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第83話 ハシリューの星④






 小会議室では、子恋と渚による、特別講義が始まっていた。


「ハイ。今日は、青少年の健全な恋愛関係と、ネットリテラシーについて、特別講義をします」


 子恋が教鞭をとる。


「え~~。アタシだけ~? なんで~」


 座るコーラは不満顔だ。


「あなただけじゃないわ。コーラさん。この講義はベース・カタフニアの軍用回線を借りて、ハシリューとクズリューにもライブ配信されてます。リモートです」


 傍らの渚も強硬な態度だった。


「じゃ、ソーラ達もか。ざまあ。‥‥でも、アタシらのナニがいけないのよ~」


「うん。そのセリフに全てが集約されてる。大きな被害に遭う前に、是非矯正せねば。紅葉ヶ丘学生。始めてくれ」


 インカムから天の声が。


「今回私がアンケを取ったよ。問題点を抽出すると、話は3年前にさかのぼる。ハシリュー村で合同お見合いがあった時だ。その時に、絋国から参加した一部の男性に、不埒な者が複数名いた。いたずらで、『自分達オトコの歓心が欲しくば、対価を払うのが常識』と。推察するに、何人かが参加するエアバスの中で話を作り、口裏合わせたんだろう」


「うん。なかなかに虫唾の走る話だ。純朴なガンジス女子をからかったんだね?」


「それにはアマリア女子も参加していた。で、一部が本当に真に受けてしまったんだ。『本土ではコレが常識』と。男達は面白がっていただろうね」


「まあ。ムカつくわね。騙されるのもちょっと、だけど、『婚活懸命』な島の子は本土のコトはわからないから。そこをつくのが卑劣よ」


「そうなんだ。民族として存続するために相手が必要な女耳村。『お見合い』でもし不首尾だったら、周りにも面目が立たない。で、結果、必死になり、うすうす変だなと思っても、信じてしまう」


「まるで結婚詐欺じゃないか。結婚詐欺は絋国では重罪だぞ?」



「‥‥‥‥ちょっと待って。なに? アタシらが騙されてたってコト? なんかハナシがどんどんそっち方向に‥‥‥‥!?」


「そうよ。コーラさん。おかしいと思わない? プレゼントは、相手の厚意をいただくものよ。それがたとえ男でも女でも。なのに、『対価が必要』って、おかしくない?」



「うう。それは‥‥。でも代々、武娘(たけいらつめ)のセンパイから『こうしたら貰えるよ』って語り継がれて」


「コーラさん。その前提が誤りだってハナシだよ? 私のアンケによると、その3年前の参加者の氏名まで判明してる。‥‥公表はしないけど。そこからの誤りなんだ」



 インカムからの紅葉ヶ丘の指摘を受けて、コーラは涙声になる。



「うう。ぐすん。だって、女耳村、男子いないし。わかんないもん。男の子がプレゼントくれるなら、アタシの事好きってコトだし、みんなに自慢できるし。『こっちもそれくらいやんなきゃ貰えないよ』って」


「紅葉ヶ丘学生。責めるのは無しにしよう。今回は女性全員が被害者になりうる事案だ」


「ぐすん。あのソーラだって信じてたから、みんな信じた。アタシはアホだけど、ソーラは違う」


「やっぱりソーラさんしっかり者なのね。『キャラ』じゃないじゃない」


「――で、聞きにくいんだけど、今までその、男性からの貰い物で、『見返り』を払ったコトは?」


 子恋は、恐る恐る聞いた。‥‥‥‥コーラの答えは。




「ない。‥‥‥‥アタシもソーラも、暖斗くんが初めて」





「‥‥‥‥‥‥‥‥」


「ふふっ」 「そう。ははは」 「ふっふっふ」



「‥‥‥‥何がおかしいの? え?」


 附属中3人娘の笑い声を聞いて、泣き顔のコーラが、顔を上げた。

 インカムから声がする。



「それは、単純に、良かったね、という事さ。暖斗くん。あんな安全安心、優良物件なら、コーラさんに何かするはずも無し」


「うん。『対価』って言ったら、きょとんとしてた」


「そうだよ。今回の講義は、みんなを心配した暖斗くんの稟議だ」



 ここで今さらコーラは、小会議室の隅に置かれた2台のパッドPCを目にする。

 そこには、ソーラ達クズリュー勢と、ハシリュー村の子達が映っていた。コーラはその知った顔ひとりひとりに目を向けた。うつむいたソーラもいた。



「そっか。アタシら、『貢がれる』ってコトに憧れすぎて、道を外してたんだ、ね」




 子恋はほっと息をした。


「‥‥‥‥わかってもらえればいいんだ。私達女性は、互いに手を取り合って、男性の卑劣から逃れなければならない。私達も決して人事では無いんだよ」


「そうよ。コーラさん。モニターの向こうのみなさんも。こんな時代だもの。女同士、みんなで協力しましょう? 幸せを掴むために」



 コーラの顔に、やっと安堵の色が浮かんだ。



「でもさあ。アイツ。人が良すぎない? 今回それで助かったクチだけどさ。アイツ優しすぎるんだよ。そのくせ、愛依先生には煮え切らないし」



「それはあるわね。フェミニストなんだけど、大切な決断を、人に委ねてしまったり」


「たまにこじらせるし」


「それアンタが言う? 澪? ‥‥でも確かに、『相手の意思を尊重する』って名目で優柔不断だったりするね。‥‥‥‥彼の、『絋国女性を救いたい』って思いは唯一無二の物なんだけど。彼は、彼の優しさゆえに、それを他人に強要できないんだ」




 *****




「暖斗。早く言えよ。いないなら、俺が全員口説くけどよ?」





 僕は、こじらせていた。


 僕は、大切な決断を、人に委ねてしまった。


 僕は、『相手の意思を尊重する』って名目で、決断を先送りにした。




 結果、僕の大切な人達を、深く傷つける羽目になっても。




 僕は、あの時、ハッキリNOとは、言えなかったんだ。





「‥‥‥‥えっと。別に、あの15人の中に彼女とかはいないし。‥‥どうするかはあの子達の自由だし」


「おっ! じゃあ、全員手ェ出してもオッケーな。よしよし。よ~~し!」


「あッ! 暖斗?」


「何?」


「男に二言はね~よな? ヤなんだよ。実は元カノだったとかで後から揉めんのさ! 彼女とかする前に言えよって!」


「それは僕が決める事じゃなくて、あの子達が決める事だし。うん‥‥‥‥。だって、‥‥本当に‥‥本当に、付き合うって話なんかした子とかいないし‥‥‥‥」


「何ぶつぶつ言ってんだ? もう帰ろうぜ。午後から出撃なんだろ?」


「あ、うん」


「いよっしゃあぁ~~。燃えてきたあ!」




 ライドヒさんは、高いテンションがさらに爆上がりしてた。歩きながら両腕を振り回して、やる気がほとばしってた。




 僕の出撃は、午後から。少し長丁場になるかもしれなかった。

 任務に集中しなくちゃいけない。――――でも。





 彼の様子を見ながら、一抹の不安が胸をよぎった。







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