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第11話 重力子エンジン① #設定語りだみんな逃げろ!

※設定説明回です。みんな逃げろ!

 




 この戦艦の艦名が、無事?「ラポルト」になった日の午後、僕はDMT(ディアメーテル)のハンガーデッキに足を運んでいた。


 デッキには、ワイヤーや作業アームで懸架された僕の愛機があった。クシュローシスと呼ばれる整備用の板状構造物に固定され、静かに佇んでいる。その巨大な横顔を見ながら、DMTを取り囲む整備橋(ゲピューラ)に座り込む。



「お、暖斗(はると)くんじゃん。体はもういいんか?」


 後ろから作業服姿の七道さんが現れた。


「うん。もう動けるようになったよ」


「そっかそっか。今しがた君のDMTの処置が終わった所だ」



「えっ? どこか壊れてた? 壊したっけ?」


 僕が慌ててそう言うと。


「ああ、今回は君さあ、戦闘でマジカルカレント使ったろ? 高速機動したぶん足まわりの装甲とかが、岩に当たってキズになるんだよ。まあ、DMTの装甲素材はS-HCR-N(シュクルン)だから細かいキズはほっといても治るけど、な。気になる所だけ私がCR(レジン)充填しておいた。後で見てみるか?」


 と、彼女は答えた。「良かった、壊して無かった」と胸をなでおろしていると、両手を腰にあてて話していた七道さんが、突然ハッと顔を上げた。


「換気してるか? 換気。換気」


「換気? しないとダメなの?」


 彼女はパッドPCで換気の作動確認をしながら、こちらを正視した。



「――今日の内容は、物語のSF設定のマニアックな話になる。興味の無い方は、ココでブラウザバックしてくれ」



「‥‥‥‥相変わらず誰に言ってんの? そういう動画の見過ぎだよ」


「いやあ、私らが専門的な事話し出すと、まわり、特に商業科に引かれるから、一旦こう言って笑いを取りつつ一呼吸置くんだよ。暖斗くんは大丈夫?」


 なんだかんだ言って、七道さんも色々気にするんだな、なんて思いつつ、僕は返事をした。


「教えて下さい。七道パイセン。僕は、研修はDMT操縦シミュと基礎トレばっかで、DMT構造学とかはちょっとしかやってないんで」


 七道さんはニコニコ笑っていた。


「‥‥換気はよしっと。じゃあ続きな。さっき、装甲が自己治癒するっていったじゃん。

 DMTの装甲に使われているS-HCR-N(シュクルン)の「N」って、窒素の事なんだよ。窒素付加型で混種な複合樹脂のスゲーヤツ、って意味な」


 ほほう。早速専門的な用語が。でもちょっと興味ある。



(S)ーパー(H)イブリッド(C)ンポジット(R)ジンの(N)素付加型!! 空気中の窒素を大量に取り込んで、微細破折(マイクロクラック)なんかを埋めてくんだ。ただ、『複合樹脂』の中に迷彩用の顔料とか金属元素とかを『混種(ハイブリッド)』で練り込んでるから、変なガスも出る。酸素濃度も変わる。それでこのデッキの換気が必要なんさ」


「さすが、七道さん、詳しいね」


「へっへー。な、専門的だろがよ」


 ベリーショートの髪をかき上げながら、彼女は楽しそうに笑う。


「まあ、私は『大工屋』だからね。暖斗くんのDMTは面倒みたる」


 七道さんのちっこい背中を見ながら、僕は思い出した。僕が後遺症の時の「対処法」、ミルクを飲んでる件を艦のみんなが知ってる、という事を。どう思われてるか、気になるから訊ねてみようか。


 七道さんなら、聞きやすい。




「なんだよ。ソコいじって欲しいのか? まあ、たしかに、女子からしたら艦内生活のいい憂さ晴らしにされそうだな。イヤ、言えばいいじゃん。『笑った女は覚えてろよ!』って。普通の男子みたいに」


「いやあ、そういうの、極力言いたくないんだよね。この航海の間だけでも」


「‥‥‥‥そりゃあ随分お優しいねえ。私はさ、逢初が前かけ作りに来た時に、あらましを聞いてたからな。からかう事に生産性を感じないけど。千晴はちょっと驚いてたかな。『見てみたい』とか。――で、柚月が珍しくクスクス笑ってたな」


 あの帽子で表情見えない多賀さんが、‥‥笑ってた?


「まあ、止むを得ないのはみんな分かってるよ。この戦艦(ラポルト)には根性曲がったヤツは乗ってないからね。運営がそういうヤツはハネたらしいから」


 へえ。そうなんだ。良かった。そこまで変に思われては無さそうだ。これならスプーンで逢初さんに食べさせてもらっている件も理解をもらえそうだ。




「それより逢初はどうだった。あの子はものすごい優秀らしいよ?」


 急にそんな話を振られて、どきり、とした。


「ああ、色々医務室でお世話してもらいました。こんな事までやってくれるのか、ってくらい」


「中2で『準々医師』の資格とか、普通にやべ~し、すでに持ってる他の資格も履歴書に書ききれなかったらしいじゃん?」


 そうなのか? 他の資格?? 僕はクラスメイトなのに、逢初さんの事をほとんど知らない。




 ***




「右の肘関節がイマイチだったんだよ」


 そう言って七道さんは僕の目の前で作業を始めた。あれ、さっき「終わった所」って言ってたような気がするけど。たぶん、僕が来たから追加でやってくれてるみたいだ。


 彼女曰く、回転槍(サリッサ)とかの手用武器(インスツルメント)を持つ利き腕の関節が、一番先にガタが来るのだそうだ。


 確かにDMTは戦艦より高くジャンプしても、着地する時は「フローター全開」にして、ほぼ自重ゼロにして着地するから、足とかは意外と負担が少ないんだ。高速機動する時にはホバリングするし。


 でも槍で刺突する時はその反動がモロに利き腕部にくるから、DMTで一番ケアが必要なのが利き腕ってことだね。


「ここの部品な、金属疲労がハンパねーんだよ。‥‥今の内に1個予備作っとくか」


「予備? あ、CAD/CAMか」


「そうそう。お~い。柚月(ゆづき)ぃ!」


「‥‥‥‥。は~い」



 どこからか小さい声がする。と、整備橋の下、DMTの足部の方から多賀柚月さんがぴょっこり顔を出した。居たんだそこに。


「柚月。ここの部品1個発注な。あ、待った。今型番の画像、アノ・テリアで送るから」


「‥‥‥‥。了解です」


 多賀さんのブカブカの帽子が縦に揺れて、小さな声がした。確か多賀さんが、CAD/CAM担当。網代さんが3Dプリンター担当だったハズ。この2つの機械があれば、DMTの部品や装甲から僕のほ乳瓶まで、素材さえあれば作れてしまう、そうだ。


「‥‥‥‥。今削り出してるブラの金具の後でいいですか? 師匠?」

「‥‥ああ。急がない」


 今一瞬何か聞こえたけど、聞こえなかったフリをする。


 僕も。七道さんも。




 気を取り直した彼女が何事もなかったように。


「やっぱ。重力子エンジンの発明、実用化ってのが革命的だったんだよな。エンジン動かしてれば無限に電力は生まれる。その電力で戦艦を空中に浮かす。鉄や大量の素材を積み込んでも、メガフローターで自重ゼロ。艦内では必要な部品は自分で作れる、と。これで凄まじい程の継戦能力を得た訳だ、近代戦艦は」


「AIの自動化も、だよね」


「そう。よく知ってんな。暖斗くん」


「親が言ってた」


「そうか。この戦艦のAI完全自動運転化も、重力子エンジンのおかげだよ。AIって、この艦のコト全~部把握して、ハッキング対策しつつ超高速で思考してるから、消費電力ハンパないらしーしな。そのAI様のおかげで、私らみたいな中学生だけで運用しちゃってるんだけど」


 七道さんは珍しくちょっと小声になった。


「‥‥‥‥けどさ、一部の大人はこの体験乗艦に反対してるらしいな」


「え? なんで」


「こっちはウチの親が言ってたハナシなんだけど。中学生に運用させた実績を作って、いざ戦争になったら、徴兵年齢を14才まで下げるつもりじゃないかって。まあ、ネットでよくある陰謀論系のハナシなんだけど。『市外』の野党議員とかが言い出しっぺらしい」


「‥‥‥‥マジ? 政治とかはよく分からないし兵役義務は果たすけど、徴兵はイヤだなあ」


「だろ。でもこの通り、絋国には男子が生まれない。絶対数が少なくて、軍は万年人手不足。で、『#ガチ中学生16人で戦艦乗ってみた。ほおら、楽しそうでしょ。志願兵の応募サイトはこちらまで』っちゅう、現役中学生によるあざとカワイイ、キャンペーン実施中」


「ああ~。『艦内の楽しそうな様子を動画配信せよ』って指令(タスク)があったね。ネットつながらないから2日で終わったけど」


「一応、子恋と渚が、日次報告書も兼ねて撮影だけは続けてるぞ。編集は紅葉ヶ丘」


「すげー適役。何それ面白そう」


「あいつらじゃあ盛り上がらね~だろ」



 七道さんが、手を動かしながら言う。


「‥‥‥‥なんかさあ、話が逸れたぞ。重力子エンジンは革命的だって所で。私が言いたいのはな‥‥」


「あ、そうだっけ」





 七道さんのDMT構造学は、まだまだ続く。






※換気は大事。本当に。

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