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第118話 宴Ⅲ②

 





「ゴハン奢ってくれるって事はアタシの事好きって事だし」


 ‥‥‥‥そうか? ホントに? 色恋とか疎い僕でもこれは違うと思うぞ。

 コーラは前にプレゼントあげた時もこんな事言ってたような。挙動がおかしかったし、子恋・渚ペアが上手く矯正してくれたって聞いてたけど。


 あ! 思い出した! コーラと初めて逢った時。まだ彼女が僕に対して丁寧語でよそよそしかった頃だよ。

 ハシリュー村に泊まってからの翌朝露天風呂で、アイツ湯舟から足だけ出してモデルみたいに高くかかげてみたり、霧の中湯舟に入ってきたりしたぞ。変だと思ったんだ。


 男子が絶えて久しいアマリアでは、男子との距離感が本当にバグってるんだ。SNSで変な男に変な画像送るのは阻止したけど、やっぱり矯正は難しいのか~~!?



 そんなコーラに、渚さんが すすす、と歩み寄る。そうだよ渚さん。もう一回再教育してよ。




「オトコなんて、所詮カラダ目当てよ」


「‥‥‥‥え?」


 その言葉に顔が凍りつくコーラ。ギャン泣きだったソーラさんもぽかんとする。


「肌を重ねればわかるわ。オトコが私達オンナに、プレゼントしたりデートに誘ってくるのは下心があるからよ」 「「ヒェ!」」


 戦の女神の子孫たちから、戦場でゼッタイ出さない悲鳴が漏れた。


「いえ。もっというと、私達のカラダに用事があるだけよ。オトコなんて。ただ、それだけ」


 みんなおしゃべりとか止めて、渚さんに注視しだしたけれども‥‥。


 ‥‥‥‥なんかすっごい空気になってきた。女子17人の中に僕ひとりなんだよ。勘弁してくれ。


 1回渚さんから視線を切ろうとしたら、愛依の方を向いてしまった。彼女は「マジカルカレント後遺症候群」の真っ最中で、車いすでの参加だ。まあ、腕くらいは動かせるんだけど。


 愛依は、僕の目を見て軽く頷く。‥‥何? 何かフォローしてくれるの? 


 愛依が手を挙げた。


「あのね。脳内ホルモンのPEA、フェニルエチルアミンは、通称『恋愛ホルモン』って言われてるんだけどね。実は早くて3ヶ月、長くて3年で分泌が止まるのね」


 その「恋愛ホルモン」というパワーワードに、女子たちが一斉に視線を送る。


「PEAはいわゆる恋をした状態、ドキドキしたり、夢見たり、幸せな気分、恋に溺れた状態を作ります。でも、それが数年で消失するの。男性の脳とカラダって、そんな風にできているのよ」


 愛依はいつもみたいに、右手の人差し指を立てて顔の横に持ってきている。「説明モード」だ。


「例の『ほら穴理論』からの知識なんだけど。『ほら穴理論』はかく語りき。男性の思考の70%は生殖行為について、で、女性が呆れるくらいにソレの事ばっかり考えてるのね。つまり。渚さんの言う通り、医学的にも正しい、残念な真実よ」



 ‥‥ちょっと待って。ここは戦場か!? 愛依助けてくれるんじゃないの?


「ほんとそうだわ。ね? コーラさんソーラさん、その辺踏まえないと。オトコに痛い目見せられてからじゃ遅いのよ。オンナは」


「ホルモンの効果期間は3ヶ月から3年。『3ヶ月過ぎたら倦怠期』、『3年目の浮気』。これほど左様に、この理論の正当性を示す事例は枚挙にいとまがありません。そのフェニルエチルアミンが消失するのにも意味があるのよ。最長3年だったら、ふたりには約2歳2ヶ月の子供がいる、って事でしょう?」


 ‥‥「事でしょう?」じゃない! 「付きあい始め」が「突きあい始め」かよ!?


 ‥‥‥‥あ。‥‥‥‥いや。失礼しました。



「‥‥これは『ほら穴理論』。人類がまだ洞窟に住んでいた頃の、でも非常に根源的なお話です。10万年で培った物が、ここ数千年くらいで早々は変わらないの。特に人類のフィジカルな部分は。わたし達女の子が『赤ちゃん』を授かる神秘のリズムは約30日だし、大抵の出産は外敵に襲われにくい夜間に行われる。太古の昔からだわ」


 コーラもソーラさんもきょとんとして、目だけ見開いていた。


「‥‥つまり、生殖行為の本質は遺伝子の多様性の確保。そのためにはオスは、子供が育ったらさっさと次のメスと子作りをした方がいいのよ。‥‥女性としては絶対相容れない事実だけど、男性って『浮気をする設計、仕様』で作られてるの。これはいくら頭に来ても、どんなに理不尽でも、厳然たる医学的事実」


「そうね。逢初さんの言う通り。行為の後につれなくなる殿方の、いかに多い事か」



 もう愛依と渚さんの独壇場だった。マッチポンプってこういうのを言うのかな?


「だから、傷ついて欲しくないの、ふたりには。いえ、島の子達には。今回騎士団の人達は勧誘したコーラさんに、軍への警戒心を減らして欲しいがため。そして無条件に食事に誘ってくる男性にはまず他に目的がある。逢初さんの言う事実を知って、賢く、楽しく恋愛をして欲しいの」




 ***




 場所が食堂に移って、「宴」が始まった。今回は軍からの差し入れがメインだ。仲谷さんも用意を始めてたけど中止した。どうしても裏方になっちゃうから、今回は全員で楽しもうという事になった。


 アマリアコンビは壁際の椅子でしょんぼりしている。まあ無理もないか。特にコーラなんか「デートのお誘いかと勘違い、からの、男子の現実」だからね。


 何か声をかけてあげたいけど、ムリっぽい。僕自身あの愛依の説で「男子なんて」って空気だし、今アマリア女子に、いや女子の誰に話しかけるのも躊躇しちゃうよ。‥‥あ、桃山さんがお茶菓子持ってフォローに入った。浜さんも。さすがだ。



「‥‥‥‥あの、暖斗くん」


 愛依だった。ん? 顔赤くない?


「‥‥‥‥あの脳内ホルモンのお話には、続きがあって。聞いてほしいの」


 何かもじもじしてる。あ、恋愛関係の話だからか?


「おかしいと思わない? 最長3年で恋が終わる体の仕組みなら、それ以上続くカップルや夫婦はどうなのか? って」



「ああそうだ。ウチの親だって続いてるし、3年くらいで離婚率100%にならないよね。そんな無茶苦茶な高確率ありえないし。‥‥‥‥んん? じゃあどうして続くんだろう?」



 そうだよね。いくら僕ら男子の体が「そういう作り」になってるからって、全てがそれで決まる訳じゃ無いし。‥‥いや、いくら重婚が普通になった僕ら世代でも、本能のままに相手を変えていく人とかはほんの一部のハズだよ。



「そう。そこに秘密があるの。実はもうひとつ。恋愛に関係する脳内ホルモンがあるのよ」


「それは?」


「赤ちゃんが生まれる時に関与するの。分娩時に子宮収縮をさせ、乳腺の筋繊維を収縮させておっぱいの分泌を促すホルモン。オキシトシン」


 愛依が目を逸らした。そうだ。初めての医務室の情景を思い出す。


「‥‥‥‥男女ともに、抗ストレスや多幸感をもたらす、愛のホルモンなの。そして男性にとっては‥‥‥‥。暖斗くんにお願いがあるの」


「‥‥‥‥何? 愛依」


「あのアマリアのふたりの所に行きましょう。今ふたりは、男子へどう接したらいいかわからなくなって戸惑ってる。それに誰も信じられなくなってる」



 まあそうだろうな、と思う。女耳村(じょじそん)では、年上女子からの口コミが情報のすべてだったんだもんな。


 愛依と麻妃、そして僕で、アマリアコンビとさいはて中コンビの輪に加わった。そして5分も経たない内に意外な事が起こった。



 コーラが泣き出したんだ。曰く。





「アンタの顔見てたら、ほっとした」






※「|女耳村《じょじそん」」――「女 (のみ)の 村」です。

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