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第118話 宴Ⅲ③

 





「あのアマリアのふたりの所に行きましょう。今ふたりは、男子へどう接したらいいかわからなくなって戸惑ってる。それに誰も信じられなくなってる」



 そっと差し出された愛依の手に誘われて、コーラとソーラさんの近くに座る。と言っても浜さんと桃山さんがいるからその外だけど。

 ちょうど麻妃もふたりに何か話しかけていた。とりとめのない雑談みたいだった。


 4人の女子がアマリアのふたりに、しきりに何か話しかけていた。小声で。



「僕が参戦してもな。女心なんてわかんないし」


 なんてぼんやり考えていた時、不意に名前を呼ばれた気がした。視線を向けた先にコーラがいて、彼女と目があった。


 べそかいていた。泣きはらした赤い目をして。戦場でゼッタイ見せない顔だった。

 コーラはばつが悪そうに顔を逸らす。後でからかったら本気で怒られそうだ。


 あらためて車いすの愛依に手招きされ、ゆっくり腰を上げてコーラの前まで来た時だったよ。そのセリフを聞いたのは。



「アンタの顔見てたら、なんかほっとした」




 んん? どういう意味だ? 会話が耳に入ってきた。



「ね? 紘国の女の子ももちろん大変だけど、案外何とかなるのよ」

「そだよ。気楽にいこうゼ☆」


 愛依と麻妃、それに浜さん桃山さんが、口々にアマリアコンビを励ます。ふたりともやっぱり、すっかり自信を無くしてしまったらしい。


「で、でも騎士団(イポテス)の人が爽やかでびっくりした。わ、私はてっきり‥‥‥‥」

「あの『英雄さん』が特別だったのかな? そういえば部下の日金さんは親切だったよ。チャラかったけど」


「青葉先生もそうよ。オリシャさんの執刀医。女性にあんなセクハラ発言しない人よ」

「つまり人によるって事だな。なんか軍でも医者でも一流っぽい人はちゃんとしてる、のか?」


「‥‥‥‥暖斗は一流じゃ無いっしょ?」


 おいコラ。コーラ。‥‥‥‥確かにそうだけどさ。



「コーラ、暖斗さんがどういう人か私より知ってるくせに。一流とか関係なく、暖斗さんが暖斗さんだから、なんでしょ?」



 まだこじらせてるコーラに、立ち直りつつあるソーラさんが指摘した。コーラはさっきから言動が子供みたいだ。いじけて反射的に何か言われたら言い返してる。‥‥でも少し彼女の気持ちもわかる気がする。


 さっきの渚さんの荒療治が効いてるし、今まであまりに無防備だった自分を自己嫌悪しちゃってるんだよ。


「暖斗さんはそんな、私達を傷つけるような言動しないから」


「あ、いやそこまでは」


「いえ、暖斗さん。生きてれば誰でも、うっかり誰かを傷つけちゃう事ってありますよ。でも暖斗さんは『傷つけたくないよ』って気持ちを発してて、それがわかるじゃないですか」


 そうなのか? 自分じゃよくわからない。確かに僕はこの部屋にいる「みんなに笑ってほしい」って願っているけど。

 そして愛依がコーラの手を取った。


「これが暖斗くんの個性というか。オキシトシンって脳内物質が関係してるのね。『絆ホルモン』なのよ。その働きは多岐に渡るけど、今は恋愛について話すね」


 腰を折った愛依が、俯くコーラの顔を覗き込んで。


「医学、脳科学から言ったら、最初の最初から、『永遠の愛』なんてこの世に存在しないのよ。さっきの『数年で切れる恋愛ホルモン、フェニルエチルアミン』のせいでね? でも別れないカップルもいるでしょ。なんでかな? なんででしょう?」


 愛依が首をかしげてコーラに問う。なんか小児科の看護師さんとそこの患者さんみたいだ。あ、「みたい」じゃない。コレ愛依が実際小児科のバイト先でやってる光景なんだ。


 顔の横に右手人差し指を立てた。彼女のいつもの仕草。


「癒しと絆のホルモン、その『オキシトシン』があるからよ。パートナーと共に歩んで、そうやって少しずつ、小さく小さく、細かく細かく、手を取りあって『オキシトシン恋愛術』を更新し続けていくの。‥‥それを続けた人たちが、ある時人生をふり返ってみたら『その関係性が永遠だった』というだけのお話」


「あ、愛依。今『オキシトシン恋愛術』って?」


「うん。暖斗くんに見せてもらった本『アンチエイヂング恋愛術』にも書いてあったよね。あの本にもオキシトシンの出し方とかその効能が乗ってたから、思わず『恋愛術』って言っちゃった」


「あ、あの本‥‥‥‥」


 浜さんも反応する。その「アンチエイヂング恋愛術」っていうのは、僕がこの戦艦に乗るにあたり船外から持ち込むように言われた「紙の本」だよ。各自1冊はそれぞれ何か持って来てる。


 浜さんが僕の部屋に来た時に一緒に読んだり、愛依に見せたりしたんだよね。


 しかしこういう話をする時の愛依の言説は過激だ。相変わらず。「永遠の愛」なんて存在しない、とか言っちゃったら「じゃあ恋愛なんてしない。めんどくさ」っていう人が増えてマズい気がする。


 桃山さんがみんなに、あの目が横線になるにっこり笑顔を振りまいて。


「じゃあ愛依さん。その『オキシトシン』が出れば恋愛は続いて、私達女子は泣かなくってすむのね? 端的に言えば? じゃあどんどん出しましょう。出して幸せになろうよ!」


「そうですね。だったら逢初先生に出す方法聞いて。それで問題解決ですね」


 元気が無かったソーラさんも持ちなおして、笑顔になった。


「‥‥ウチも聞いとこうかな。愛依。医学的で効果的なヤツあんでしょ? どうすればその『オキシトシン』が出るんだっけ?」



「‥‥‥‥‥‥‥‥えっと。‥‥‥‥それは」



 さっきまで得意げに解説してた愛依が、急に口ごもった。車いすの上で上半身を逃がそうとして。もどかしそうにもじもじし始める。


 これ既視感ある。‥‥‥‥そうだ。最初の医務室で「ほ乳瓶で誰が飲ますのか?」質問をした時みたいだ。



「‥‥‥‥えっと。柔らかいものに触れる。かわいい動物を見る。人に優しくする。そういう動画を見る。‥‥‥‥とか‥‥‥‥」


「そんだけ? ‥‥いや愛依。まだ主だったの言ってないな? ウチにはわかる。恥ずかしがってないで白状しな! なんせアマリアコンビとウチらの幸せがかかってんだから」


 麻妃に見抜かれ、愛依はほほがみるみる赤くなった。



「‥‥えっと。‥‥‥‥‥‥パートナーとの、心の交流と‥‥その‥‥‥‥スキンシップ‥‥とか」




「‥‥‥‥ソレまんま医務室じゃん? 愛依とぬっくんがやってる‥‥」





「やってません!!」

「やってないよ!!」






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