第11話 重力子エンジン② #設定語りだみんな逃げろ!
※今回もだ! みんな逃げろ!
「暖斗くんは時間つぶしてて良いのか?」
昼下がりのDMT整備デッキで、僕と七道さんの会話は続いていた。
「うん。もうDMT戦の訓練は終わったし、午後は様子見の静養なんだよね。マジカルカレント後遺症があったから大事をとって。でも自室にいるのも落ち着かないからここに来ちゃってますよ。――――あ、朝の食堂であの後、女子だけで何話したの?」
女子会(議)では、戦艦の名前が「ラポルト」に決まってから、僕だけ紳士的に追い出された。まあ、男子がいると話しにくい事を話したんだろうけれど、七道さんには聞いてもいいような気がしたから。
「あのね。そういうのは察しろよ。そういうトコだぞ? あ、今CADと3Dプリンターの部屋に行くの禁止な。理由は聞くな」
普通に怒られた。そして嘘の下手な七道さん。
「まあ、話せるネタで言うと、お風呂の順番かな。私ら整備班が一番文句言ったからな」
「風呂? なんで?」
「ほ~ら、典型的な絋国男子の反応キタ。暖斗くんは、自室3Fにあるだろ?」
「うん。そだね」
「3Fは男子1人しか居ないから、当然風呂もトイレも自由に使える」
「あ‥‥!」
そう、この戦艦の居住区、4Fは艦長、士官専用で誰もいない。3Fは男子フロア、という事で、僕1人が使ってる。女子は全員2Fで、まるで修学旅行の部屋割りみたいなんだけど。
そうか‥‥‥‥15人で、1つの風呂とトイレを使ってるのか。
「ま、男子と女子が同じフロアじゃ色々気を使う、ということで、運営様が最初からこうしたんだけどな。まさか体験乗艦がこんな長引くとはみんな予想してなかった。お風呂は、3Fと同じ大きさだから3人くらい同時に入れるけど」
「うん、ゆったりしてて良いよね。ホテルみたいで」
「良かね~んだよこれが。みんな思い思いの時間に入るから、整備が終わった22時とかに私らが行くと、一番混んでる状況なんだよ」
「あれ」
「私らも毎日遅い訳じゃないけど、戦闘あった時は22時とか23時とかになる。次の日も早い。そんな時にヒマな子達がのんびり湯舟につかってたら、頭こね~か?」
「はい。おっしゃる通りです」
そっか。やっぱ色々問題が出てくんだね。
「だから、アノ・テリアにアプリ作って、お風呂は予約制にしてくれって、稟議書出したんだよ」
「じゃ、問題解決だ」
「いや、そこにあのアホ折越が、『ちなみ時間予約とか忘れそう。空いてる時に入ればいいんじゃな~い?』とか言いやがって。アイツ商業科のクセに」
‥‥‥‥う~ん。彼女なら確かに言いそうだ。って、あれ、「この艦に根性曲がったヤツはいない」んじゃなかったっけ? 七道さん。
「結局、終始静かだった逢初が口を開いて、『わたしも医務室に泊まり込む事があるので、時間予約制の方が』ってなってから流れが変わって、アプリ作る方向で話がまとまったよ。アプリは紅葉ヶ丘が片手で速攻作ってた。もうパッドに実装されてるよ。時間が来たらアラーム鳴るヤツ」
あ、ホントだ。3Fも予約できる。あ、じゃあ。
「じゃあさ、2Fが混んだら3Fを使えばいいんじゃない? 僕は気にしないし、戦闘後は医務室から動けないことも多いから」
――――100%善意のつもりだったんだけど。
「‥‥‥‥暖斗くん。何か企んでないか? お風呂でドッキリ! とか、動画の再生回数増やそうとしてないか?」
100%悪意でとられた。‥‥イヤだから動画サイトから一旦離れようよ。
と、七道さんが不満そうに金属製の工具を2回叩いた。
「なんかさあ、また話が逸れてるぞ。重力子エンジンは革命的だって伝えたいんだがな。私は」
さすがにふたりで苦笑い。そうだった。いつの間にか風呂の話になってた。一向に会話が終わらない。でもまあこれってハナシが合うヤツとの特徴だよなあ。
「教えて下さい。師匠」
僕が真面目な感じを作ってそういうと、彼女も振り向いて、うむ、と言った。
「時に暖斗くん。この前の戦闘でマジカルカレント使ったけれど、アレ、重力子回路の電圧上げるって、岸尾が言ってなかった?」
そういえば。
「‥‥回路の印加電圧を上げる、とか」
「うん、それで、回路の電圧を、何%上げたと思う?」
「それは‥‥‥‥」
僕は、能力解放してからの、艦に取り付いたBotを排除した戦闘を思い出す。
「50%くらいかな。かなり、DMTの運動性能上がってたし」
「それな、あの時は、5%だったんだよ」
5%! 驚いた。たったそれだけ!?
「ただ、その結果、追加で回路に流れこんだ電流量は40%くらいだったから、暖斗くんの体感で合ってるんだ。つまり何が言いたいかというと、こんな風にマジカルカレントに関してはまだ訳がわからんって事だ」
驚く僕が引き金か、七道さんに熱が入る。
「20年ほど前、絋国の研究チームが未知の素粒子『グラビトン』を発見した。スピン2、質量0、電荷0、寿命∞、予想されていた性質だった。そこから10年かけて、その『グラビトン』を2%だけコントロールできる電子回路が開発された。回路に通電させただけで、任意の時空が幾何学的に収縮、指向性重力場が発生する」
「光子や電子と、このグラビトンが相互作用する宇宙の理を解き明かしたんだ。私はグラビトンの発見より、こっちの方が意義深いと思っている」
僕は、頭に思いついた疑問を、そのまま口にした。
「絋国の研究チームが発見したんなら、独占できなかったの?」
「それな。グラビトンを研究してたのは絋国だけってワケじゃなく、世界中でやってたんだ。絋国が一番乗りだったってだけの話だよ。絋国の成功をヒントにして、他の国も開発した。技術漏洩もあったかも知れないけど。で、こんな便利なモン、あっという間に世界中に広まった。今じゃ、絋国も重力子回路を輸出してる。まあ、最新最強性能のヤツは軍事用だけどね。これを自国製造できるのは、先進工業国10ヵ国ぐらいだし」
「そうなんだ」
「で、重力子回路と発電機を組み合わせたのが、重力子ダイナモーター。それを兵器に組み込んでテストをしていたら、特定のパイロットの時にだけエンジン性能が上がる、という謎現象が起こった」
「それがマジカルカレントなんだ」
「そう。あ、それってのはここ最近の言い方な。特定の人間の脳波が、重力子回路の電気の流れに干渉する。そもそも、回路に大電力を流して大重力を得る算段だったのに、何故かどんなに電圧かけても電気が流れない! って、研究者は頭抱えてた時だ――」
「――さらなる謎。ある周波数、電子のふるまいが、重力子のふるまいに影響を与えてる。トランジスタ現象、なんて呼ばれたりもする。なぜ回路に電流が流れないのか? なぜマジカルカレントによってならば流れるのか?」
と、七道さんは滔々と語った。僕は素直に驚いた。
逢初さんもそうだけど、この艦の面子は、どの子もすごい一芸を持っている。
選ばれたのには理由がある。
「すごい知識だね。でも、マジカルカレントってホントに謎の能力なんだね」
「まあ、謎っていえば、『重力』そのものだっていまだに謎だ。地球の重力が月をぶん回し、太陽の重力が地球をぶん回し、銀河系の重力が太陽系をぶん回し、その銀河系は、それ同士の重力が引きつけあって、遥か未来に衝突するらしい。とんでもない力だよ。重力ってのは」
一気にしゃべった七道さんは、楽しそうだった。僕も、こういう話は好きなほうだ。
「あんまり『謎』って言い方良くないんだけどな。『未解明』なんだよ。マジカルカレント能力も含めて。電子の動きで重力子に作用すんだから、脳波、電子の波で回路の抵抗値が変わるのはありえるだろ? 能力者!?」
「僕は全然自覚ないよ。昔から普通にできてた事だし。でもそんな事言われたら『オレの内なるグラビトンエナジーが~』って、発症しちゃうかもよ。あはは」
「リアルな中2だけにね。はっはっは」
2人で笑いあった。勉強と、ちょっとした気分転換になったひと時だった。
※CADと3Dプリンターで何を作っていたかは永遠の謎。




