第118話 宴Ⅲ①
9月1日。19時12分。
本来ならもう2学期なんだけど、なんだか本土でまたウイルスが増えだしたみたいで、中学は休校なんだって。
どっちみちこのガンジス島で多国籍合従軍と戦った僕らは、故郷みなと市に帰るまで3日かかるって言うし。ああ、あの色んな国「侵略軍」との闘いは、コンギラト条約機構軍に一部欧圏の国も混ざってたから、「多国籍合従軍」って呼称になったんだってさ。
それで、昨日は色々わちゃわちゃしてたけど、1日完全休養したから、と言うことで、夜に今回の戦いの打ち上げ、この40日ものラポルトの旅の打ち上げパーティーをする事になった。
また例によって仲谷さんが用意してくれてるんだけど、軍の人が色々差し入れてくれるって話だよ。ずっとごはん作りに徹していた彼女も、今日くらいはみんなの輪に入って一緒に騒ごうよ!
そして、食堂がパーティー会場として設営される間、スポ中コンビがいつも練習してる武道場で、アマリアのふたりが余興をやってくれる事になった。
剣舞だ。「千階舞踏」って名前らしい。
アマリアの民族服を着たふたり。コーラとソーラさん。
いつも着てる白地に赤のラインが入った服の上に、鮮やかな布何枚も追加されてキラキラしてる。色とりどり。
最近おちゃらけたイメージしかないコーラのヤツも、今日は凛としていた。
向かい合ったり入れ替わったり、くるっと回ったり。曲のリズムに合わせて模擬刀が打ち合わされていく。
僕らは輪になってそれを見ていた。
音楽に合わせて踊るふたりは、とても綺麗だったよ。5分くらいの剣舞は、曲の終了とともに拍手をもって終わった。
「わ! 本当に子供だ。おい、こっち。それも女の子ばかり」
開けたままのドアの向こうから、低くて野太い男性の声がした。身構える女子達。
このラポルトには男は僕しかいなかったから、急に大人の男性の声がしたらみんなびっくりしたんだね。
「ああ、ケラメウスの方々! いいんですか?」
子恋さんが駆け寄る。その先の廊下には3、4人の男性の姿があった。みんな180センチくらいの長身でプロレスラーみたいに筋骨隆々だ。
「ああ、子恋殿。そのケラメウスが今一番ヒマなんだよ。作業ドローンはみんな搬入作業に行っちゃって、細かい仕事は人力でだってさ。それで俺ら手伝ってんだ」
「『殿』はお止め下さい! そんな雑事は私達が‥‥」
「いやいや、副参謀長のご息女ですから、なんてね。あと最新鋭艦見ときたかったし、ホントに学生さんだけなのか興味あったしね。‥‥‥‥そもそもこの艦のエース君がありえない程の敵を削ったからね。俺らがヒマしてんのは実はその彼のせいなんだぜ」
ものすごい爽やかな白い歯で、その成人男性の人達が僕を見ている。「ケラメウス」っていうのは、前に七道さんに教わったけど、DMTパイロットの古い呼び名だ。――いや、「正式な」って言った方がいいかな。
そして、皇帝警護騎士団、この国の真のDMTパイロット、紘国旗機DMT「セプタシオン」を駆る騎士達は、畏敬の念を込めて全員「ケラメウス」と呼ばれている。
「アマリアの神話には、戦う女神が多く登場します。武娘とは、そういった戦の女神の力を現世、此岸に宿した女性、その神事から来てるんです」
みんな、「へえ」って感じで聞いてた。僕もだけど。
「あ、いいかな? 気になったんだけど」
騎士団のお兄さんが手を挙げた。
「今の剣舞、剣術の基礎が全部入ってるよね? 型とかもだけど、実践的なヤツが」
その声に一気に気色ばむソーラさん。
「はいい! そうなんです! あ、騎士団の方ですね! 私、アマリア村のソーラと申します。よろしくお願いいたします! 私達は幼い頃からこの剣舞を習っていて、自然と剣術を身につけるんです。基本的な動きなら8歳くらいで習得して、そこから実戦的な戦いを学んでいくんです。アマリアのソーラです。お会いできて光栄ですっ!」
ラポルトのメンバーが「この子2回言った‥‥」、「今、2回‥‥」とざわつく中で、彼女を横目で見るコーラが眉をおもっこそしかめている。――こら、コーラ。顔。
と、対照的なふたりだったけど、この後泣き笑いがぐるっと入れ替わる。
あの後、騎士団の人達が運んできてくれたお菓子をみんなでいただいた。これって、最初の頃にラポルトに大量に積み込まれていたヤツと同じだよ。スーパーとかで売ってる市販品のクッキーやキャンディ、チョコレート菓子。ちょっとチョイスが微妙だ。ウチの母親とかがお茶うけによく出すヤツなんだよね。
「うっうえええぇぇぇん! なんでコーラばっかぁぁ? 私はぁぁ!?」
ソーラさんギャン泣き中。そしてコーラは。
「あっはっはっは~。騎士団に食事に誘われちゃった~。ついでに軍にも。『オシャレなカフェがあるんだけど、どうかな?』ってさ。はっは~~。アタシの時代がキタ!!」
どうやらコーラはさっきのケラメウスさん、軍にスカウトされたらしい。その場に居合わせて見ていた初島さんの弁。
「でもカフェって言っても『軍港内の』って言ってたよ?」
え? じゃあ、デートのお誘いじゃなくて、軍の概要説明とかじゃん。就活だよ。ソレ。
「あっはっは。‥‥ん? カフェってドレスコードだっけ? ヤバ。アタシTシャツとスパッツとかしか持ってない。どうしよ?」
「いやコーラ。入隊勧める人に、軍港を案内したりゴハン奢ってくれたりするんだよ。みなと市じゃよくある話で‥‥。服なんて何でもいいよ」
「はん。暖斗か。見たかアタシのモテっぷり。これでアタシはアンタ以外にも選択肢が生まれた訳だ。ざまあみろ。‥‥こうやってアタシの心の中のアンタは、徐々に小さくなっていくんだ」
ん? 何言っちゃってんの!? コーラ!?
「‥‥あれぇ? それってコーラさん?」
「何気に告ったっス」
「あらまあ」
「ど、どうして?」
唖然とする初島・来宮ペア・泉さん・浜さんの横で、多賀さんが帽子の中で目を光らせて。
「‥‥‥‥。使える!! この不意打ち‥‥‥‥!」
「やめとけ柚月」
そのまた横の七道さんが、多賀さんに ばっちん、とツッコミを入れた。
そして、得意満面のコーラに、悪魔が忍び寄る。
「おめでとうコーラさん」
「ああ、渚さん。ありがと。そっか。私渚さんや子恋さんと仲間になるって事か。しかもオトコゲットして」
「‥‥なぜそう思うのかしら?」
「そりゃ貴重な時間とお金をアタシに使ってくれるからでしょ? ゴハン奢ってくれるってことはアタシの事好きってことだし」
ああ違うよコーラ。プレゼントもらった時もそう言えば。男性がいないから知らないのはしょうがないのか? 「女耳村の女子チョロすぎる説」。
「いいえ。違うわ」
と、静かに渚さん。中学2年生。
「所詮オトコなんて、私達のカラダにしか興味がないのよ。肌を重ねればわかるわ」
うわあ!! 突然ナニ言いだすんだこの人。
渚さんって何者‥‥!?




