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第112話 イポテス④

 





闘士(アトレーティス)前へ!」 「サブエンジン停止。各機、入炎覚醒せよ!」


 インカムから色んな人の声が飛んでくる。



「マジか。やっぱ皇帝騎士団(イポテス)か。‥‥憶えとけよ? 紘国‥‥いや世界中のDMTで、メインとサブの複数エンジン運用してんのは暖斗機とこのイポテスだけだ」


 え? そうなの? 聞こえてきた七道さんのプチ情報にマジでビビる‥‥!

 まるで、僕のUO-001パラクセノ・エリュトロン皇帝警護騎士団(イポテス)DMT(セプタシオン)が同格同列みたいじゃんか‥‥!!




「御機。2番機。入炎覚醒」

「御機。3番機。入炎覚醒!」

「御機。4番機。入炎覚醒しました!」


 インカムの向こうで、どんどんこんなセリフが聞こえてきて。そして、またあの団長、錦ヶ浦(にしきがうら)=ステファノス=蒼耶(そうや)さんが檄を飛ばす。


「行ったれ般若院(はんにゃいん)。任せたぞ!」


「はッ!! 団長!! ようし闘士(アトレーティス)展開! 第1列、槍~揃え!」


 第一大隊の隊長、般若院(はんにゃいん)TAKUYAさんだ。


 まるでひとつの生き物みたいだった。敵の眼前で横列8機4層に隊列を整えたイポテス。僕のよりひときわ長いロングサリッサを装備している。それが、1列、2列、3列目、と。とにかく回転槍を持つ角度に1ミリもズレが無い。完璧な行進だ。各列がその距離を縮めていくと‥‥‥‥。


「構え!!」


 少し斜めの「槍衾(やりぶすま)」になった。最前列のさらに前に、2列、3列目の回転槍の刃先が飛び出している格好。柄が長いからね。4列目は垂直に槍を上げている。コーラの懸念の如く、サリッサの弱点は刃部を躱されて(ふところ)、間合いの空間に飛び込まれる事。――でもこの集団戦法隊形「ファランクス」は違う。


 1列目の回転槍を逃れても、2列、3列目の刃部が襲ってくる。まるで壁のように。何をどうやっても対処なんて不可能だ。



 そして、闘士(アトレーティス)。そう呼ばれる6機の精鋭が、この8×4機の戦術隊形(ファランクス)の左右に散っていく。戦術隊形(ファランクス)が横から狙われないように。そして背後は隊長、副隊長機が守備を担う。32+6+2。通常編成なら8小隊分、若しくは4大隊分の、計40機が集団戦闘隊形(ファランクス)を構成する。



「うっわ! 動画じゃない。生で見れるなんて!」


 僕は完全に我を忘れていた。しょうがないよ。紘国男子で、この騎士団知らないヤツなんていないと言い切れるんだから! 国の英雄なんだから!


 そして闘士(アトレーティス)! 団長の次に人気があるんだ。8人の闘士(アトレーティス)の中から隊長副隊長が選ばれる。前面には無敵だけどそれ以外が弱いファランクスの死角を、文字通り命がけで守る仕事だ。


「『モップ掛け』、始めるぞ」


 隊長、般若院さんの号令で回転槍(サリッサ)の予備回転が始まる。それだけで地響きが起こりそうだ。僕と同じロングマチュア型の四角盾――いや、僕が騎士団(イポテス)の真似をしてたんだけど――その縦長大型盾をびっちり並べて、比喩じゃなく壁を形成。その前にサリッサ刃部の森を作って。


「サリッサが回転したら受け太刀できない。対処不可能」って言ってたのは七道さんだ。眼面に迫るドリルの森を、どうにかできるワケがない。そもそも、回転槍(サリッサ)ってこの集団戦用の武器なんだから。





 そして、「モップ掛け」の意味を身体で理解する。敵の隊列が回転刃が触れた瞬間に吹き飛んでいく。――まったく何もできずに。


 本当に「モップ掛け」の言葉通り、ファランクスが通った所、戦場の敵が帯状に消滅していくんだ。




「第二大隊も行くぞ。闘士(アトレーティス)展開! 第1列、槍~揃え!」


 今度は魚見崎聖夜(うおみざきせいや)さん。第二大隊隊長。敵、帝政イオルギアのDMT、シェロナ社のAXMアクサーニュに横やりを入れた。――ちょうど、第一大隊の腹背を突こうとしたから、それを阻止した格好だ。




「第三大隊。準備は出来てるな?」


 騎士団の母艦から、爆弾を打ち出す速度でどんどん降下してるから、もう120機も降りてるのか。浮遊装置(フローター)でフワフワ降りてた僕らとはレベルが違う。第三大隊隊長、岩雀龍我(がんじゃくりゅうや)さんの機動は早い。隊列不十分でももう敵戦列に突貫しているよ。



 ‥‥‥‥正直、敵に同情しそうになる。あまりに強すぎる。




 ‥‥‥‥と、また騎士団長の声がした。


「第四大隊以降、戦列組み急げ。お前ら存分にやれ!!」


 錦ヶ浦さんの、男も惚れるくらいのイケボが響き渡る。


「だだし、本作戦に限り、敵を殺してはならん。この子達中学生16人はまだ、ひとりの敵も味方も殺していないのだ。この場所は、40日間を戦い抜いた勇気ある彼、彼女らのものだ。この戦場を血で穢すことは、皇帝閣下の御名に於いて許さん! わかってんだろうなテメエらああぁ!!!」




「‥‥‥‥それって、わたしたちのこと? あとなんで、騎士団の皆さんのお名前ってド派手なの? 本名?」


 僕の背中で愛依がぽつりと呟いた。




「‥‥‥‥これでいいかな? 光莉ちゃん」


 一転、団長の声が湿度を帯びる。


「ありがとうございます。お兄様」


 子恋さんもなんか、愛依みたいな甘めの声をしてる?


「ですがこれは、あくまで私達16人の願い。国の宝である騎士団(イポテス)の皆様方の命より重い物ではございません。どうかご無理なさらずに」


「いやあ。アイツらにはちょうどいいハンデさ。アイツら目ぇ離すとすぐ油断するから‥‥‥‥しっかしスゴイ事考えたね。敵の戦力を一か所に呼び込んで撃滅する、どころか、互いの戦死者をひとりも出さずに複数国家間戦争を終結(クロージング)させようなんて」


「‥‥買いかぶりです。私はただ、ウルツサハリ・オッチギンが出航した時に竹取山が噴火して、参謀本部に通してたシナリオが動かせるようになっただけで」


「でもぶっ飛んでるぜ? これでこの先10年、各国は紘国(ウチ)に大規模侵攻はできないだろ?」


「いやですわお兄様。代わりにテロの時代に入るだけですよ?」


「ひゅ~♪ 平和猶遠し、か。相変わらずクールだねえ君は」




 ここで、インカムの向こうから、物音が聞こえた。


「こほん‥‥‥‥でも、お兄様」


 珍しい。子恋さんが緊張で喉を鳴らした音だ。――声も少し、うわずっていた。





「‥‥‥‥それでも、意義と意味はあります。『戦争(コレ)ってさあ、わざわざ殺し合う必要無くね?』って、世界の誰かが思ってくれたら。とある国の幼気(いたいけ)な中学2年生。そのたった16人が、複数国家間大規模侵攻を止める。夏休みのあいだに成し遂げた、犠牲者ゼロの戦争。――――人類史に刻まれるであろうその一文に触れて、誰かがそう思ってくれたなら、光莉はもうそれで十分です」





※読んでいただいた皆様のおかげで、ここまで投稿できました。ありがとうございます。


ネタバレを恐れて今まで伏せておりましたが、解禁、投稿された今回の内容を以って、タイトルの変更をいたしました。


ベイビーアサルト~撃墜王の僕と、女医見習いの君と、戦艦の医務室。僕ら中学2年生16人が、その夏休み40日間になしとげた人類史に刻む偉業。「救国の英雄 ラポルト16」の軌跡~

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