第114話 「にじ」Ⅱ①
「その話、いいんじゃないかな」
インカムから聞こえたのは、紅葉ヶ丘さん。さっきずっと黙ってたのは、コミュ障の彼女は騎士団の人達のノリが苦手だから、らしい。
「そうだね。騎士団の猛攻で戦意喪失する機体と意固地に戦う機体が二分化しつつある。‥‥‥‥このままではいずれ戦死者が出るね」
子恋さんの乙女モードも終了して、いつもの学級委員長モードに戻っていた。
そうだよな。子恋さん、運営。加勢してくれた錦ヶ浦さん達。島や病院の方々。
あともう少しで戦死者が出てしまうかもしれない。ここまでがんばったのに。
(((‥‥‥‥あなたがやるのです。暖斗さん)))
「え? 誰?」
誰かにささやかれた気がした。気のせいか。
(((‥‥‥‥‥‥人の心の光を守るのです。あなたの心の光が、世界を変えます)))
なんだろう。誰かに励まされた気がする。背中の愛依と目があった。そうだ。
愛依が。こんな女の子が泣かなくていい世界を。――そんな事を願っていたはずだ。
(((そうです。さあもう一度立ち上がるのです。‥‥方法は‥‥‥‥あります)))
「それなら、僕もちょっとやりたい事があって」
実は試したいことがあったんだ。この陣地にいる女の子達の話を聞きながら、漠然と脳裏に浮かんできていたこと。
これだったら、僕らが望んだ結果が得られるんじゃないのかなあ。
僕は頭の中にあるアイデアをみんなに打ち明ける。「いいね」、「よし、やろう!」と賛同してくれた。
「それならラポルトの中央CPと暖斗機をリンクしよう。この日のタメにこの辺一帯は精微に地形データを取ってある」
紅葉ヶ丘さんもかなりやる気になって、乗ってくれた。
「アタシら一個もミスできないんだけど?」
「大丈夫。集団Aと集団Bの地形座標を習合すればいいんだ。それをラポルトのCPで受け持つ。岸尾さん?」
「ほい!」
「私はこれに専念するから、DMTのエネルギー接続と流入管理してもらっていい?」
「ほいきた!」
麻妃のKRMが、陣地の上でくるりと弧を描く。
「う~~しやったるか。ぬっくん。ウチがサポートしちゃるゼ☆」
僕らパイロットも、壊れかけたモニターで互いの顔を見合わせる。頷きあう。
相手を殺すため、‥‥‥‥‥‥じゃあない!
僕ら中学生が、世界に放つメッセージの一撃だ!!
「来宮さん」 「ソーラさん」
小破した機体で、隣同士、互いに手をつなぎ合う。
並び順は右から、コーラ、桃山、浜、僕、初島、来宮、ソーラさん、だ。
「ありがとうコーラさん」 「いやあ。お礼を言うのはコッチ。桃山さん」
被弾して擱座した機体はもうほぼ動けない。けど、最後の力を振り絞る。
関節を軋ませ、腕を伸ばして、お互いが手を取り合う。
「パイセン‥‥いや、美羽。フェンシング誘ってくれてありがとう」 「ううん。体験乗艦誘ってくれてありがとう。おかげで吹っ切れたよ。櫻」
もともと仲良しでも、改めて思う事ってあるよね。
「いちこ、護ってくれてありがとう」 「‥‥‥‥うたこ。お、おせっかいうたこ。もう私に気使わなくていいから。わ、私もう大丈夫だから」 「え?」
そして、様々な出会い。共に戦った仲間。
「実は暖斗くんとは絡み少ないんだよね。私。戦闘の時さりげなくフォローしてくれてありがとう。あと医務室行きたかった」 「あはは。初島さんにはライドヒさんの時とか助けてもらったよね。ありがとう」
「‥‥‥‥あ、あの」
「何? 一華ちゃん。一華ちゃんには体を張って身代わりになってくれたり、戦闘でも活躍してくれて。助かったよ」
「い、いえ。‥‥‥‥私、暖斗くん憶えてないかもだけど、研修の時に一緒の班になって‥‥‥‥そ、その時に、暖斗くんいい人だって思ってました!」
「え?」 「浜さん?」
「い、いえ。いいんです。返事もいりません。ただ‥‥‥‥私の気持ち知って欲しくて。‥‥‥‥そ、そこに逢初さんがいるのもいい機会です。私、自分の気持ちにちゃんとしたくて‥‥‥‥」
固まる僕と愛依。「突然ごめんなさい」と呟く浜さんに、桃山さんが優しく囁く。
「‥‥‥‥よっしいちこ。よく頑張った。アンタ女の中の女や! あ~~。操縦席邪魔! ハグできないのがもどかしい~~~!!」
みんな、くすくす笑った。
最後に、僕が浜機と初島機とつながって、7機全部と接続する。カタフニアを再び降ろして、僕の機体と接続した。
「暖斗くん。わたしは安心してる。今度はきっと、うまくいくから」
愛依の声を聞いて、心がじんわりする。‥‥‥‥こんな、何ていうか、あったかい気持ちでマジカルカレント発動した事‥‥‥‥あったかな?
「そ~らからしとしと~♪ お~にわがぬれて~♪」
愛依は、あのラポルトの後部デッキで歌った、「にじ」って童謡を、僕の背中で口ずさみだした。‥‥‥‥でもわかるよ。歌の歌詞のように。
空からしとしと お庭がぬれて♪
風のいたずら ブランコ鳴いた
お空を映した 水たまり
うつった雲さん おうちへ帰れば
空いっぱいの おおきなにじ
みんな自然に えがおになるよ
空いっぱいの きれいなにじ
あしたはもっと 晴れるといいね♪
そうさ。
隔壁操縦席の空間に、綺麗な声の余韻を残して。
愛依が歌い終わった。
「空いっぱいの きれいなにじ
あしたはもっと 晴れるといいね」
本当にそうなればいい。そのために、僕らは虹を描くんだ。
虹を。
人々が争い続ける大地の、その上に広がる、青い空に。
※作中歌の「にじ」ですが、自ら作詞したものに差し替えさせていただきました。
第1章 第47話 「にじ」Ⅰ も、差し替えております。




