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第113話 紘和60年8月31日(発端Ⅴ)②

 





「すごい戦いだね。やっぱ最強だ! 皇帝警護騎士団!」


 ちょっと興奮ぎみにしゃべる僕に対して、愛依はどこか物悲しげだった。


「でも、あんなにDMT粉々にされて、乗ってる人大丈夫かな」



 僕らの機体は、陣地の塹壕に擱座したままだ。映像は復活した麻妃のKRMからの俯瞰映像を貰っていて。



 愛依の問いには、アマリアコンビが答えてくれた。


「あ~先生、大丈夫だよ。敵機の隔壁操縦席(ヒステリコス)に加撃してないから戦死者はまず出ないね。さっすが騎士様はジェントルマン。敵に温情かけすぎだって~の」


「でも、現時点で、でしょ? じゃあ負傷者は?」


「っと。‥‥‥‥それは」


 言いごもるコーラの代わりにソーラさんが答える。


「それは私が。確かに戦闘が長引けば、負傷者増えますし戦死者出る確率も高まります。でも仕方ないですよ? 私達攻め込まれてるんですから。お互いそのつもり、殺すつもりでやって、それでも、母なる土地は守らないと」



 愛依の体温が ぐっ て上がった。背中越しに伝わる。



「でも、わたしは、みんなが無事でいて欲しいかな。敵の兵隊さんだって、帰る場所があるし」



 みんな黙ってしまった。




「‥‥‥‥ね? 暖斗くん。お願い。戦争を止めて。わたしのお願い聞いて欲しいの」




「え? 愛依、何言ってんの?」


「最後に不発だったあれ。もう一回できないかな? あの時わたし、『戦争怖い! もう止めて!』って気持ちで祈ったの。でも」



 いや、ここにいる全機、有質量弾でボコボコなんだけど?


「もう一度、あの砲撃試せないかな? 争いを広げるためじゃなくて、止めるために」




 愛依の提案に、みんなしばらく黙っていたけど。


「アタシさ。まだ人殺したコト、ないんだよね」


 コーラのつぶやきが聞こえてきた。「私も」とソーラさんが同調する。


武娘(たけいらつめ)ってもまだ候補生だし、アマリアが本格的に攻められたのも久しぶりらしいしね」

「そこはやっぱり、20年前の紘国への編入の効果だと思います」


 まあそうだよね。そっか。アマリアのふたりもさすがに、そんな経験は無い、か。


 初島さんと来宮さんも今の気持ちを表に出す。


「私達ってさっき、『非戦闘員の権利を捨てて少年兵になります』宣言したけどさ、じゃあ普通の軍人さんみたいにできるのか? って言ったら、できるワケないし」

「そっスよ。私ら普通の中2っス。ガチの戦争なんてムリムリ」


「いちこはどう? 砲弾イチバン恐れてないの、いちこだけど?」


 桃山さんが浜さんに問いかける。


「お『恐れてない』って、ち、違うよ。うたこ。私はみんなが、仲間の誰かが傷つくのがイヤだから、盾役やってるし。むしろ消極的な理由だし」


 そうなんだね。ラポルトで、僕を助けてみんな勇敢に戦ってくれたけど、使命感だったんだね。


 愛依から、背中越しに訊かれた。


「暖斗くんはどう? 男の子ってやっぱり争いごとは好きでしょう? 『ほら穴理論』で説くまでもなく、それが男の子の本質でもあるから。それの良し悪しはいいのよ、今は。でも‥‥‥‥‥‥」


 一瞬言葉を切って。


「わたしは、やっぱり。人が傷つけあうのは見たくないかな。‥‥この旅で色々あって、夢中でやってきたけど。わたしが関わったこの戦争で、帰って来ない誰かがいて、それを悲しむ人達がいて。敵でもよ? それを考えちゃったら、わたしはとっても悲しくなる‥‥」


 その場の全員が聞き入る中、愛依の言葉は止まらなかった。



 ああ、思い出した。中2になったばかりの頃だ。新しいクラスの新しい面子で、そりの合わないヤツらが殴り合いのケンカを始めたっけ。


 始めたキッカケは憶えてない。きっとくだらない事だよ。でも代わりに憶えていたのは‥‥‥‥‥‥。


「‥‥なんで‥‥どうして仲良くできないの? やだ。止めてよ‥‥」


 って、数人の女子が泣き出した事だった。教室に鳴り響く怒声に耳を塞ぎ、そのあと始まった拳の応酬に目を塞いでた。



 ――ああ、今思えば。



 透き通るような白い肌とつるんとした黒髪。その数人の輪の中に、今は僕の背にいる君もいたね。


「‥‥いったれや。ぬっくん。‥‥これがウチも含めた、女子の本音。誰も本当は、誰かが傷つくことなんて1ミリも望んでない。敵も含めて」



 麻妃の言葉も僕を後押しした。




「そうだね。‥‥‥‥‥‥みんなの気持ち、わかったよ」


 僕は今の回想をみんなに話した。そして決断する。


 もう一回試してみよう。さっきは不発だった、僕のマジカルカレントを。



 紘和60年8月31日。‥‥‥‥ホントだったら、今日で夏休みが終わる日だ。でも、噴火があって戦争があって、気がついたらまだ戦艦に乗っている。



 でも誰も「もう辞めたい。家に帰りたい」とは言わなかった。不思議だよ。――確かに目の前の事を解決するので精一杯で、そんな事考えるヒマ無かった感じなんだけど。異常だよね?


 きっとこの16人、最後の方でコーラとソーラさんが加わったこの旅が楽しかったんだ。


 僕は勝手にそう考えている。


 そう考えないと理屈が合わない。


 そう感じてる。――――この16人(+2人)が、きっと最高の仲間だったから。




「ありがとう暖斗くん。次はうまくいく予感があるの。‥‥‥‥わたしは、みんなの無事を祈ったほうがいい気がするよ。暖斗くんが出撃するたびに『どうか無事に、赤ちゃんがこの医務室に帰ってきますように』ってお祈りしたみたいに。そうすれば、きっと」





 愛依って。僕を待つ間そんなコトしてたのか‥‥‥‥!


 って!? 「赤ちゃん」!!??





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