第二部 第12話 異世界☆歯科衛生士④ さあ、チートは無し。ガチでいくよ。
「もう一回、そのヤナーアッラーヤ村に、私たちと来てほしいの」
それが私の願いだった。そう、そうすれば、きっと。
「‥‥‥‥ふ~~ん。私ら「メンテ3人組」の能力が必要だってことか」
「はい。お願いします!」
私と仲谷さん、2人して頭を下げた。
「ソコに関しちゃ、座長に話通さなきゃなあ。ここまで世話になっといて不義理はできねえなあ」
「‥‥‥‥。公演終わるまでは」
「動けねっスね~~」
翌日、七道さんが座長さんに掛け合ってくれた。4日したら自由に動けるようになる。一座もこの村でしばらく逗留するから、3人を待つ。とのこと。
それなら、と、私たちも、その空いた4日間で、村の人の口腔健康相談を受けることにした。
このオートウム村は、よくも悪くも普通の村だった。この国の平均値的な、というか。
歯周病は少なく、代わりにやはり咬耗や齲蝕(虫歯)の方が多かった。それらを口頭で伝えつつ、私は歯石除去と歯みがき指導をした。
七道さんたちを待つ4日間は、すぐに終わった。
「じゃあ、出発すっか。姫の沢準歯科衛生士の活躍で、口の病気が治ったヤナーアッラーヤ村に」
私達の先頭を歩きながら、七道さんはそう言ってくれたけど、正確にはそうじゃない。
「残念ながら口腔内は、すぐさまそんなに良くはならないよ? 今回は、前回私が蒔いた種が根付いたかの確認と、――おっしゃる通り、3人の力が必要だったから」
「そっか」
七道さんは振り返らなかった。
朝オートウム村を出れば、夕方にはヤナーアッラーヤ村へ着く行程だった。
途中、魔物に出会ったけど、まあ、想定内だった。仲谷さんが切り込んで、私が魔法で援護して。
でも「メンテ3人組」も魔法使ってた。【ウインドボール】や【ウオーターボール】の生成球も大きくて、潜在魔力が3人とも高いのがわかった。
そのまま、ヤナーアッラーヤ村へは順当に到着できたよ。
早々に村長さんの所へ挨拶にいく。
「あ~~! 『たがゆづ』ちゃん! 『たがゆづ』ちゃん! 帰ってきてくれたんだね?
そうだ。みなを呼ばなくては。お~~い! 誰か!!」
‥‥‥‥多賀さんと再会した村長さんのテンションは、MAXだった。
そうだった。メンテ3人組のいた一座はこの前までこの村で興行してたんだった。恐るべし。芸能のチカラ‥‥‥‥!! わ、私も踊ろうかな? 踊れるし‥‥‥‥!?
「そうか。君は我々の口を診てくれたお医者様。そうか。経過を見に戻ってくるって約束して出てったもんなあ。‥‥‥‥あんた律儀だね」
図らずも村人のほぼ全員が、「踊り子、多賀柚月」を見に村長宅に集まってくれた。なので、その場を借りて説明をすることにする。
もう一度みんなの口腔内を確認しなければならないことを。
「お医者様ではないですよ。準歯科衛生士です」
「ああ、そうでした‥‥‥‥。そう、あなたの言う通り、歯を磨くようにしてますよ。何だかむずがゆいですが」
村長さんはそう言っていた。――うん。訝しみながらも歯みがきしてくれてたなら。
明日。もう一度みんなに診察に来てもらう。その時に、前回からの私の成果が出ると思う。
その夜は、盛大に宴会でもてなされたよ。主に多賀さん人気で、だけど。
***
次の日。
私と仲谷さんは村の空き家にいた。以前泊まらせてもらったのと同じ家だ。そして、私の「診療施設」でもある。
そこに、三々五々と、村の方々がやってくる。
やるのは以前と同じ。初手、現状把握。
歯と歯肉の間の「歯周ポケット」に、鉄製の器具を差し入れて、その深さを記録していく。私の戦場は深さ3mmから6mm。それ以上の深さだと、本当は歯科医師の出番。いないんだけどね。あと出血があるかも確認していく。
――――おおむね良好だった。出血が見られた患者さんの出血が止まり、腫れていた歯肉の状態も若干良くなっている。それに。
「この、歯みがき粉がねえ。どうも具合がいいねえ」
私はこの村を離れる時に、以前はやってたという「プロポリスでの口腔殺菌」を復活させようとしていた。
プロポリスは今や村の一大産品なんだけど、村の人の健康が第一、ということで、村が買い上げる形で必要量を確保してもらった。そして、それを使っての「歯磨き粉」の開発。
まあ、開発、って言ってもそんな大層なものじゃあないよ? 絋国にいた頃に、院長先生に色々研修に行かせてもらってたから、その時聞きかじった知識を流用する。
プロポリスは本当は水とかアルコールで抽出するんだけど、それは無理っぽいから、そのまま使う。そのプロポリス元塊に、なたね油やひまし油を加えて、小麦粉でペースト状に練り上げる。
あと、研磨剤として貝をすり潰した粉と、矯味剤としてミント系のハーブを加えれば、まあ、それなりな感じの歯磨き粉ができる。わたしは発泡剤は「入れない派」だよ。
幸い、色々な村を仲谷さんと旅してきたお陰で、それらの調達はすぐに目途がついた。
「仲谷さん!」
「ゆめさん!」
私達はハイタッチをした。主に「プロポリス歯みがき」をしてくれていた患者さんを中心に、数値が大幅に改善されていた。一週間程度で、歯肉に変化が、という症例もあった。
「で、こっからが私らの出番なんだろ?」
遅めの朝食を終えた「メンテ3人組」が、診療室に入ってきた。
そう。私のできることは大方終わった。でもまだ救えてない、救いたい患者さんが残っている。
「うん。今からは、ある特定の患者さんが来るよ。その人たちのために、あなたたち3人の【能力】が必要なの」
 




