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第109話 変な船②






 まほろ市民病院、南側駐車場。


 先ほど暖斗機と敵2機との戦闘があった場所だ。その2機は今、程近い場所で大破している。


「エラーダ。救難信号だしたか?」


「まだだ」


「だよな。今頃全DMTで総ががりだろうよ。俺ら敗残兵の収容なんざ二の次だ」


「まだ負けてない」


「めんどくせ~なオマエは。愛機から煙が上がってんぞ? ‥‥まあアレだ。本部の連中は戦争に勝ってからゆっくり収容する算段だろうから、俺らはここで駄弁ってりゃいいのさ」


「アギオス」


「なんだ?」


「勝つと思うか?」


「その主語はどっちだ?」


「侵攻軍が、だ。コンギラトの集積艦隊がやられたらしい」


「あ~。あの戦艦が動いちまったからな。嬢ちゃん人質にでもできれば止めれたかもな」


「何故殺さなかった?」


「そりゃあ無理だ。あんな形で世界中に『非戦闘員の身分を破棄』って宣言しやがったんだ。逆に世界中の世論が『あの子らを殺すな』ってなるだろが。殺っちまったら大義を失う。‥‥‥‥‥‥待てよ?」


「どうした? 世論の件は理解したが?」


「‥‥仮に紘国の首脳陣がコレ思いついたとして、中学生に言わせるか? しないしできね~よな? 嬢ちゃん達のガチの? アドリブ?」


「アギオス?」


「‥‥イヤ待て待て。だとしたらあの16人の中にこれを発案したヤツがいるって事じゃね~か!? そんな悪魔の頭脳が!? あの戦艦を操るのか!?」




***




「もうアノ・テリア使えるかな? 陣地のみんなも聞いて」


 ベロノウの陣地を攻撃後、上空10,000mから、アマリア港上空へ移動中。


「ハックした衛星回線で使用可能だよ。こちらの声は届くはず」


 紅葉ヶ丘からの返事だ。


「主砲副砲が蓄熱したから少し冷ます間、話せるだけ話そうか。私達付属中で説明するから。艦艇突撃(グレートアサルト)の時以外でね」


 そう前置きして、子恋は語りだした。



「まず、紘国最高の軍事機密とはいえ、みんなには黙っていてすまなかった。この戦艦、いや艦艇はお察しの通り特別なんだ。やけに丸っこい形してるでしょ? 戦艦にしては。理由があるんだ。それはこの艦艇の外面形状」


 続いて渚が補足する。


「潜水艦やステルス戦闘機を想像してくれたらいいわ。それぞれ特殊な形状をしてるでしょ? このカタチが重要だったの。敵の電子索敵を受け流す流線形。それが――」


「今回3Fの、後部デッキの洗濯物で阻害されてたんだ。私達が知らない間に設置されてたんだよ物干し台が。盲点だった。これじゃあノイズが出て当たり前だし、何度検出しても原因わからなくて当たり前だった」


 最後は紅葉ヶ丘がまとめた。そして子恋が。


「潜空艦モードの時には逐一主砲なんかも収納するんだ。艦を流線形に保つために。ああ、もっと早く気がついてれば、ねえ」


 言いながら正面モニターの地図をチラリと見る。


「まあ、過ぎた事はしょうがねえだろ? まさかこの艦にそんな秘密が隠されてるとは知らなかったしな。知ってたら逢初女史に頼まれたからってあそこに物干し台なんて設置しね~し。私らも」



「耳が痛いよ七道さん。‥‥そして秘密は形状だけじゃあないんだ。この艦の装甲版、実はこの装甲1枚1枚が特別製でね。‥‥で、あの暖斗君のDMT、UO—001の4機複合エンジンって凄い技術だよね?」


 訊かれた七道が答える。インカムの声が響いてくる。


「そうだ。通常DMT1機にひとつのエンジンしか載せられない。理由は重力子エンジンだから。隣接する複数エンジンは、発生させる重力の影響がお互いの足引っ張りあって上手くいかないぜ」


「そうだよね」


「それを解決するのが各エンジンを隔てる『重力遮断材』だ。これが作りとしては重力子回路と同じもんだとはパイロット連中には説明したっけな。エンジンルームを区切る間仕切り(まじきり)板。コイツが各エンジンブロックの重力干渉をキャンセルしてくれるから、『射程無限』の重力が邪魔し合わねえ作りになってる」


「なるほど。『電子の働きを重力子の働きに換える』のが重力子回路。『電子の働きで重力子の働きを止める』のが重力遮断材、だね。実は同じ重力子回路なんだけど、目的と効果が真逆なんだ」


「そうだぜ。子恋うまい言い回しだな。だがこういう設定説明に興味ねえ輩は、ここでブラウザバックするんだぜ」


「出た。エア解説動画の(ぬし)ムーブ定期」


「うっせ子恋。で、私に振ったはいいけどよ。今はラポルトの秘密解説だろ?」


「うん。ありがとう七道さん。で、さらっと言っちゃうんだけど、このラポルトの外面装甲板26,000枚。その全てにこの重力遮断材が用いられている」


「‥‥‥‥。は?」

「うっそ~」


 甲高いかわいい声を上げたのは多賀柚月。間延びした声を上げたのは網代千晴だった。


「うん。良いリアクションありがとう。‥‥どうやら陣地の子達には聞こえてるけど向こうの音声は届かないみたいだね?」


「‥‥って子恋。ホントにさらっと言いやがったな。尋常じゃあねえぞ。その事実は」


「あ~~。マジだるい案件。2万? その装甲に全部配線して設置してく? マジ想像しただけで3回は吐けそう」

「‥‥‥‥。『遮断材』って、超最新技術で、量産できないしメチャクチャ高価って日金さん言ってた」


「本題だな。きっちり解説頼むぜ子恋」



 そう言う七道に、子恋はパッドを見ながら少し表情を曇らせた。


「ごめん。砲身が冷えたみたいだ。アマリア上空にも着いたし。再度艦艇突撃(グレートアサルト)するから、一旦区切るよ」




*****




「緊急連絡が来ている。例の戦艦がガンジス島北東から消えた。西方艦隊、アングリア、ベロノウ陣地に現れている。何らか方法で常識外の機動をしている。総員戦闘配備。上空警戒を密に!」


 アマリア港を制圧したツヌ国軍に、そう情報がもたらされた直後だった。


 内港直上に、ラポルトが突然出現した。




「ここは既に地形データ取得済み。スキャンは早いよ」


「了解した。泉さん、超信地旋回を10%早く」


「了解」


「ツヌ国戦艦が浮上中。照準レーザー撃たれてるわ。艦残存エネルギー61%」


「やっぱり。ここからが正念場だね。主砲副砲展開。戦艦を先に叩くよ!」


 一瞬ラポルトの主砲が早い。敵戦艦の胴体に命中させた後、敵艦も応射する。



 ――――が。



「何だあれ!? ありえないって!?」


 屈強なツヌ国軍人が、悲鳴のような声を上げた。


 ラポルトは、主砲が迫るタイミングで、まるで跳ねるバスケットボールの様に上空に避けてみせた。――――全長550mの超巨大艦が、である。


「待て待て。今一瞬で跳ね上がったぞ。衝撃で艦内はぐちゃぐちゃな筈。本当に有人艦なのか?」


 ふんわり戻って来たラポルトが、さらにツヌ艦を射撃していく。何条もの光の柱を喰らった艦は、黒い煙を噴き出して傾いていく。



「うおわあぁ! 実損してる! 回避! 回避ぃ!」


 ぐらぐらと揺れながら戦場を離れる戦艦に、しかしラポルトは追加の攻撃はしない。かわりに。



「‥‥‥‥ターゲット選定終了。慎重にね。澪」


「アマリアの人の捕虜いるかも。疑義は3回やった」


「じゃあ大丈夫だ。砲撃開始!」



 ゆっくりと旋回しながら、ラポルトの砲塔が火を噴いていく。アマリアの港湾施設を残しつつ、ツヌ軍だけに加撃していった。





「奴ら人がいないトコばっか狙って。余裕かましやがって。狙撃兵!」


 ツヌのDMT、ロングライフルがラポルトにその銃口を構えた瞬間。


「‥‥‥‥? 消えた?」





 またもや、巨大戦艦は姿を消していた。





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