第90話 演習Ⅱ
ちょっと改稿をしていて、投稿が滞りました。
「狙うの? 本当に?」
僕は艦のシミュレーター室の筐体の中にいる。新装備の実装に備えて、その設定での実践演習だ。ノルマは10時間。
「アンタの劒は強力すぎんのよ? 実戦で背後から斬られるアタシらの身にもなってよ!?」
「いえいえ暖斗さん。最初から上手くいく人なんていないし、そのためのシミュですから」
「はあ? ソーラ! またイイ子ぶってからに!」
「ちょっと待って。僕との連携の前にふたりの連携が怪しいよ?」
シミュの画面内には僕とコーラ、そしてソーラさんもログインしていた。アマリア港解放戦でのトリオでの戦術を本格的にやるための練習だけど、このふたり、ずっとこんな調子だ。
はあ‥‥‥‥。さっきまで風呂場で話していた桃山さんとの練習が懐かしい。彼女とは息が合いすぎて怖いくらいだった。
シミュがスタートした。大小の敵Botや他国のDMTが襲いかかってくる。
前衛のふたりがそれをせき止め、僕が仕留める算段だ。――ただし、雲や回転槍ではなく、劒、太くて長い片刃剣でだよ。
ガキィン!
肉厚で幅広の刀身が深い切れ込みを作る。小型Botなんかは一発で撃破判定だ。
ガリガリと削っていくサリッサに慣れていたから、こんな本物の剣で戦うのはなかなか慣れない。
「あ~~! 甘いんだっての。キミ、戦場で死にたいの!」
僕を怒鳴ったのはコーラだ。劒での振りぬきが中途半端だった。
「暖斗さん。隔壁操縦席は剣一撃では割れません。安心して狙ってください」
ソーラさんがフォローしてくれたけど、どうしても気持ちが入らなかった。
だって、有人機、敵DMTと近接した時に、初手、初撃で狙うのは、人間が乗っている操縦席なのだから。
そう言えば、今まで戦ったDMTも、アマリアでも、みんなフェイントを織り交ぜて操縦席や、装甲の無い関節部分とかを狙っていたなあ。大抵盾で防いだけど、そうだった。
そして、DMTを降りた後の僕の剣の師匠は、なんと折越さんだった。構えとか剣の振り方握り方。基礎からを習う。
彼女は古流武術と特殊武器の使い手。相手の武器が剣である事がほとんどなんで、それを想定して稽古しているそう。
「相手のキモチを知りたいの~。だからちなみは剣術も修めちゃったぁ」
とは彼女の弁。あ、胸元のボタンわざと外して正対するの、やめてくれ。
ああ、折越さんの回想シーン終わり! 彼女はずっと僕に対してこんなスタンスだったけど、毎度毎度だからみんなもういちいちツッコまなくなってた。僕もそう。
「もともとの性格的に無理なんじゃないかな~。いきなり民間人に操縦席狙えってもできないよ」
「暖斗さん。ヒステリコスは非常に堅牢です。他国のDMTでも絋国の8割くらいの強度は最低あります。だからその「劒」をもってしてもまず割れないんです。そこを狙う事の意味は、『こちらも本気だ』っていう意思表示と、S-HCR-N以外にもダメージを加えたい、この2点です」
熱心に教えてくれるソーラさんと、生真面目に頷く僕。それを見ていたコーラに、インカムから通信が入ったようだ。
「コーラさん」
「ん? 子恋さん? アタシだけの個人通話?」
「そうよ。暖斗くんの事心配してくれてるんでしょ? でも大丈夫。一応私に『策』があるから」
「子恋さんの『策』かあ。アタシじゃ見当もつかん」
「まあ緩い手なんだけど。暖斗くんは割と低めの条件でバーサーカー化発動するから大丈夫よ。当日は必然的に『そういう配置』になるし。今そうやって対人戦の経験値を積んどいてくれれば、ありがたいわ」
「わかった。あの赤ちゃんの稽古はつけとくよ。‥‥‥‥子恋さんが何言ってんのか全然意味わかんないけど。‥‥‥‥でも子恋さんが『敵に回しちゃイケナイ系の人』だってのは、肌感覚でわかったよ」
*****
「よっし。子恋さんの指示通り、アタシと模擬戦やろうぜ」
ひと通り「劒」での練習を終え小休止した後、次のメニューに移った。
シミュ内の兵装をサリッサに持ち替え、コーラのテオブロマと対戦する。
「ひめちゃんの機体に槍向けるのイヤだなあ」
「ゲーム内なんだから気にしないの。有人機と戦う練習なんだからね」
コーラが言う通り、僕の対人戦は少ない。基本無人機の小型Botと戦う事しか想定してなかったし、その訓練しか受けていないし。
アマリア港奪還戦の時には僕は砲台役、3線突撃も対ツヌ前線戦も砲のパワーとサリッサで押し込んだだけだ。
対英雄さん戦と、対ゼノス戦。
強い相手と剣技メインで戦ったのはこのふたりのみ。しかもその剣技ではまったく歯が立たず、「度肝を抜くマジカルカレントの変態技による初見殺し」で辛うじて勝っただけだ。
「悪く思うなよ? 暖斗くん。附属中3人娘からキミの攻略法教わってるからね。弱点しか攻めないよ?」
「むしろその為のシミュだろ? いいよ。ぶっつけ本番でやられるよりマシだから」
モニタ―に、テオブロマ。コーラ機が映る。丸盾と長巻装備だ。
「カウントします。ふたりともいい? 3,2、1‥‥」
審判役のソーラさんが呼びかけて、模擬戦が始まる。
「ふっ!」
閃光起動!
僕の初手は、急速回転させた槍先での刺突だ。「突撃」で180m――1戦闘距離――を一気に縮めてサリッサを繰り出す。大型骨格だから、中型の時より倍の距離を跳べる!
コーラ機は長巻を既に抜刀していた。盾を左手甲のハードポイントに移して両手持ちの中段構え。――だけど、持ち方が独特だ。その長い柄の一番上を右手、一番下を左手で持ってる。
あれで刀が振れるのか?
「長巻 対 サリッサって、こうなんだよ!?」
コーラ機も突撃してきた。両手の間にある特別長い柄の部分で、サリッサ刃部を弾くと槍の柄を長巻の柄で押し上げた。 あ、これって!?
そのまま柄を滑らせながら肉迫してくる! ホーカさんと同じ戦法だ!
「ぐッ!」
僕はサリッサに力を込めるけど、時すでに遅し。長巻の柄でサリッサを持ち上げられて何もできない。
「実戦でコレやると長巻一本オシャカだけど! シミュだし!」
長巻は超・長刀。そのまま横薙ぎの動作に入られた。
ガギ! バシン!
僕とコーラの機体が交差した。
「やるじゃん?」
長巻が、くるくると回りながら落ちてくる。
僕はサリッサを手放して抜刀。劒でコーラの一撃を受太刀して、返す刀でテオブロマの肩装甲を砕いていた。
‥‥‥‥無意識だった。
「いい動きでしたよ。暖斗さん。そうです。『劒』が狙うのは操縦席だけじゃなく、弱装甲にも有用なんです。サリッサと対峙した敵は回転槍の外に間合いを取るか、一気に近接するかの2択です。咄嗟にそれだけ動けたならスゴイです」
ソーラさんが、懇切丁寧に解説してくれた。
※「剣も出てくるのか。もう最終決戦だけど、遅くね?」と思ったそこのアナタ!!
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