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第7話 A2/AD③

 





「フローター起動!」


 麻妃(マッキ)の声と共にふんわりと着地する。と、同時に、地面を滑りながら艦左舷のBotとの距離を詰めていく。



「すごい跳躍だったねえ。うん、フローター全開でもエネルギーに余剰ある。マジカルカレント炸裂なう!」




 浮遊装置(フローター)で機体をホバリングさせながら、Botに接敵したところでもうひと跳躍!



「うおおおお!!」



 森の大樹を下に見ながら、空中戦艦に取り付こうとするBotに回転槍を一閃する。

 旭煌を纏った刃部の激しい回転が、触れただけでBotを弾き落とした。


「おお!」


 麻妃が思わず感嘆の声をあげる。僕はすかさず追撃した。

 地面に接地して、DMTの両脚が大地を噛みしめた感覚を感じると同時に、腰の入った一撃を繰り出す。



 バキキィン!!



 光を帯びた刺突が、Botの中心を貫いた。1機撃破だ。


「よっし!」


 思わずガッツポーズをする。


「よっし。敵に何もさせなかったね。さすが暖斗くん。じゃあ次、右舷の2機」


「どっち?」


「艦尾の方。そっちの方が弾幕薄いから。でも暖斗くん。確実にマジカルカレントの効果出てるよ。DMTの機動が全然違う」


「だよね。サリッサの威力も」


「もっとマジカルカレント意識したら、重力子エンジンの出力上げれるのかな」


「やってるよ。すでに。僕にとって、これは『当たり前のこと』だから」


「‥‥そうだったね」



 僕は、脳裏に重力子エンジンを思い浮かべて、息を吸って、吐く。



 と、エンジンがそれに応えて、ズゴゴゴ‥‥! って振動音と共に、回転数を一段上げる。これがマジカルカレント発動のルーティンだ。



 艦尾のBotを視認したので、急速旋回しながら目がけて跳躍した。



「!!!」



 驚いた。一面に広がる空と地平線。今度は森の大樹じゃなくて、戦艦の艦橋が足もとに見えた。ジャンプしすぎて、Botの遥か上、艦橋を飛び越えていた。200メートルは飛んだ!?


「フローター全開! 暖斗くん、敵目がけてスロットル踏んで」


 咄嗟に戦い方を変える。麻妃の言う通り推進器(ブースター)で向きを変え、敵Botに上空からの一閃を喰らわせた。――ビーチボールみたいに弾かれたBotは地表付近で制動をかけて、何とか地面との激突を回避したようだ。


 そこにすかさず、2撃目を入れる。回転槍の切削によって大きく装甲を削られたBotは、地面にめり込みながら活動停止した。




「‥‥‥‥なんか、サリッサの回転ヤバくない?」


 僕はそう口にした。


「だよね。芯を食わない刺突でも、これだけ削れちゃってるし」


 麻妃も驚いているのが声音でわかった。




 3機目は少し厄介だった。艦の主砲を避けるのが上手いヤツで、引き離せないでいた。しかもBot自身からの砲撃も織り交ぜてくる。

 この戦艦は、DMTと同じく装甲表面にシールドバリアを展開しているから被害はないけれど、2~3発の直撃を受けていた。



 僕は砂塵を巻き上げながら艦尾に追いつくと、空中のBotに対してビーム砲を打ち込む。ちゃんと艦に当たらない角度から。


 戦艦への攻撃に注力していたBotは、僕から横撃を受ける形になった。こちらの初撃で大きくシールドを減らしながらも、応射してきた。打ち合いになったが、出力で圧倒する僕のDMTは砲撃の雨でBotを押し込んでいく。

 シールドを割られ実装甲に被害が出始めたBotを、最後は光るサリッサで仕留めることができた。




「お疲れ様。暖斗くん。圧勝だったわね」


 帰投中、戦艦側オペレーターの、渚陽咲(なぎさひなた)さんがそう言ってくれた。


 僕と麻妃は顔を見合わせる。そう、今回は1機目のBotを深追いしてしまって、3機のBotと母艦を交戦させる羽目になってしまったから。


 本当は失敗‥‥とまではいかないけど、良くない展開だったハズだ。



 彼女は国防大学校付属中で、専門は戦術。


 麻妃が戦闘中に僕に出す指示は、麻妃と渚さんが事前に立てた作戦だったり、戦闘中に渚さんから麻妃への提案・指示だったりする。


 だから、彼女から見たら僕らコンビはシロウトで、それでも頑張ってるって解ってくれている上での、さっきの言葉だと思う。



「うん。ありがとう渚さん。ゴメン。戦列崩しちゃって」


「いいのよ。暖斗くんのマジカルカレントが見れたから。無茶しないで頑張ってね。あと、マジカルカレント能力使った分後遺症も強めでしょうから、お大事に」



 彼女の声は僕と同級生とは思えないくらい落ち着いていて、なんだか大人っぽい。本当に大人の人と話しているような感覚になる。



「まあ、戦列っても、暖斗くん1機しか出てないからなあ」


 先に帰艦した麻妃の声が、インカムから聞こえた。





 発進デッキの入口部で、水とエアーで機体を洗いながら格納庫に入る。初陣ではコレを忘れてヒドイ目に遭ったな。

 所定の位置にDMTを移動して、架台に固定されるのを確認、エンジンをアイドル状態にした。


 さっき渚さんが言ったように、今回の戦闘は意識的にマジカルカレント能力を使った戦闘だった。おかげで危なげなく有利を取ることができた。でも、その分「例の症状も」だよ。


 菜摘組の女子4人が、担架とキャスター付きのベッドを運んできてくれた。DMT格納庫の、僕のDMT―― 一応通し番号があって、僕のは2号機なんだけど――の整備橋前まで。


 準備がいいな。っていうか。


 戦闘結果の解析から、僕の後遺症が出るのが確定なんだろうな。





 あのつるんとした黒髪と、白衣の少女のうしろ姿が頭をよぎる。


 僕はまた、あの娘のいる医務室に行く羽目になりそうだ。






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