第113話 紘和60年8月31日(発端Ⅴ)①
ネタバレ改題したらPV伸びましたね(笑)
ありがとうございます。
「でも光莉ったら、出航までの一週間、『このプランでいいのか? 本当に瑕疵は無いのか?』って檄悩みだったんですよ~」
ラポルトのメンバーはみんな、通話アプリ「アノ・テリア」でふたり、騎士団長の錦ヶ浦さんと子恋さんの会話を聞いてる。そのふたりに加えて、渚さんの声が聞こえてきた。
「『ふれあい体験乗艦』なんで当然、出航式典も取材はあるし、体験乗艦終えてみなと市に帰って来ても記者会見とかです。だから光莉、『メガネ女子やめてコンタクトデビューするんだ』って意気込んでたんですよ。――そしたら、気象庁からの竹取山の噴火兆候。各国のきな臭い動き」
「おお。陽葵ちゃんか。お久しぶり。ああ、あんときゃ騎士団も騒然となったよ~『すわ侵攻か!?』ってね」
「あの時あの時点で、『私の計画』が実行実現可能な場所にいたのは、世界でただひとり。私だけ、『ふれあい体験乗艦』艦長内定者の私だけ、だったから」
「光莉ちゃんは『持ってる人』だからねえ。たぶん副参謀長より持ってる」
「そうです。でもねえ。いくら参謀本部に父親絡みのコネがあるからって、作戦立案して提案して、企画通しちゃう中学生が世界の何処にいるのよ?」
「たしかそれが一年前か」
「そこから みなと海軍広報部に参謀本部直属の出向組織が立ち上がって、「運営」って体でラポルト――いえ、ウルツサハリ・オッチギンのクルー選びが始まったわ。私の『計画』を具現化するための。中学生が体験乗船する『新造戦艦』。それがまさか、まさかまさか。紘国最新鋭の隠蔽能力を隠し持つ人類史上初の『潜空艦』で、新戦術を駆使するゲームチェンジャー兵器だったなんて、一体誰が予想しますか?」
「だよねえ。光莉ちゃんそういうトコ、マジでエグイから‥‥」
「『まさか!? そんな重要大切な超機密に、素人中学生だけを乗せるなんて!?!?』って考えますよね。常識では‥‥。その常識人の常識を完全に逆手に取って。はあ。まあ私も光莉の計画にまんまと巻き込まれたんですが」
「そうそう。その新戦術での戦果は? 上手くいったのかい?」
「ええ。もう実行した私達が絶句してるわ。今特秘でデータ送ります。各国の後段組織の80%以上を壊滅、無力化しています」
「うわ。‥‥‥‥うっわ。‥‥引くくらいエグいね。これはオレら騎士団立場無えわ」
「そんなお兄様。でも、これは本当に、噴火と侵攻が起こるタイミングと、これを用意してくれた運営。そして素晴らしいラポルトの仲間達。みんな、みんなの戦果です」
「すべてが揃わないと、こうはいかんねえ」
「ああそうそう。話戻しますね。錦ヶ浦さん。それで出航前、言い出しっぺと実行役の重圧にテンパった光莉は、眼科の予約すっぽかしてコンタクトデビューの機会損失をしたという‥‥‥‥」
「ちょッ!? 陽葵! その話はしない約束――――お、お兄様? 光莉はそんな粗相は‥‥‥‥」
「はっはっは。だっから『カワイイ』じゃないか陽葵ちゃん。‥‥‥‥でも‥‥ホントにそれで? もっと他の事でも悩んでたんじゃないのかな~~。光莉ちゃんは?」
「お兄様! ‥‥それは!」
「あッ! ゴメン! 軽率だったぜ」
*****
アングリア王国、後方基地。
「どうしたんだ。我が軍のDMTの光点がみるみる消えていくじゃないか? 一体どうなっておる!?」
モニターを覗く上官の男性が唾を飛ばす。レーダー上で次々と、味方を表す光点が消えていく。それを苦々しく見ていると、部下が答えた。
「これがヤツら紘国の! 皇帝警護騎士団の『モップ掛け』です。あの集団攻撃に対処法は‥‥!。戦力が『面』で削られます」
「何とか腹背をつけんのか」
「寧ろ我々の選択肢がそれ一択になるのが問題です。複数の隊がお互いを釣り役、掃射役、警護役、と入れ替えながら高度連携しますから」
「まだ砲撃という手段があるだろう」
「可能ではありますが‥‥‥‥敵の艦艇用オプション砲台『カタフニア』が健在です。先ほども撃つそぶりを見せてから消えました。先刻の砲撃でバリアを剝がされた我々は、砲にエネルギーを割けません」
別のオペレーターが叫んだ。
「我が軍のDMT部隊、壊滅しました! 全機です」
「なんだとう!」
上官のほほに冷たい汗が流れる。
「予備選力を‥‥投入すべきか?」
「DMTのパイロットは?」
「はい! 操縦席は無事の信号が」
「それは映像で見ておる。なんだこれは。わざわざ操縦席への加撃を避けながら戦っているではないか。貴様らの世代だとこういう手合いは『舐めプ』とか言うのだろう?」
「今回は戦闘行為が衛星で世界配信されています。それ故の人道的なポージングかと」
「くっ‥‥‥‥! 操縦席を回収するには投降するしかないのか? ‥‥いや、本部は撤退する。パイロット達は、紘国ならば殺しはすまい。後で国同士で話をつければよい」
「いえ。司令官‥‥‥‥」
先ほどのオペレーターが、苦し気に上申した。
「先刻の攻撃、あの空から現れた戦艦により、この本部も後段組織も機能喪失しております」
「なに?」
「‥‥‥‥撤退しようにも、戦艦が手ひどく被弾しており無力化、輸送艦など呼べる状況では‥‥‥‥」
ここに於いて、男性は己が置かれた状況を理解した。
「あの皇帝警護騎士団共の相手をさせられ、DMTを全機失い、この島から‥‥逃げる事すら叶わん‥‥‥‥だと?」
司令官、と呼ばれた男性はここで歯を食いしばる。
「そうだった。アギオスマレーノスとも音信が途絶えた。‥‥‥‥どうして‥‥何時から‥‥」
「いや! 我々は誘い込まれていた!? 最初から‥‥?」
拙著の第1部分「登場人物紹介 子恋光莉」からの伏線回収でした。
‥‥マジで1年以上、73万文字かかるとは思わなかった(;´∀`)




