第2部 第11話 七道仮説② いーいこーるえむしーにじょう
なんか唐突に、というか半ば強引に始まった、七道さんの「異世界の魔法の謎」講釈。
なんか私たち、部屋に案内されただけだったハズだけど?
「でさ。ぶっちゃけ。あっちの世界にあったマジカルカレントって、魔法みたいだって思ったコトない?」
「はい。それはもう!」
七道さんの問いかけに、私より早く反応した、仲谷さん。
「資質を持つ者が念じただけで、事象が変わる。エネルギー発生量が増減する。まさに魔法そのものでしたよ!」
珍しい。彼女がこんな風に熱っぽく語るなんて。
やっぱりこの世界の人だから、魔法の謎とか言われたら喰いつくのかな。
「だよな。私らはこっち来て、魔法ってモンを見せつけられて気がついたんだ。で、どういうカラクリか知りたくなってな。今回その辺から仮説を立ててみた。『あっち』に無くて『こっち』にある魔法。じゃあ? 『あっち』にあって、『こっち』に無いモン、って何だ?」
私も参加、頭を捻る。あ、そうだ。
「重力子エンジン?」
「そうですね。それなどの科学技術ですかね? やはり」
あ、ズルいよう。私が言ったのに仲谷さんに補足されてしまった。――まあいいけど。
「‥‥そうなんだけどな。それは『こっち』の世界が技術発展すればいいことで、実はそんなに大差無いと考えてる。それを踏まえて、知ってるよな? 私らの【固有スキル】」
仲谷さんが即答した。
「【スキャニング】、【プレパレーション】、【レイヤリング】ですね?」
「おう」
「大変希少な、――――いえ。オンリーかも知れません。稀有な生産職系の能力です」
「そうなの?」
私は訊き返す。仲谷さんいつの間にそんな情報を?
「そうなんだってよ? 姫の沢。で、特に千晴の【積層重合】な。【魔力】を使って樹脂製品を作り出すんだよ。何にも無い所から。まさに3Dプリンターだ」
七道さんは振り返り、後ろで座る網代千春さんの肩にポンと手を置く。網代さんは「はいはい」とめんどくさそうに両手を顔の前でかざす。
「え~と慣れね~な。【リンク】、【光学印象】っと」
「あ~ね。【積層重合】」
――と、その向きあわせた両手の間から、ポトン、と何かが落ちた。
私が拾うと、それはプラスチックでできたような、白いヘアピンだった。
「これ私がさっき【光学印象】したヤツな。私が読み込んだモンは、こいつの能力で生み出せるんだ。な~んにもない所から。普通に異常だろ? アイテムボックスだってんなら、まだ理由がつくんだ」
七道さんの身振り手振りが大きくなってきた。私も相づちを打つ。
「指先から火炎や水球が出るのもスゲーけどよ? 冷静に考えて、このヘアピンはどっから来たんだってハナシだ」
「おお、それを七道さんが解明したと」
「わかんねえ。それは未だに」
「あれ?」
「‥‥‥‥【魔素】、でしょうか?」
「消去法でそれだろ」
ずっる~い。また私の発言が流されて、仲谷さんに持ってかれた。でももういいもん。
「仲谷さん、【魔素】って?」
「ええ。魔法の練習でお教えした通り。『あちらの世界』に無くて、『こちら』にあるもの。――――正確には、『あちらの世界』にも【魔素】は存在し、魔法は使えました。――ただ、非常に少ないので、姫様の様な【大魔力】でないと、実際の効果は望めませんでした」
え? 衝撃の事実、今なんかサラッと言った!?
「ええ? あるんですか? 『あっち』の私たちの世界にも、魔法あるんですか?」
「あるも何も、それ使って敵兵から逃れたんだろ? 逢初――もとい、エイリア姫は」
と、七道さんがさも当たり前のように言った。
「はい。姫様の【大魔力】でむりくり、力業で【催眠】を発動させてます。そのおかげでこちらの世界での我が陣営の趨勢が、かなり楽になりました」
「‥‥‥‥ちょっと待って。色々言われて何がなんだか。ええと、【魔素】の説明をしてたのよね?」
「ああ申し訳ございません。話が逸れましたね。七道さんはその【魔素】が、この世界の魔法とカテライズされる異常現象の根源だと?」
「お~~う。そうなんだ。で、こっからが本題。なんで、『こっち』の世界にはその【魔素】がいっぱいあるんだ? その正体は? ――それがこの実験でウラが取れたかもなんだよ」
七道さんは、部屋の中央にある机、その上の様々な実験器具に目を落とした。
「‥‥七道さん。【魔素】が元で魔法が生み出されるのは、この世界の人類は経験則で知って、いや、感じています。あなたの仮説は、それを上回る物なんでしょうか?」
「ああ。多分みんな普通に魔法を使えるからこそ、誰も疑問に思わなかったんだと思うな。――あと、私の【固有スキル】がドンピシャすぎた」
彼女は胸の前で両手をかざす。――と、その向かい合わせた両の手のひらの間に、ほんのり光る空間が現われる。
「おお~~。これが【光学印象】」
「へっへ。すげ~だろ。で、これをこうすると」
七道さんは窓から入ってくる陽光に、この光の空間を重ねた。
「私の能力はこの光の空間内の事物を、計って測って量ること。最初この能力は、対象物のデータを取って、作り出す能力のコイツらに渡すだけのモンだと思ってた――」
「――それで間違ってねえんだけど、それじゃちょっと寂しいじゃんか? 色々試して発見したんだよ。この私の能力で、色々できんじゃあないか! ――ほら。測れた」
七道さんが両手を閉じると、その間にあった光の空間も消失した。
「そこにある器具で追加実験もしたんだよ。私の能力にそもそも誤差があったらイカンからな。客観性は大事だ。で、このハーフガラスや歯車で、ここの領主に頼み込んで実験した結果も同じだった。ま、レーザー測定器とかが無いから、精度はアレなんだけど」
「七道さん‥‥」
仲谷さんがたまらず声を上げた。そう。彼女はさっきから前のめりで、この結論をすごく知りたがってる。
そうだよね。自分が生まれ育った世界の秘密だもん。早く知りたいよね。
なのに、七道さんはちょっと前置きが長くなっちゃって。七道さんて説明しながらわざと脱線したりして、焦らしプレイが好きな人だ。たぶん。
さすがに察した七道さんが、軽く謝った。
「‥‥わり。発表するのが楽しみで、ついついもったいぶっちまった。じゃ、言うな」
そう言いながら彼女は、右手の人差し指を、――――窓に向けた。
「光だ。この世界の光は、『あっちの世界』より、約0.1%、――――遅い」
「え~~。なにそれ。たった0.1%? それ重要?」
思わずこう呟いたら、七道さんと仲谷さんに。
むっちゃ睨まれた。呆れ顔で。
※「異世界で魔法が使える理由」 私の独自理論です。
拙著は【なろう100万作品どれとも被らない選手権】挑戦中、をうたってます。
もしどなたか、同様の理論が既出であれば、是非教えていただけると幸甚です。
(他の要素でもけっこうですよ(*^▽^*))
 




