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第93話 布陣Ⅰ④

 





 ぐすぐすと泣く愛依の、小さな肩が震えていた。僕は逡巡していたよ。



「光弾だ。流れ弾か? ‥‥にしては」


 紅葉ヶ丘さんの声が聞こえた。振り向くとPCのモニターを覗く育ちの良さそうな彼女が見えた。


「大画面で出すよ」


 手に持ったPCを操作してブリッジ前面、操舵する泉さんの頭上の大型モニタ―に映像を映しだす。全員の視線が集まる。


「あれ? 見た事ある建物」

「まほろ市民病院じゃね?」


 その白亜の建物に光弾が弧を描いて3本。その内1本が施設をかすめて着弾した。

 白黒に明滅する画面。僕の周囲から少し悲鳴が聞こえて。


「あ~。今のやっぱ、まほろの病院、だよね~」


 という網代さんの声に、「そうね」と渚さんが答えた。「今くらいの砲撃量だったら、直撃だとしても病院設備のバリアで凌げるわ」とも。


 子恋さんは深刻そうだった。


「流れ弾にしては‥‥。私達をあぶりだそうとしている?」


 と首をかしげている。病院を狙ったのか? 偶然にしては不自然だ。



「行かなきゃ!」


 愛依が叫んだ。


「もうオリシャさんのオペの時間!」


 まわりが押しとどめるけど、愛依は止まらない。「だめよ。オペの日程が遅れなければ、こんな事になってないよ。やっぱりわたしのせいよ」


 僕も止めに入ったけど、子恋さんが諫める。


「‥‥逢初さん。みんなも。‥‥戦況言うね。敵の数が多いんだよ。想定してたコンギラト勢以外にも、欧圏の国が参戦してる」


「多いってどれくらい?」とコーラが問うと。


「約2倍」と子恋さんはため息まじりに言う。


「欧圏から少なくとも4国。南半球からも1国は。それで手が空いたコンギラトの国がこのまほろ市を狙ってきてる。」



「それってもう紘国VS他の国家。世界大戦じゃ?」



 誰かが言ったこの言葉を皮切りに、みんな一斉にしゃべり出した。


「行っちゃダメよ逢初さん」

「でも」

「うん。正直このままではまほろ市が占領されるのは必至だ」

「そうよう。愛依ちゃん。捕まっちゃうわよう」

「‥‥‥‥それでも行きます。医療関係者なら殺されたりはしないはず」

「‥‥殺されないだけで、何されるかわかんないっス」

「逢初先生。ここは無理しない方が」


「‥‥‥‥。殺されない保証、ある?」

「なあ。行かせらんね~だろ流石に」

「だ、だって逢初さん2回捕まって、結構、ひ、ひどい目に‥‥」

「病院の人って避難できないのかな? こんな状況なのに」


「それは無理だよ。悪い意味でまほろ市は平和都市なんだ。今の今まで攻められると想定してなかったし、まして病院関係だと動かせない患者もいる。オリシャさんの手術もね」


 最後はもう全員で止める感じになって。だけど。



「‥‥それでも行く。行かなきゃ。わたしの初めての患者なのに‥‥‥‥! あああ!!」



 大声で泣き崩れてしまった。愛依の鳴き声はよく響くよ。艦橋の、色々な計器が色んな音を出している中、一瞬でここは愛依の涙に染まって。


 わかってるんだ。愛依が言いだしたら止まらない事を。何よりも自分の責任を感じていて、もしかして、いやこのままだと確実に占領されてしまう病院と、初めての自分の患者と運命を共にしようとしている事を。


 みんな、黙ってしまった。







「‥‥‥‥‥‥‥‥俺が戦う‥‥‥」




 思わずそう呟いていた。自然に、だった。なんだか無性に腹が立ったんだ。


 だってそうだろ? 攻めてくる敵が悪いのに、なんで愛依がこんな悲しまなきゃいけないんだ!?


 おかしいよ。おかしいだろ?


 絶対に!



「渚さん。勝てなくてもいいから、敵の進軍を止めるやり方ってあるよね? 防御陣地もあるし、いざとなれば『アレ』もある。俺1人でいいから、DMTの装備を貸して。市民病院に敵が来なければいいんだよ。手術が終わってみんなが避難するまで」


「‥‥‥‥その方策はあるわ。‥‥‥‥‥‥でもいいの? 本当に? 暖斗くん」


 渚さんにじっと目を見られたけど、不思議と決意は揺るがなかった。いや、決意じゃあ無い。怒りなんだ。それに。


「俺は戦闘後に動けなくなって、何度も愛依に(たす)けてもらった。愛依がいなければ戦い続ける事はできなかった。今度は俺が助ける」


 みんなの視線が集まる。不安そうな顔も多い。


「大丈夫。俺がやる。近代DMT戦で死者が出るのは稀、なんでしょ?」


 そう言いながら子恋さんの方を向くと、彼女はこめかみに手を当てながら答えた。


「うん。よっぽど悪意を持って隔壁操縦席(ヒステリコス)を狙うか、ジャングルの奥地とかでDMTが擱座しない限りはね。そう発言するって事は、少なくとも匹夫の勇では無い、と」


「本当にいいのね? 暖斗くん?」



 ああ、って答える前に、コーラが前へ出た。


「アタシ、オリシャさんのガードナーだからさあ。このアホに付きあうわ。ね? ソーラ?」

「‥‥‥‥ええ。私達は武娘(たけいらつめ)の候補生。アマリアの人は私達が救う。覚悟はできてます」


「どうする? いちこ? 行ける?」

「わ、私は怖い物ない。う、うたここそムリしちゃダメ」


「は~~。もうこういう流れっス。パイセン」

「いいじゃん(さくら)。どっちみち陣地に展開して威嚇警備員やるつもりだったんだから。敵が増えたってだけだよ」



 今のやり取りで、パイロット組の全員参加が決まった。子恋さんがみんなの前へ出て深々と頭を下げた。


「‥‥‥‥みんなありがとう。ひとりの紘国軍人として、御礼申し上げます。‥‥だけど、無理だけはしちゃ駄目だからね? だったら出撃の許可は出せないよ?」


 珍しく仲谷さんが発言する。


「みなさん。大丈夫です。きっと上手くいきます! この選択は吉です!!」


 なんか病院でもそんな事言ってたね。あ、ハシリュー村の時でも。仲谷さんって霊感ある? なんか占い師とかみたいだ。でもこれがみんなの背中を後押しした。


「メンテ組はやる事やるだけだ。以上」


「ちなみは愛依ちゃん病院へ送ってくしぃ。ガードよろしくね暖斗くん」


「私はやはり操舵を」


 戦艦のバックアップ組もやる気スイッチが入った。そして麻妃が。


「‥‥なんだよ。いきなり覚醒か。まあウチは、ぬっくん全力サポーターだゼ☆ 昔からね」



 子恋さん渚さん紅葉ヶ丘さん。附属中3人娘があらためて前に出てきた。子恋さんの



「愛依さんを。病院を。新しく生まれてくる命を守りましょう」


 という言葉が、妙に心に残った。



 僕は愛依に駆け寄った。自然と手を取りあう。


「‥‥‥‥ありがとう。暖斗くん」


「僕が守るよ。必ず。怖い思いもさせない。愛依はがんばって、オリシャさんを救って」


「‥‥一人称が『僕』に戻ってるよ‥‥」


 その言葉に、一呼吸おいて各所で笑いがおこった。





「ね、円陣組もうよ」


 といういかにも体育会系の提案をした初島さんの声が終わる前に、ラポルトのレーダーから警報音が聞こえた。



 15km西のベースキャンプから、じゃない。


 さらに西、洋上の集積艦隊からの





 大規模曲射砲撃が迫って来ていた。






※「やっと最終決戦。もう異世界いかないよな?」と思ったそこのアナタ!!


ここまで、この作品を読んでいただき、本当にありがとうございます!!


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