄製の隠し金庫が現われた。


「お疲れ様。これを使わなくってよかったわ」


 拳銃。紘国軍の最高機密を漏洩する者がいれば、無慈悲に弾丸が撃ち込まれる予定だった。


「ふう。これで私の主任務は終わり。ラポルトの軍事行動が、いい迷彩になったわ」



 冷たい鉄製の空間にそれを納め、彼女は金庫の扉を閉じた。







 子恋光莉は艦長室に入る。瀟洒な造りの家具、その一角を押すと家具の一部が開いて鉄製の隠し金庫が現われた。


「お疲れ様。これが見つからなくてよかったよ。うん」


 オブジェ名『実印』――無数の鋭い針が飛び出した、サボテンのような造形物。それは『総合パスベクトル』――その針先が示す空間座標のすべてが、この国の機密電子セキュリティーを解錠するパスワードだ。常にマイナス30度で冷却され、通電が途切れるとオブジェは常温に戻る中で溶けて消える媒体で作られている。


 戦争になる、と見越した国家が保険として『国家そのもの』とも言えるパスワードを避難させる決定をした。――――その避難先がまさかの『中学生が体験乗艦している戦艦と称した何か』だった。


「うん。これで私の主任務は終わり。ラポルトの軍事行動が、いい迷彩になったよ」



 冷たい鉄製の空間にそれを戻し、彼女は金庫の扉を閉じた。





 ベイビーアサルト  第三章「赤ちゃんは救国する」  了


※ふたりの「副任務」については第二章冒頭「人物紹介Ⅱ」の「副任務」の項目‥‥‥‥ではなく、「所持資格」に詳らかに。

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