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第100話 布陣Ⅲ②






 思ったより仲谷さんのおにぎりはオーソドックスだった。あの「斜め上の味付け師」が、僕らの常識を超えた具を入れてくるのかと思ったけど。

 そして僕は自室に戻ってパイロットスーツに着替える。――もちろん洗い立てのヤツだよ。昨日は愛依にスーツを脱がされたし、朝起きたら着替えが全部セットしてあったから、愛依がいつもみたいにこの自室から持ってきてくれたんだ。



 あれ? 今気づいた。マジカルカレントで動けなくなるたびに、洗濯物が出ていたはずだよね?


 もちろん体が動けば自分でやってるけど、でも「動けない時」って、誰かが洗ってくれてたんだ。僕の下着まで。その誰かが。



「もう。男子って、お洗濯物は勝手に洗って畳まれて、タンスにしまわれてると思ってるよね?」



 ああ、まだ旅の最初の頃だ。こんな事を言われたのを思い出した。




*****




「え? 出撃しない?」


 それから2時間後、のDMTデッキ。てっきり桃山、浜ペアの交代で、僕が出撃するのかと思ったけど。次の順番は初島、来宮ぺアが行くそうだ。


「暖斗くん。君にはMK後遺症候群があるでしょう? DMTに乗るのは接敵が確定した時にしたい。‥‥いや、大丈夫だよ。『陣地』まではラポルトの速力(あし)で2分だし、でも、このラポルトの姿をなるべく敵に晒したくはないんだ」



 今さら、じゃあないのかな? 子恋さんはこう言うけれど、ラポルトなんて全長550メートルの超巨大戦艦だし、(これより大きいのは紘国旗艦ティムール、皇帝閣下のヤツだけなんだって)ハシリュー村とかの周りをさんざんウロウロ飛んでたんだから、敵にはもうその存在はバレているはずじゃあ?


 しかし、ラポルトって戦艦なのに変わった形してるよなぁ。みなと軍港で初めて見た時は「あれ?」って思ったよ。何でこんな形にしたんだろ? これじゃあまるで‥‥。





 と、そこで、東トゥマーレ軍が動いたとの報が入った。後方展開してた敵陣地から、DMTが大量に、戦列を組んで前進開始したらしい。僕は愛機の操縦席に入って慌てて確認する。


「紅葉ヶ丘さん! 西の敵は? 砲撃は?」


 昨日みたいにまた、ビームと弾道ミサイルを織り交ぜた『ミルフィーユ砲撃』をしてきたら、僕のカタフニアで対処しなきゃならない。


「‥‥西の洋上艦隊にその気配は無いよ。昨日こっちの応射で海ごと煮込んでやったからね。ただ今後も無いとは断定できない」


「そうね。暖斗くん。敵が『そうしてきた時』用に、こちらもカタフニアを温存するしか無いわ。カタフニアの使用はこちらの指示でいいかしら?」


「了解。渚さん」


 そっか。と、いう事は、昨日みたいにカタフニアで敵DMTのシールドバリアを剥ぎ取る戦法が使えないんだ。敵が手札を温存するなら、こっちも温存するしかない。東トゥマーレのDMTは、オプション機のドローンを壊せば本機は撤退してくれるって聞いてたから、昨日より戦いやすいって思ってたんだけど。




 地平線に立ち上る戦塵が見えて、敵が近づいてくるのがわかった。正直今まで成り行きというか、その場その場の流れで参戦してきたから、こうやってじりじり敵と正対するのはかなりのプレッシャーだ。


 麻妃が送ってくるDMT支援ドローン、KRMの動画をじっと見ていた。敵の最前線が停止した。距離15戦闘距離(スタディオン)。2700mだ。後続もあの後に順次着くんだろう、と思ってたら。



「みんな、発艦して。暖斗くん。降下したらカタフニアを呼んで!」


 インカムから渚さんの声だ。今僕らがいるのはまほろ市の北東。市の南側にある市民病院から2km、その南にある僕らが作った防御陣地からは4kmは離れている地点だ。


 僕のUO-001、初島来宮機のUO-004、005が順次発進て地面に降下していく。



「来い。カタフニア」


 僕がそう呼ぶと10秒強でカタフニアが現われる。いつも上空に隠れているコイツは無人機だから、Gとか無視してマッハ3で降りてくるんだ。


「契約通り電源(エネルギー)()れてやるから働け。僕達を運ぶんだ。‥‥いいか? 絶対に落とすなよ」


 カタフニアは無言でDMT懸架アームを降ろしてくる。来宮機と初島機がホールドされた。僕は、外部電源接点ポイント、「コーヌステレスコープ」にエネルギーチューブで接続される。


「僕らのDMTは有人機なんだ。隔壁操縦席(ヒステリコス)の能力でもいきなりマッハ3で動かれたらGを相殺できない。お前、ちゃんと考えてやれよ?」


 念を押す僕に返事をするように、カタフニアは一度その巨体を沈めると、ギリギリの加速をしながら上空へと僕らを運んでいった。



 あっという間に上空3000mまで達した所で、一転降下を始める。地点は渚さんが選んでくれてる。僕らがなるべく安全で、敵にとって一番イヤな場所に。


 衛星軌道から強襲揚陸艦で降下してDMTを戦場に放出する「隕石(メテオリティス)」に近い動きだけど、当然僕らはそこまでの訓練をしてないし、プロ軍人さんみたいな頑強な肉体も持ってない。


 だから上空3000mがせいぜいだけど、初手で「カタフニア」砲撃を予想している敵にはこれで十分なんだって。


 カタフニアは地上に降りる瞬間に ふわっ って制動をかける。ちょっと酔いそうだけど、音も無くてソフトな降り方だ。敵も一瞬遅れる。


 僕らが降下したのは、敵から見て右後方の、ちょっと小高い丘陵だった。眼下、整列した敵部隊がこちらに背を向けて整列していて。そこに僕の(オミフリ)疾風(アエーマ)2門砲と初島来宮ペアのSMG(サブマシンガン)で加撃していく。



 敵は「カタフニア」を見て明らかに動揺していた。そりゃ全幅400mの戦艦用オプション砲台が突然現われたらビビるよね。応射もしてきたけど、僕の001の立方体空間バリア、「メガマス」を展開させて防いだ。



 あの時、――対ゼノス機戦の後でとっさにできてたのを、練習でモノにしたんだよ。


 一辺が1mの「光格子フテローマ立方体」をDMTの全面空間に漂わせて、だんだん密度を上げて壁みたいにしていく。あ、ちゃんと窓になる銃眼は開けとくよ。





 そして守りを万全にしてから、敵集団にビームを打ち込んでいった。





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