第10話 女子会(議)Ⅰ②
折越さんに斜め上のリアクションをされ、どう対処していいか? フリーズしてしまった僕なんだけど。
タイミング良く援軍が現われた。
「お~。戦う赤ちゃん殿。こちらにおられましたか」
麻妃、と、その後ろから‥‥逢初さんが入ってきた。麻妃は赤い帽子にジーンズ生地のショーパンといつもの私服姿。逢初さんは白衣は脱いでいて、見慣れた白セーラーだ。
良かった、助かったよ。これで正式にぼっち飯回避だ。
って?
「麻妃。今何て?」
逢初さんが申し訳なさそうに。
「ごめんね。暖斗くん。暖斗くんがミルク飲む件は、もうみんなに周知されてて。わたしがほ乳瓶をCADで作った時に、七道さんが」
『彼の癖か?』
「って。マジカルカレント後遺症って疾病の、ちゃんとした医療行為だよって、わたしからみんなに説明して、誤解は解いておいたからね」
麻妃のかわりに、ちょっと早口でそう話した。
あっぶね。あっぶねえええ!!
齢14才にして、マニアックな人の認定をもらう所だったとは。
って、それもショックなんだけど、それだけじゃなくて!!
「ああ、麻妃だけじゃなく、もうみんなに知られてるって事? マジ? うわあ‥‥」
僕は頭を抱えた。麻妃がフォローをしてくる。
「大丈夫だって。暖斗くんが特殊性癖でもみんなそんなに気にかけてないし、不可抗力だってわかってるから」
「そうそう。流出したのは、ほ乳瓶とミルクの話だけよ」
「性癖!? だけ!? ――――イヤ!! ほ乳瓶使って無いでしょ!?!?」
「あ、ええと暖斗くん。わたしが人事不省になることもあるからね、動けなくなった暖斗くんのお世話の方法は、他の女子でも『対処マニュアル』として共有すべきってことになって」
そこへ麻妃が。
「で、どうだった? 一泊二日の医務室滞在は。愛依ママの言う事ちゃんと聞いた? 赤ちゃん暖斗。ヒヒヒ」
「赤ちゃんじゃね~し!!‥‥どうも何も、こんな目に遭うなら、DMT乗るのも考え物だよね」
「残念だなあ。暖斗くんが寝込んでる時って、必ずウチは自分のKRMメンテやってるんだよね。是非イジリに行きたかった」
そう言いながら、食堂の4人用のテーブルの、麻妃は僕の正面に、逢初さんはその隣に座った。
「イジリは余計だよ。でもヒマだから顏は出してくれても」
「うん、ウチも是非カワイイ前かけ姿の暖斗くんが、愛依にゴハン食べさせてもらってるトコ早くみたいよ」
それはいいから! と言い返そうとした所で、逢初さんが席を立った。
僕はチャンスとばかりに麻妃に顔をよせる。
「あのさ、相談があるんだけど」
「何さ」
「麻妃って昔入院とかしたことあったよね?」
「ウチが? あーはいはい」
「その時さあ、病院の人って親切だった?」
「‥‥そだね。そりゃあもう親切だったなあ。献身的、というか」
「顏とかすごい近づけて来たりとか?」
「‥‥‥‥暖斗くん。引っかかる言い方するねえ。医務室で愛依の顏が近いと」
「ま、まあ」
「愛依は没入する天然だから。純粋に医者の役目を必死に果たそうとしてたんじゃない? あんまり深く悩まなくてもいいよ。中2男子。ひひひ。――あ、あと、入院先の看護師さんは、みんな顏近かったよ。そういうもんじゃない?」
「そうか。‥‥‥‥うん」
僕は麻妃に、逢初さんの奮闘ぶり、というか、サービスぶりを伝えた。
「ま、それとなく愛依に聞いてみるよ。あんまり頑張りすぎて、『医療サービス』から逸脱してないかって」
「ありがとう。助かる」
「あと、あれね。折越さんのホクロの件もね」
「見てたんだ」
「あれは愛依の天然と対極、すべて計算してやってるからね。誰かが言うでしょ」
女子ばかりが大勢いるこの絋国という国で、麻妃という実際に動いてくれる相談相手がいることは、正直かなりありがたい。
「まあ、ウチは暖斗くんとマブダチってことで、男友達の質と量でマウントとってくる女にも有利取れたりしてるからなあ。幼馴染みとして、ひと肌脱ぎましょ」
彼女は明るく笑った。そして、時計を見ながら、僕に耳打ちした。
「‥‥‥‥暖斗くんが、呑気にここにいる、って事は、まだ知らないんだな。実はこの食堂で、今から『女子だけの秘密会議』をやるんだよ。どうする? このままここにいる?」
‥‥‥‥何ですと。




