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第2部 第5話 NTRって誰得?

 




「な‥‥‥‥な‥‥‥‥75億」


 目を回す暖斗(はると)。ギリギリで意識を保つレベルだ。


「‥‥‥‥ああ、男性だけだと37億、ですか」



 エイリアは目を伏せてお茶をすする。あくまで呑気だ。


「みなさんだって、誰もがそうでしょう? 生涯のパートナーを決めようという時に、全人類との相性を調べますか? わたしは、この世界でそういう立場にいたので魔法探査によって徹底的に調査されました。国中の水晶玉をフル稼働して。でも、普通は出逢って(よしみ)を通じた殿方の中から、選ばれ、選びかえす情誼。それでいいんです」



 ふう、と息をつく。


「――その中に愛があればいいのですが――――さすがに75‥‥いえ、37億分の1の相性良しの殿方ですと、ゼノス王子に本気で(まど)わされたらたぶんわたしのDNAは拒否できないと思います。攻略されます」


 暖斗は押し黙っている。麻妃が不安な声を上げた。


「え? じゃあ!? あの時!!」


「ええ。あのハシリュー村での、ツヌ国兵ゼノス氏と愛依さんとの邂逅は、運命のいたずらであり、必然でもあり、NTRギリギリでした。それもこちらの世界でのわたしとゼノス王子との愛縁奇縁が【リンク】したものでしょう」


 麻妃がのけ反る。


「ふあ~~。あの時の愛依は見てられなかった。愛依が敵兵とNTRとかキッツいわ~~。‥‥‥‥ああ、ぬっくん大丈夫?」




 言われた暖斗は黙って、岩の様に固まっているままだ。


「敢えて事実をハッキリ申し上げました。わたしとゼノス王子との因縁はまだ切れていませんので。もちろん彼とは会った事しかありませんよ? でも暖斗さん、大丈夫。あなた達はぜったいに大丈夫なのです。あの、医務室で紡き、積み重ねた数々のイチャラブは、こんなステータス上の相性確率論よりも強く偉大なのです!!」


 エイリアの声が思わず大きくなった。麻妃が思わずツッコミを入れる。


「‥‥すげえ。イチャラブ最強かよ。‥‥まあでも‥‥確かに、『相性MAX』と謳われた桃山さんとは、ぬっくんくっつく気配ないし、あくまでもデータ上では、って事か」


 麻妃はちゃぶ台を見ながら納得――納得をしなければ――という気配だ。だが暖斗が口を開いた。


「‥‥‥‥でも、そのハシリュー村の事件の後も、そのゼノスとは愛依はもう一回逢ってるんだ。『本気で口説かれたら抗えない』って、‥‥‥‥う~ん」


「ぬっくん! 気になるのはわかる。わかるけどもいいじゃん! 『四種の香辛料(キャトルエピス)』クリアして、『小さな結婚式(ミークロガモス)』もして、一年半後には『婚前共同生活(コハビテシオン)』だったんだ!! ゼノスなんて道ばたの石ころだよ――」


 考えこもうとする暖斗を、麻妃が必死に止めに入る。その様子を、エイリアが目を細めて見ている。


「ふふ。なんだかたのしい~♪」





「姫様もお人が悪い。咲見さん、岸尾さん、お久しぶりです」


「あっ!」


 玄関に人影。ちょっと鎧に近いような冒険者風の服を着た、仲谷春(やよい)だった。


 彼女はその場で跪拝する。何か話しだそうとした所で、麻妃が割り込んだ。


「あれ? ひめっちは? いないの?」


「ああ‥‥‥‥」


 (やよい)は立ち上がった。


「‥‥実はちょっと、‥‥彼女は用事ができて。今回この村には同行してないのです」


「ええ? そんな! ウチと会えるっていうのに?」


 麻妃は大仰に驚く。そして暖斗の方をチラチラ見て。


「‥‥‥‥ああ、『今回もまた』決心がつかなかったと」


 がっくりと肩を落としながら、大きなため息をついた。


「なんだかなあ。大人びた仲谷さんと一緒に旅してる、っていうから安心はしてるんだけど、異世界でしょ? ウチらアッチの世界の面子に会いたいはずなんだけどなあ。いくらここにぬっくんがいるからって、我慢できてるのか? 逆に、いつからそんな強メンタルになったんだか‥‥‥‥」


 暖斗も同調する。少し寂しそうだ。


「例の件だったら、逆に僕が謝ってもいいくらいだし、顔が見たいよね。‥‥‥‥でも小学校の時から変わってないとすると、ひめちゃんはある一部分ではものすごく強情だから」


「そうなんだよね。ここに姫さんがいるのもマイナスかも。アイツ気ぃ使いぃだし。あ~あ。既にかなりもう手遅れなんだけど、今後さらに割り込む余地が狭まってくぞ~」


 麻妃は不意に仲谷の方を向いて話しかけた。


「仲谷さん。そうアイツに伝えといてください」


「ああ、ええ‥‥‥‥伝えとくのでしたら、できます」


 と、仲谷は答えた。急に振られて少し逡巡した彼女に、エイリアが話しかけた。




「時にあなた。朝ご飯はもう食べましたか?」


「あ、はい。一応は」


「こちらに来て。一緒に卓を囲みましょう」


「は、はい」とやや緊張気味に返事をする彼女に、席を立った暖斗がお茶を持ってきた。


「どうぞ。仲谷さん」


「い、いえそんな。勇者様にそんな事をやっていただくなんて!」


 ちゃぶ台の隅に座ろうとしていた仲谷は、慌てて後退った。暖斗は苦笑する。


「あ~。『勇者』って言われても。僕、知ってると思うけど戦うと本物の赤ちゃんになっちゃうんで。元通りの時にはなるべく家事をやってるんだよ」


 麻妃も仲谷を座るよう促した。


「水くさいなあ。一緒にラポルトで戦った仲間だし、その勇者様の作ったスイーツ食べたでしょうに。まるで食べてないような言い方」


「う‥‥‥‥ちょっと寂しい。僕のスイーツ食べたら麻薬みたいに中毒になって欲しいんだけど」

「ぬっくんそれ怖いわ!」


 と、暖斗と麻妃がやり取りをする。それをよそにエイリアが、食器を置いて仲谷の方に座り直した。




「報告を聞く前に、話が途中になったわ。ゼノス王子の件。おふたりともいいかしら?」


 エイリアにそう言われて、暖斗と麻妃は会話を止めた。そうだった。仲谷と久しぶりの再会、貴重な「あちらの世界」の仲間。ついつい「ゼノス君にNTRれた問題」を失念していた。ふたりが自分に視線を向けるのを確認して、エイリアは話しだした。


「この、(やよい)が言っていませんでしたか? 愛依さんがその敵兵ゼノスに捕縛された時に、『逢初(あいぞめ)さんは絶対に大丈夫だ――』と」


 暖斗が大きく頷く。仲谷とエイリアを交互に見ながら。


「言ってた。直後の医務室で。なんかすごく自信満々に言い切るから、励ましてくれてんだ~とは思ったけど。お陰でちょっと気持ちが軽くなったよ。あの時はありがとう」



 そう熱っぽく語る暖斗に、エイリアはうんうんと頷く。そして続けた。






「まあ、でも当然です。この(やよい)イディア(こちら)からエシス(あちら)に転移した異世界人。わたし、そしてあちらの世界でわたしが宿主としていた愛依さんの警護が目的で、あの艦に乗り込んだのですから」





「は!?」

 暖斗と麻妃は固まった。






※次回より第一部に戻ります。

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