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第10話 女子会(議)Ⅰ①

 




 日付が変わって今日から8月。時刻は7:30。


 あれから逢初(あいぞめ)さんに、運動負荷心電図検査(CPX)、というのをやってもらって体の復調が確認できたので、僕はやっと自由の身になった。


 ちょうどその時間でもあるので、食堂に来ている。

 うん。やっぱり自分の手でゴハンを食べるのがイチバン落ち着くよね。


 医務室で色々してくれた逢初さんには悪いかな。こんな事言っちゃあ。


 食事係の仲谷春(なかたにやよい)さんの作る温かいゴハンは少し変わった味付けだけど、おいしい。

 その点には不満は無いんだけれど‥‥‥‥。





「ハァ~。師匠。どっかにあ~しを見つけてくれるイメケンいませんか~?」


「‥‥‥‥お前彼ピ持ちじゃなかったっけ?」


「アイツの事は忘れましょうよう! この航海中は」


「乗りかえんのか。自分で探せよ」


「無理ですよ。無理ゲー。こんな軍艦に押し込められて島の荒野を何日も。出会いの機会損失しまくりですよ~」


「それは確かにな」


 と、僕の席からちょっと離れた所で話してるのが、網代千晴(あじろちはる)さんと七道璃湖(ななみちりこ)さん。

 そんな2人を黙って見てるのが多賀柚月(たがゆづき)さんだ。


 七道さんとは以前、格納デッキでマジカルカレントと重力子エンジンの事で相談を聞いてもらったばかりだ。


 この3人がいわゆる「工科」、海軍中等工科学校から選ばれた3人で、この戦艦の機械関係のメンテナンスを一手にやってくれている。



 なんか、口ぶりを見ていると、リーダー格の七道さんを、他の2人は「師匠」って呼んでるみたいだ。同級生だよね?


 網代さんが机に突っ伏したまま話し出す。

 毛先のカールした髪をシニヨンにしている。


「あ~、誰か金持ちのイケメンで、私を第一席(ファースト)にしてくれる人と出会えないかなあ~」


「令和通りで探せ」


「駅前じゃないっすか~」


「‥‥‥‥。ちーちゃん。あそこは、夜、夜酔っぱらいのオジサンしか居ないから行っちゃダメ、おばあちゃんが言ってた」


 2人のやりとりに多賀さんが無表情で入った。髪をくるりんぱで纏めて、作業帽に入れ込んでいる。そのせいなのか彼女が小顔なのか、ぶかぶか帽子が顏半分を常に隠していて表情が見えない。


 多賀さんがしゃべったの初めて見た。おばあちゃん子なのかな。


「敵兵でもイイです。全然イケます」


「敵兵って‥‥! でもアッチの国じゃあさ。私ら絋国女子を口説いて連れ去る専門の、イケメン部隊があるらしいじゃね~か」


「国によっては女子不足らしいですもんね。出会えるかなあ。異国の王子様」


「この辺じゃあBotくらいしかいねーだろうな」


「だからあ、ちょいちょい話を現実に戻さないでくださ~い」



「‥‥‥‥。異国の地でも何でも、『タマハビ』に持っていって、ちゃんと相手を見定めなさいってお母さんが言ってた」


「お、ゆず。タマハビ!! タマハビかあ!」


「おお、タマハビか!! 柚月の母ちゃんいい事言うな」




 ‥‥‥‥僕は「タマハビ」が一体何なのか、見当も付かない。

 女子って、割とすぐ略語とか名前の言い換えをするよね。


 変にそれ何? って聞くと、


「知らないの?」


 みたいな空気になるし。


 変化のスピードについてけない、っていうか、ついてく気も失せてるよ。

 まあ、麻妃(マッキ)に聞けばいいんだけどさ、僕の場合は。





 ただ、女子ばっかでこういう知らない単語が飛び交う空間は、正直居づらい。女子校ってこんな感じか。この食堂で、僕の居場所は残されてはいないのだ。ああ。




 と、そこへ。


暖斗(はると)く~ん」


 (おり)(こし)ちなみさんが寄ってきた。あ、この子も「工科」だったっけ。商業科か。


 濃い目のグレー色のブラウス、胸元を大きく開けて、出した裾は左側で赤いスカーフかなんかで結んである。紺とグレー系のグラデーションの、チェック柄の短いスカート姿だ。      

 菜摘組で、1回目の出撃の時にクルーザーを運転した子だね。



「あのね、暖斗くん」


 彼女は屈託なく話しかけて来てくれた。


 ぼっち飯を気にしてた訳じゃないけど、少しほっとしたのは正直なところ。


 そう言えばこの子は、最初から僕を下の名前で呼んでるね。




「あたしね。変な所にホクロがあるんだけどお、見る?」


 彼女が指さしたのは、右わき腹のちょっと背中の方だった。グレーのシャツの合間から、ちょっとだけ地肌が見えている。




「‥‥‥‥」


 背中に変な汗をかいてきた。


 今、この食堂には折越さん含め5人の女子と、僕がいる。


 これは罠か!? 迂闊な返答はできない。




 僕は、無表情を保ちながら。


「ごめん。今ゴハン食べてるんで。大丈夫です」


 と、左手を相手に向けて断った。


 女子って、友達同士で盛り上がりながら、他所の会話を同時に聞いてるんだって、同母妹(いろも)が言ってたよ。


 だから、こんな所で変なリアクションはしない。この空中戦艦「ウルツサハリ=オッチギン」の中で男子ひとり。終わりの見えない艦内生活。女子と、変な空気になったら生還できないのはわかってる。16人に男子ひとりって知ってからは想定してた事だ。


 ある意味Bot戦より困難なミッションだけど。



「あ、じゃあゴハン食べた後でね♪ ご指名いただいちゃいました~♪」


 と言って彼女は去っていった。





「はい? ‥‥‥‥って、あれ?」




 僕にとってななめ上の反応だった。なんだ? 指名って??? ‥‥???


 あ、どうしよう。この流れ。


 どう答えるのが正解なんだろ? もしくは答えずに流すべき?




 周囲の視線が気になるけど、下手に動けない。取りあえず平静をよそおって、手だけは動かした。食事を口に入れる以外、どうしたらいいか浮かばなかった。






※仲谷さんの味付けは彼女の故郷の味。

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