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第114話 「にじ」Ⅱ②

 





 さっきやったように。


 まるで、子供の遊戯のように。


 僕らは、横一列に手をつないでいた。




 みんなの想いが、願いが、エネルギーになって、僕の機体に流入してくる。


 みんなの顔を思い浮かべる。‥‥‥‥自然と10機の重子力エンジンは高鳴っていった。



「なにこれ‥‥‥‥」


「地響きだ‥‥」


 マジカルカレントが、最大値を記録する。僕の背後に出現した時空の変異、その呼び名はまだ無い。


 ただ、僕とカタフニアをつなげるエネルギー供給接点、外部把持ポイント「コーヌス・テレスコープ」が、溢れ出るエネルギーを持て余してバチバチとプラズマ炎を上げていた。


 カタフニア、その砲門が、上空で仰角にその体を傾ける。


 主砲と副砲、すべての砲門から光が溢れ出てきた。



(((愛依さん。暖斗さんの能力をお借りしている今こそ、もっと【リンク】を。ふたりで手を取りあうのです‥‥今まさに。そして、永遠(とわ)に)))


「え?」

「どした? 愛依!?」


 エンジンが繰り出す轟音の中、愛依の言葉は甘えるようだった。


「‥‥‥‥何でも、ないよ。‥‥ね? ‥‥‥‥わたしの『右手』重ねてもいい?」


「‥‥うん」


 操縦桿を握る僕の拳に、ふんわりと華奢な手が重ねられる。


 愛依の手は暖かくて、柔らかかった。


 手、だけじゃない。‥‥そう。‥‥‥‥色々全部が重なった気がした。







 最初はただ必死だった。同乗する女の子15人を守ろうとした。


 上手くいかなくて、逆に助けられもした。


 何とか戦い続けて、今僕らは手をつないでいる。





 今は、この15人だけじゃない。アマリアの子も、病院の人も。


 島のみんなも、敵も。


 できうるなら、この戦闘を見てる世界中のすべての人に、伝えたい。





 そして、命をかけて守りたい存在も見つけた。


 命をかける意味と、命をかける価値も知った。


 その存在が「幸せであること」が「僕の幸せ」であることも。





 僕の「右手」に添えられたこのかわいい手。その上にさらに左手をかぶせて。


 僕らはうなずきあった。


 そして、エンジンの咆哮はさらに猛獣のように増した。




 *****




 東方10国。ピメイ国、後方基地。


「カタフニアからビーム砲の発光を確認! 撃ってきます‥‥!」


「撃ち落とせんか‥‥」


 司令官然とした人物が天を仰いだ。


「駄目です。我々の戦艦もDMTも無力化されております。残念ですが‥‥」


「『彼』はその砲口を光らせ、『我』には打つ手なし、か。完敗だな」





 まほろ市民病院から南へ2キロ。暖斗達が構築した防御陣地。その上空、カタフニアから。まるで噴火のように。


 幾条もの光線が放たれて、空へと高く昇っていく。


 ピメイ国だけではない。陣地と病院を囲む敵勢力。そのすべてに向けられた光の刃。




曲射砲撃(パラボレーショット)! 弾道が‥‥高い。高度に上げてから曲げて来ます」


「何故? 何のために?」


「解析! あ‥‥基地全方面への無差別爆撃‥‥」


「‥‥‥‥そうか。幕引きか。今度こそ『侵略者には死を』と」


「着弾します‥‥!」




 光の束は、幾条にも細かく分かれながら、基地のあちこちに降り注いできた。流星雨のように。


 先ほどの戦艦の攻撃は「最後通牒」。この攻撃は「引導」。




 ――――そう、侵略軍の誰もが理解していた。




「え?」

「あれ?」




 各国の基地、その人々の上に、金色の粒子が降り注いでいた。


 戦場の塵埃にも似たそれは、命のやりとりの場に、ゆっくりと、花吹雪のように舞い降りていく。




 ガンジス島の青天は、この日、黄色い輝きに包まれていた。





「どうした。何故我々は生きている?」


 ピメイ国陣地。


 司令官の男がオペレーターを問いただす。代わりにパイロットスーツを着た男性が独り言のように呟いた。



「これは‥‥‥‥ビームをシールドバリアで弾いたときの粒子では? ‥‥‥‥そうだ。相殺された素粒子立方体『光格子フテローマ』だ‥‥」


「‥‥なんだと?」


「‥‥推論です。‥‥‥‥敵は、わざと曲射砲撃(パラボレーショット)を高く上げ、タイムラグを作った。――そして、その間に『メガマス』を敷き詰めた」


「つまり?」


「『メガマス』はさっきのフテローマ素粒子を、1メートル四方の立方体に集積したものですよ。『サイコロ型バリア』、です。ビームを極端に山なりに撃って、その間にこの基地、いや敵軍のすべてに、サイコロバリアを敷き詰めた。砲撃から我々の命を救うために」


「自ら撃っておいて、それから守ってやった、だと!? 茶番そのものではないか」



 意味がわからないと両肩をすくめる司令官に、オペレーターの男性が進み出る。


「曲射砲撃を指す、『パラボレーショット』って、紘国由来の言葉ですよね‥‥。史上初めてビームを曲げたのが紘国でしたから。その『パラボレー』は、欧圏の言葉で『虹』という意味だそうです」


「ほほう。『虹』か。‥‥‥‥あの陣地にいるのは『紘国軍人』を自称する中学生だったな‥‥」


「ええ。彼らからのメッセージかと」



「クソガキ共が。‥‥『オジサン達を、殺すなら何時でも殺せるよ。だけど僕らはそれを望まない』といったところか。ふざけおって。軍人に侵攻の善悪を考える(よし)もない。この島に来る前から、死命を頂く覚悟なぞできておるわ」


「まったく、許し難いです。正規軍人に向かって」


「『戦争なんて止めて、空を見ろ』とでも言うんでしょうか? この虹と黄金の景色を」


「なんだ? 貴様詩人だな‥‥? ‥‥こんな時に‥‥‥‥ふはは」





 指揮官は遠い目をした。


「だが、平和を、文明生活を享受しながら、綺麗事をまぶした こまっしゃくれた反戦を叫ぶ糞餓鬼より良い。いく段かはな。あの陣地の少年らは我々と同じ戦場に身を晒し、軍事力という暴力装置を背景とした上で自分達の主張を通そうとしておる。戦争の本質だ」


 口もとを歪ませて、にやりと笑う。


「‥‥‥‥クソガキには、違いないがな」





 ピメイ国は、全将兵、紘国軍への投降を決めた。






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