第10話 女子会(議)Ⅰ③
「女子? 会議?」
「そだよ」
「秘密の?」
麻妃は、僕に、耳打ちの姿勢のまま、うん、と首を縦に振った。
「何のために?」
「‥‥暖斗くん。こんな、『ドキッ! オンナばかりの空中戦艦♡』なんだからお察ししてよ」
「‥‥ん? ‥‥‥‥あっ!? ‥‥わかったよ」
「そうそう。聞いちゃあだめなヤツだぜ?」
麻妃にたしなめれてやっと、なんだけど、僕にもわかった。
そういえば、逢初さんがこの前、「下着が不足」とか、ポロッと言ってたよな。
そうか。予期せぬ長期滞在になったから、身の回り品で足りなくなる物とかもあるのか? 洗濯のローテがキツいとかシャンプー足りないとか、女子的に必要なあれこれが。
あれ、そういえば僕の洗濯物って、どうなってるんだろう? もちろん自分でやってるんだけど、後遺症で寝込んでる時って?
逢初さんが戻ってきて、もといた席に座る。
僕は取りあえず食事を終わらす事に注力した。お呼びでないなら、さっさとゴハンを終わらせて立ち去るに限る。
ただでさえ折越さんに話しかけられて、変な空気になってんだから!
と、そこへ、乗員の女子達がどんどん食堂へ入ってきた。紅葉ヶ丘さん以外全員だ。
遅かった。逃げ遅れた。
子恋さんが前に立って、場を仕切る。
「仲谷さんはどうする? あ、インカム‥‥お皿を洗いながら‥‥‥おけ。紅葉ヶ丘学生も聞いてるね? 食事まだの人は食べながらでいいからね。あとは‥‥‥」
――――僕と目が合う。
「あ、咲見くんいたんですね。そっか。じゃあ、後で呼ぶ予定だったけど、こっちの話題からいこうか」
僕には全然状況がわからない。「え? 始まるの?」と戸惑う。
「今から始まるのは、女子会(議)って名付けた、この戦艦にいる女の子オンリーのミーティングよ。この艦を運営してくにあたって、問題とかを話し合ってるの。女子だけでね。第1回は、暖斗くん医務室で寝てた時。暖斗くんも含める時は正確には『全体会議』ってなるよ」
と、再度逢初さんからの解説。なるほど。僕の知らない間、というか医務室で寝てたんだからしょうがないか。
食堂を見渡すと、だいたい同じ中学で固まって座っていた。司会役の子恋さんが前に立ち、渚さんが傍らで座っている。この場にいない2人はインカムで参加か。
「じゃあ、第2回女子会(議)を始めます」
おー、始まった。何話すんだろ?
「えっとね。ちょうど咲見くんがいるからね。最後に取っておいた大問題にいきなり行っゃちゃうよ」
子恋さんは、MCみたいなそぶりで話し始めた。堂に入った話し方だ。
で、なんだろう。大問題って。食料があと3日分しか無いとか? 海軍本部から重大な伝達があったとかかな?
僕もいるし? ‥‥‥‥あ、まさか!? 僕のBot戦が不甲斐ないとかか?
「‥‥‥‥この戦艦の名前がちょっとアレなんで、テンションが上がらないって意見が出ています」
はい!?
椅子からすべり落ちそうになった。みな口々にしゃべり出す。
「だよね~。『ウルツサハリ=オッチギン』だもんね」
「‥‥‥‥なにそれ食べれるの? (笑)」
「随伴艦のあの、『アジャ=ガンボ』ってのよりはマシだけど」
「同意かしら。もっと他にあったでしょう?」
「ありえないでしょ? 『私今度、ウルツサハリ=オッチギンに乗ります』、って友達に言えなかったもん」
「そ、そだよ」
「変更一択っス」
「櫻の言うとおり~」
「あ~、一応説明させて、みんな」
子恋さんが場を仕切る。ちょっと困った表情だ。
「あのね。一応。むかしね。絋国海軍を近代的にする時に、大変お世話になった軍事顧問、多大なご尽力をいただいた、所謂お雇い外国人の方がいらっしゃったのね」
へ~~。そうなんだ。そんな人がいたと。
「その恩を忘れない様に、伝統的に絋国艦艇にはその方の母国、大陸中央の言葉を付けてるのよ。だから、‥‥あんまりその、語感が‥‥、絋国語の美的感覚にそぐわないかもだけど、その方とその国への敬意は忘れないで」
うんうん、そうでしょう。僕は名前なんて気にしてないし。――まあ、もっと強そうなヤツがある気がするけど。――このままでいいんじゃない?
さらに子恋さんは。
「あとその大陸中央の言葉で『ウルツサハリ=オッチギン』の、『オッチギン』は『末っ子』って意味なんです。ウルツサハリシリーズの、最終3番艦、って意味なのです!」
うん。――――正直その説明は入って来ない。誰にも刺さらないと思う。うん。
結局、全然話がまとまらなくなった。食堂には、ガヤガヤと女子達の放課後トークのような喧噪だけが響いていたよ。
どうするのかな? てか、僕、この場にいる意味ある? って考えはじめた頃。
長いひそひそ話の後、子恋さんが傍らの渚さんと頷きあってから、意を決したように発言した。
「いいわ!! ――――正直私達も、この艦名には含む所がありました。みんなから艦名案を募りましょう!! 渚学生、書記を!」
ざわざわ、わいわいしていた食堂が一瞬静かになって、その後は万雷の拍手になった。
いや、変えるんか~い。
僕は心の中で静かにツッコんだ。
※暖斗が椅子からすべり落ちそうになってからのセリフ、発言順。
網代、折越、岸尾、泉、桃山、浜、来宮、初島




