第112話 イポテス①
陣地の中、各機が呼吸を合わせる。
桃山さんのアイデアを受けて、「仕切り屋」ソーラさんが音頭を取る。
「確認します。全機で一斉フル射撃。からの各機中央へ集合。暖斗さんを中心に接続確認。そして暖斗さんのマジカルカレント『暴風』。ここまでいいですか?」
桃山さんの提案を実行することに全員で決めた。今はそのお互いの挙動の確認をしているところだ。
「うん。僕は撃ったらカタフニア呼んで、マジカルカレントの所作に入ると」
「そうです!」
「アホ暖斗。アホみたいなでっかいマジカルカレント頼むぜ」
「アホ言うな!」
「ふふっ」
コーラと掛け合いに、背中の愛依が思わずふきだした。
「怖くない?」
「大丈夫よ。みんなの邪魔にならないように、わたしは静かにしてるね」
そうなんだ。愛依があまり喋らないんで、なんでかな? 怖いのかな? って思ってたけど、戦闘に関係ない発言を控えてたのか。
「でも、わたしという『マジカルカレント治癒因子』が隔壁操縦席にいる状態で、暖斗くんが発動したらどうなるか? そこには興味があるよ。これも臨床試験ね」
良かった。初めてDMTに乗って緊張してるかと思ったけど、案外大丈夫そうだね。
でも逆に僕の方が変な気持ちだ。まるでバイクに乗ったみたいな恰好で愛依が背中に張りついている。僕がマジカルカレント発動してる時って、変顔とかになってないかな?
ああ、そうだ。こんな時に悠長な例えだけど、カラオケ熱唱してる時に視線を感じて「はっ!?」って我にかえるアレだ。――――やばい。なんか僕の方が緊張してきた。
「じゃあ。行きますよ? ‥‥5、4、3、2、1‥‥ハイ!」
ソーラさんの掛け声で、皆で一斉に動く。陣地の塹壕から機体を出してのフル射撃。
この場面ではエネルギー残量を気にしなくていい。全部攻撃に割り振ってビームを叩きこむ。
敵が軍勢なのも逆に好都合だ。大して狙わなくっても当たるからね。
でもさすがに見えただけでも大軍勢だった。各国の軍が、それぞれ隙間がないくらいに壁状になって、ゆっくりこちらに進軍してきていた。
そこにビームを打ち込んでいく。敵もシールド満タンだろうから、それを削るのと威嚇が目的だ。
よし! 接近してくる敵の戦列が乱れた。急な大量砲火だ。「なんだ? どうした?」ってなるよね?
ゆっくり進軍されてたけど、まず敵の足を鈍らせることができた。初手は成功。
『コーラ機、ソーラ機、暖斗機の管制に入ります』
操縦席に機械音声が流れる。さっき各機で設定した管制の変更を、順次実施していく。
ちなみに書きかえたからって、全機を僕が操縦するワケではないよ。あくまでマジカルカレントの影響範囲を広げるため。パソコンのホストとサーバーっていうのが近いかな。僕の機体がホストになって、各機の行動を認証するんだ。
手用兵装の認証の要領で、各機のエンジンを僕名義にしただけ、って言えばいいのかな? その上で増幅した各機の発生エネルギーをカタフニアに送る。
『来宮機、桃山機、暖斗機の管制に入ります』
僕らの機体は隣同士、手をつないだ。手首の「磁性アタッチメント」で有線接続するために。
――――まるで、子供の遊戯のように。仲良しのように。横一線に並んで手をつないでいた。
「来い! カタフニア! これが最後だ!!」
空がにわかに曇る。全幅400メートルの移動砲台を呼び寄せた。
『初島機、浜機、暖斗機の管制に入ります』
僕はいつもの様に深く呼吸をして、脳内に自機の4つのエンジン、両翼の6機のエンジンを想起する。
「撃つのね?」
胴に回された愛依の手がこわばり、微かに震える声が聞こえてきた。だよな。さすがに緊張してるよな?
「うん。大丈夫だから。目をつむってて」
なるべく落ち着いた声を作って、背中に語った。手袋越しににぎった手は、にゅるんとしていた。
『カタフニア、コーヌス・テレスコープに接続。主砲発射準備。レーザー発振管に荷電します』
「ふうう」
息を吐いた。――これで所作は完了だ。
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
あれ?
ゴゴゴウン ゴゴゴウン。
「どした? 早く発動しなよ」
コーラにけしかけられた。え? あれ?
他の6機どころか、自分の機体の重力子エンジンも吹き上がらない。――重くて低い特有のエンジン音のままだ。
ゴゴゴウン ゴゴゴウン。
電車が通りすぎるみたいに、僕の、そしてみんなの重力子エンジンは、あたり前の音しか出ていなかった。
「暖斗くん!?」
「‥‥‥‥マジカルカレントが‥‥発動が‥‥‥‥できない?」
ドギン!! ガギッ!! ドゴドゴッ!!
土を固めて作った防御壁に、変な音が響く。
「ソーラ! これって!」
「きゃあ!」
「きゃあぁ!」
次々と仲間の機体が崩れ落ちていく。
「有質量弾です! 首や関節狙‥‥」
バギィィン!!!
ソーラさんが被弾すると同時に、僕の機体にも衝撃が走った。
全滅だ。7機、すべて。
陣地の中で仰向けに擱座していた。メインモニターは当然上を向いている。
南国の島の空の、故郷より少し濃い青が、とてもきれいだった。




