第92話 その曲線は人類の未来②
そんな僕を、前を歩くみんなが一斉に振り返った。
「決断早いね。暖斗くん。‥‥‥‥なんか、男の子って感じの顔。出航した頃と別人だね」
愛依が僕を見てにっこり笑う。
「ベイビーが、妊婦さんとそのベイビーのために、か。まあ、ぬっくんが積極的に関わろうとするなら、ウチが言う事は無い! 全力サポートしてやるゼ☆」
麻妃もサムズアップして笑う。でもいつもの、僕をからかう感じの顔だ。
「‥‥‥‥おおう。いつも最後まで様子見の暖斗くんが。じゃ、いいかな。進めるよ、あの話。草稿は私に任せて。渚学生は添削。紅葉ヶ丘学生は全員分のアバター製作。あと最終戦略詰めるわよ! こっから附属中は戦時モードだからね!」
子恋さんは暗黒微笑でガッツポーズをした。何か絶対企んでるよね。
「よかったね。光莉。最ッ高にカッコいいのぶちかましちゃお! あと私は必勝戦型考えるか~。出現仮想敵数算定して、地形やって、」
渚さんは、戦型考えてる時はどこか楽しげ。もう「ふんふんふん♪」って鼻うた歌ってる。
「あ~~。それはこっちでやっとくけど。私にはまだ課題が‥‥‥‥。あとあの謎バグだけなんだよ。そうすれば最強なのに。何で取れな‥‥‥‥っとゲフンゲフン!」
紅葉ヶ丘さんは、艦からのクルーザーに同乗してない。どうやってこの病院まで移動したのか? 交通手段が相変わらず不明なんだよね。
今附属中3人娘が言ってるのは、このオリシャさん、ひいてはこの病院の警護の話。
またツヌとか機構軍が動いた時のために、この病院の南部に防御陣地を築いて、交戦する構えだけでも見せてはどうか、という考えだ。オリシャさんの手術時の、万が一を無くす作戦。渚さんはもうガッツリ戦う算段をしてるけど。
機構軍の主軸であるツヌ国が事実上いないから、もしガンジス島にまた来ても島の各都市や紘国軍の基地を攻撃するだけで、このまほろ市は放置されるはずだって。攻めるなら市の西にあるベースキャンプを狙うハズ。
でも万が一、少ないかもだけど敵が来る事を想定して、僕らが形だけでも交戦する準備と姿勢を見せておけばオリシャさんも安心して手術を受けれるよね、という話。
「戦ってもいいけどよ。頼むから壊すなよ? う~む、それを言うのは酷か? ‥‥‥‥いや、やっぱり壊したら処す。な? 暖斗くん」
七道さんが僕の背中をばっちん叩こうと近づくので、バックステップで回避した。
「あ~~。でも出撃ってダルいなあ。整備班の仕事激増イベだし。あ~~。ダルい。今の内寝とくかあ」
網代さんは両手をだらん。いつもの調子。けど彼女の仕事って実は緻密でケアレスミスが異様に少ないんだよね。
「‥‥‥‥。ちーちゃん。そんな事言って実は仕事大好きだから。でもあの彼とは別れなよ。この旅で気持ちの整理ついてるんでしょ?」
多賀さん。相変わらずの帽子深めの謎美少女。あ、帽子越しに意味ありげに視線送ってくるのやめて。
「でも、ちなみにちなみも赤ちゃんほしいしぃ。ちなみと赤ちゃん作りたい人募しゅ‥‥痛い! 痛い! やめてえ七道さん! ぐえ!」
‥‥‥‥コメントなし。僕は何も見なかった。
「で、でも私もいつか母親になる? とか。‥‥‥‥あ、そ、その前に結婚? ‥‥い、いや交際が先か? ‥‥‥‥何言ってんだろ私」
あ、浜さんと目があった。そうだね。いい人と巡り逢いたいね。
「そうねえ。憧れちゃうね。結婚、出産。いつか経験するライフステージ。え? 私? 私はなるべく学生やOL時代を謳歌する予定よ? ね。みんながんばろう!」
そうなんだ桃山さん。でも案外学生時代にいい人が見つかったりして、ね。
「ちょっと! ちょっと! 燃えてキタ! 櫻。艦に戻ってシミュやろ! 撃墜数で勝負よ!」
おお。初島さん。フェンシング部の体育会系魂炸裂だ!
「望む所っス。ちょうどいいから、あの彼そろそろも引っ張り出しましょ? あれ以来ゲームで引き籠り過ぎっス。パイセン、ライドヒさんを気にしすぎっスから。わかりやすすぎる」
‥‥‥‥ええっ! そうなんだ来宮さん鋭い。全然気づかなかった‥‥‥‥。
「うふふ。皆さんやる気ね。私は艦橋で、3人娘の悪だくみを盗み聞きするわ。またどんな権謀術数が飛び出すか‥‥‥‥今からが楽しみよ。あ、ラポルトの操舵は任せてね?」
‥‥‥‥って泉さん。あの3人って附属中3人娘の事でしょ‥‥‥‥。戦闘中艦橋でどんな会話してんの? 率直に言って怖い。
「皆さんご心配なく。ええ。この選択はきっと上手くいきます。いきますとも。より良い因果律へと続く道です。だって秋がそう言っているのですから。私と姫‥‥‥‥ゲフンゲフン。‥‥‥‥いえ。何でもありません」
んんん? えっと仲谷さん。美味しいご飯作りは任せたよ!
「暖斗くん。‥‥‥‥あの、このあと時間ある?」
え? あ、愛依か。うん、時間はあるけど‥‥‥‥?
*****
「へええ。病院の地下ってこんな感じなんだ」
一旦みんなと別れた僕と愛依は、病院の地下1Fを歩いている。
「一応、ここも戦場になるかもだから、暖斗くんに病院の構造を知ってもらうため、って名目で子恋さんに時間をもらってるよ」
「そうなんだ。って、病院の構造?」
「うん。この病院、この前の上陸許可日にも言ってたけど、元々は戦争用のトーチカなんだって。その設備を一部流用して、リフォームして病院を建てたと。だから、バリアシールドとか発電機とかは軍事用のスゴいのなんだって」
言いながら愛依は、右右、左、とスムーズに通路を曲がっていく。‥‥‥‥あ、今通った部屋、「リネン室」と「霊安室」!? って書いて無かった? 病院の地下怖!
「愛依、道憶えてるの?」
「うん。病院の構造はもう記憶しちゃった。オリシャさんが入院する病院だし、わたしも彼女をケアする医療チームに入れてもらったし。‥‥‥‥あ、あのね。れんげ市に海軍病院あるでしょ? わたしのバイト先。そこのわたしの指導医師がこっちに来るかもなんだって」
暗い廊下を歩いた先が、明るくなっていた。階段を上ると、地上に出た。病院の北側、裏手だ。
「ここがエネルギー棟。災害時に病院を動かす心臓部よ。さっき言った重子力エンジンもここにあるの。バリアシールド発生装置もね」
巨大な病院の本棟の隣に、体育館くらいの大きさの白くて四角い建物があった。中からは「フィ~~ン」と聞き慣れた音が。重力子エンジンの重低音だ。
「へえ。病院の裏側ってこんな風になってるんだ。普段、っていうか普通絶対来ないから知らないよね。あ、守衛さんがいる」
「うん。テロとかの標的になりやすいし。あと戦争になってインフラ狙うとしたら、ここもターゲットでしょ?」
「確かに」
その、守衛さんの目の届かない死角に愛依が入ると、彼女が僕の右手を両手で握ってきた。
「‥‥‥‥今日は艦には戻るから、これでお別れじゃあないけど」
「うん」
「どうか。ご武運を」
夕日が差し込んできた。愛依の大きな黒瞳に、オレンジ色が映り込んで。
ちょうど僕には、赤く輝いているように見えた。
※「しかしあらためて登場人物多いな」と思ったそこのアナタ!!
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