第115話 赤ちゃんになっちゃった!(発端Ⅵ)①
夕方。紘国名「中の鳥島」、国際名「ガンジス島」に、きれいな夕焼けが見えた。
病院で愛依と見た、あの夕焼けだ。
まずは報告。インターネットとかの通信が回復した。僕らのスマホも普通に使えるようになったよ。‥‥‥‥早速、操縦席の中から家族に電話した。なんか、前に話したのがつい最近だった様な、すごい昔の事だった様な。不思議な感覚だった。
でもまあ、このタイミングで回線回復とか、ちょっと作為を感じるよね。さすがに僕でも「?」って思うよ。
あと、戦争が終結した。あれから投降が相次いで。
今回の戦闘で侵攻してきた軍が捕虜になってしまった。ほぼ全員らしいから人数がエグい。
そして僕らが世界中にしてた、この戦闘の配信。すごい反響があったみたいだよ。
同接10億だって。
はは。凄すぎて意味わかんないよ。
紘国が戦争の終結を世界に、そして侵攻した各国家に伝えたら、敵国が捕虜の安全を条件に、戦後補償をするとか何とか。――正確には国と国が、その交渉に入るというニュースが流れてきた。
紘国も、捕虜の人達の食事代だけでもとんでもない額になりそうで、さっさと話をつけたかったみたいだよ。「このままだとガンジス島で飢え死にさせる事になりますが?」って各国に詰め寄ったらしい。
まあこれについては、あの「潜空艦ラポルト」で3人娘が敵の本陣と退路を破壊しまくったそうだから。ここまでの展開も子恋さんの計算済みだよね? うわああ。
「心底、味方で良かったと思わされた中学2年生の女の子」って何なんだ!?
それで侵攻国側も速攻で折れた。本当に「捕虜が餓死した」とかってなったら兵隊さんの遺族の人とかが黙ってない。その国の内部で揉めちゃちゃうからね。
まあつまり、侵攻した国々は「負けを認めてお金を払うから捕虜返して!」って事だそうだけど。人の国に攻め込んで来ておいて、ちょっと虫がいいハナシにも聞こえる。
でもまあ、これがオトナの話。国対国の政治のハナシだね。
***
そして。現在。
陣地で動けなくなっていた僕らは、なんと皇帝警護騎士団の皆さんに回収してもらってる。「この大戦の勇者達だ。若年女性もいるがくれぐれも丁重にな?」とか言ってもらいながら。
――うおお! 一生男友達に自慢できる案件だ! でも、その時、皇帝警護騎士団の団長、錦ヶ浦さんに話しかけられてしまった。
「梅園‥‥いや母親姓で咲見君、か。いや、見事だった。すごいマジカルカレントだね」
「‥‥あ、ハイ、‥‥いいえ! ‥‥‥‥じゃなくて」
僕と愛依はまだ操縦席に座ったままで、僕は愛依の前で盛大にキョドった。無理だよ。無理だって。
「それと、子恋艦長の言ってた女医さんだね?」
「はい。逢初愛依と申します。よろしくお願いいたします」
僕らの国では、欧圏でリーグを制したサッカー選手より、利国で2刀流でMVP取った野球選手より、皇帝警護騎士団の方が人気あるんだからさ。
意識してないから、とはいえ普通に話せる愛依がうらめしい。僕はもうテンパってしまって。
「‥‥‥‥えっと、あの、‥‥はい」
「緊張しないでくれ。君達のDMTだけど、騎士団の母艦で引き取る算段なんだ。光莉ちゃ‥‥子恋艦長は承知してるから、さ」
「え? 僕らは最初から借りてただけですから‥‥あれ? でもこのDMT達はラポルト専属機だって」
「ああ、ラポルトね。いい名前だ。ウルツサハリ・オッチギンの、確かに専属機なんだけど‥‥‥‥ああ、聞いて無いのかなあ? メンテナンスは騎士団でやるんだ」
「え? ‥‥でも‥‥ラポルトにもちゃんとメンテはいて‥‥まあ中学生なんですけど。七道さん達」
錦ヶ浦さんは褐色の腕を組んで笑った。血管の浮き出た鍛え上げられた両腕だ。
「ははは。やっぱり。聞いてなさそうだな。ほんっっと光莉ちゃんは人が悪い。ま、そこが彼女の魅力でもあるんだけどね。今君が搭乗してるUO-001から始まるDMT群。実は、みんな騎士団所属なんだ」
「うえ゛!?」
普通に変な声が出た。背中の愛依が「ぷっ」って吹きだす。
いや愛依。君は知らないから笑っていられるんだよ!
騎士団所属って事は、つまり使われてる部品とか規格も全部、騎士団用だった、って事で。
僕らは知らずに、騎士団のDMTを駆っていた、ってことなんだ。




