第2部 第15話 発見Ⅱ さっき見た懐かしい夢の続きだよ①
「けろけろ。んぐまもねね」
ケラケラ笑いながらぬっくんもやり返してきた。周りの生暖かい視線も気にならないくらい、私も笑った。
「あ~。コレ解説したほうがいいか。姫様と春さんに」
と、まきっちが、固まるふたりを見ながら気を使ってくれた。
「えっとぬっくんがね。ハマったお笑いコンビがいたんだよ。小4? 小5かな。その時の一発ギャグがこれ。――で、ぬっくんと仲良くなりたいひめっちが死に物狂いでこのギャグを完コピして、鋼の意思で毎朝の挨拶でぬっくんに繰り出していたんだよ。当時」
「‥‥ちょっと! 言い方に悪意!」
「ぬっくんにだけは。そう。世界でただひとりぬっくんにだけは、このギャグはツボだったんで、ひめっちはやり続けた。同級生の前でも、校長先生の前でも。毎日だゼ☆」
ああやっぱり。姫様と春さんにドン引きされた。「ま、まあ、あちらの世界の事はよく存じないので」「‥‥そうですね。姫様」だって。
そうしたらぬっくんから質問。「涙のあとがあるけどどうしたの?」って。
うぎゃ! 鏡でチェックしたのに見落としてた!? うそ!
私は「ドローンレース大会」の思い出話を夢で見た事をみんなに話した。
「そういえば僕も、『ふれあい体験乗艦』の時にその時の夢を見たよ。確か、ガンジス島の最終決戦の‥‥‥‥ちょっと前くらいだったかなあ」
う~ん。「ふれあい体験乗艦」。その単語を聞くと私のトラウマがよみがえる。どうしてもね‥‥‥‥。
「ああ、言わないで。事務所が根回しまでしておいて『特別枠』で落ちたんだから!」
頭を抱える私。
「春。その件。ちゃんと姫の沢さんにお詫びしたかしら?」
突然、食器を置いて居住まいを正したエイリア姫様から厳しい口調。咄嗟に春さんは跪ずく。
「は。一応事実関係は‥‥‥‥」
「十分な謝罪はまだのようですね。彼女の様子を見ればわかります」
「は。申し訳‥‥」
謝る春さんを手で制してちゃぶ台から離れて、姫様が私の前に来て正座する。
「申し訳ございませんでした。姫の沢ゆめさん」
指先の揃った手を丁寧について、頭を下げられた。――とっても優雅な所作に、私は見とれてしまった。
「え、いえ。‥‥‥‥もう過ぎた事ですし。春さんに大体の事は聞きましたし」
「いいえ。ちゃんとしたご説明もまだでしょう。わたしは、この国の王族なのですが、敵に追われ、やむなく精神のみをあなた達の世界、わたしと遺伝子的に同一人物である逢初愛依さんの身体に飛ばしました。折しも愛依さんは、『ふれあい体験乗艦』というイベントに参加すべく、日々研鑽をしているところでした」
「あ、ウチは初耳」
「僕もだよ。ひめちゃんがどうしたの?」
ぬっくんと、まきっちも、初めて聞くリアクションだ。
「そこで、わたしの腹心であるこの春が、わたしの護衛をすべく、あちらの世界へと渡っていったのです。春の固有スキルは【催眠】。その能力でゼノス王子に制約をかける事ができました。今後、因果律が変わって、わたし達を取り巻く状況も変わっていく事でしょう。その点は僥倖でした」
私も見た。【催眠】。魔法の攻防に隙があると、相手にかけられるんだよね。一撃必殺、一発逆転、主人公的なスキルだよ。
「ですが、‥‥大変身勝手な言説なのですが、‥‥愛依さんが『ふれあい体験乗艦』に選抜される事が確定していて、その旅先でのわたし、つまり愛依さんの警護に空白が生まれる事が判明しました。‥‥当時、この春もあちらに転移したばかりで‥‥選択肢も時間もありませんでした。その、【催眠】をもって、周防中学への転入、唯一の乗艦手段だった『推薦枠』の乗っ取りを行いました」
エイリア姫は、もう一回改めて、私に深々と謝罪をした。
私も、もちろん平気じゃあないよ。あんなに長くぬっくんと旅ができたら、色んな思い出が作れたし、ラポルト16のみんなが羨ましく見える時もあったよ。
でも、春さんと旅をして、このエイリア姫の置かれてる状況とかを聞いたら、ああ、この人達も必死なんだなあって思えてきてしまった。
ぬっくんと愛依さんとの事も、もうしょうがないと割り切ってる。あの『体験乗艦』の日々が無かったとしても、ふたりはクラスメイトだったんだから、いずれくっついたんじゃないかな。
それを言うなら、1年以上ぬっくんから逃げていた私が、どれだけぬっくんと仲良くなるチャンスを逃していたことか。
「愛依さん、暖斗さん、麻妃さんにも。この通り、お詫び申し上げます」
「いえいえ。僕らは」
「まあ、過ぎた事だしねえ。ウチは気にしてないよ。愛依を守ってくれた的な部分もあったし」
エイリア姫も春さんも申し訳なさそうだ。
「先ほど因果律、と申し上げましたが、ゼノス王子との因縁。あのハシリュー村で、愛依さんがゼノス王子、――あちらではツヌ国の情報将校でしたね。彼と出逢ってしまったのはエンカウントです。わたしの因果です。愛依さんの中に、わたしの精神があったから、感応してゼノス王子のいるあの家に近づいてしまいました」
まきっちから聞いた、愛依さんの「受難」。
カラダの相性ピッタシの細マッチョ長身イケメン軍人に捕まって、色々精神的にいじめられて、防御力の低いキャミだったのもさんざんいじられたとか、色々危なかった件。
「今度、愛依さんが『浮上』してきたら、ご本人に聞いてみて下さい。彼女なら今でも詳細に憶えていますよね? 『超記憶』ですから。『何かに突き動かされたように』家に入ってしまった筈、彼女の意思では無かった筈です」
そこへ春さんが。
「でも誤解はしないでください。私達は、愛依さんの無事な未来を把握していました。ゼノス王子に捕まった時のフォロー、彼女への援護も含めて。その邂逅から結末までがワンセットで起こった事、そういう事例とお考えいただければ。それにあの紘国という国自体に起こった受難。私と姫様が、あの期間、あの艦に乗っていた事で、好転した未来も幾ばくかはあるのです。病院の‥‥‥‥」
それまで身を伏せていた彼女が、堪らず、という感じで会話に入ってきた。姫様が一方的に悪物になるのを心配してるみたい。「あ~そういえば、だったねえ」とぬっくんが呑気な声を出す。
でも、エイリア姫はまた手で春さんを制した。この辺は本当に主従関係なんだなあ、って感じよね。
「春。止めなさい。過ぎ去った選択肢と未来の事は、この方々からしたら、存知しえない事、いわゆる『たられば』の世界のお話です。――わたしが内部にいた事で、愛依さんの身と心が窮地になったのは事実。許すかどうかはこの方々次第。――いえ。わたしは元々許されようなどとは考えておりません。私達が姫の沢さんにした事に関してもです」
エイリア姫は、本当に申し訳なさそうだった。でも安心して。私も、私の幼馴染達も、「小屋敷小トリオ」はちゃんとわかってるよ。あなた達も大変で、止むをえない状況で最善を尽くしてくれていたって。
「その辺は『アイゾメ・レポート』にも書いてあったよな」
「‥‥‥‥でも結局無事だったし、何かあっても僕が助けていくから、まあ結果オーライ、という事に」
ほらね! さすがにぬっくんはちょっと複雑な表情だったけど、何か頼もしい受け答えだったよ。特に、『愛依に何かあっても僕が助ける』が現在進行形なのが。
「‥‥‥‥暖かいお言葉、痛み入ります。今後、わたしの身体が見つかり次第、愛依さんのこの身体はお返しします。それまでは、わたしが愛依さんの精神を保護する形になりますが、それで少しでも恩返しになればと思います」
エイリア姫と春さんは、私達に再度頭を下げていた。
※「ふ~ん。まあ姫様がそんな感じだろうとは想像してたけどな」というそこのアナタ!!
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