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第2部 第3話 竜って触れる? かなり爬虫類っぽいけど?

 





 山道を黙々と歩く2人。所々に装甲を縫い付けた服、冒険者風だ。後ろの女性――深紅(クリムゾン)のが良く似合っている――が、前を歩く女性に話しかける。



(やよい)さん、ちょっと歩くの早いよお」


「いいえ。このペースで。『明日着く』と【感応】で伝えてしまっていますので」


 と、先行く女性は淡々と言う。



「じゃ、その【感応】でもう一回、ゆっくり行くから遅れるって伝えたら‥‥‥‥?」


「‥‥‥‥」


「‥‥‥‥無視? 無視した? 今」


 慌てる後ろの女性に対して、あくまで前の人物は冷静だった。


「急ぎますよ?」


「うぐ‥‥‥‥つらたん。せっかくの異世界なんだから、空飛ぶ‥‥ほら、‥‥鳥の背中に、とか無いんですか?」


「ありますよ。竜ですけど」


「おお~。それです。それって飛竜(ワイバーン)ですよね? 知ってます。ファンタジー映画で見ましたもん」


 手を叩いて盛り上がる後ろの女性に、前の人は歩みを止めて振り返った。



「でも、いいんですか? ゆめさん」


「へ?」


「竜って、もちろん飼いならしてますけど、ヘビやトカゲの大きいのっぽいですよ? 本当に。触れます?」



 後ろの女性は閉口する。たしかに、大ヒット映画とかではよく出てくるが、実際に存在するとしたら、全身鱗である。その外見や質感は、ガチのヘビやトカゲだろう。それを想像した彼女は、仕方なく、だがやはり正直にこう答える。


「‥‥‥‥ムリ」



 先行く女性は「ほらね」という表情をつくる。そして辺りを見回した。



「そう、竜と言えば、このあたりの地域には伝承が」


「ええ? 伝承? 竜の? ‥‥‥‥それって何かコワイやつなんでしょ? どうせ」




「‥‥‥‥確か、容姿端麗な女性が、竜に見初められ、婚姻するために呪いをかけられて龍の姿になってしまう、そんな話です。ゆめさんは前の世界でモデルをやってたんですから、可能性がありますね?」


「‥‥冷静な顔して変なフラグ立てないでください。だいたい異世界の竜に見初められるって‥‥。この世界の美的感覚ってどうなんですかね? その竜の好みだってわかんないし。意外と春さんの方かも」



「「うふふふふ」」 ふたりは顔を見合わせ、にじり寄る。



「あら、私なんてあなたの足もとにも。『ノスティモみなと』の表紙モデルさん」


「なんでそんな知識あるんですか。竜さ~ん。その人の方がわたしなんかよりナイズバディですよ~」



 にらみ合うふたりだったが、不毛な事にすぐ気づく。「そんなヒマがあったら、さっさと立ち去りましょう」と。




 だが。




「やっぱりわたしいぃ~~!!??」

「ゆめさん!」


 足もとに魔法陣が現れ、光に包まれたのは ゆめ、と呼ばれた後ろの女性だった。

 次第に強くなる光に包まれ、女性の姿は魔法陣の中に消えていった。




 ***




「実は見ている疑惑。大人に戻ったら、ウチの質問に答えてもらうから。いい? ぬっくん」


 自宅の脱衣場で、暖斗赤ちゃんの体を拭きながら麻妃はそう言い、服を着せていく。


「しかし便利ではある。この【魔法の○○】シリーズは。ぬっくんが赤ちゃん状態でも下のお世話とか諸々しなくていいし」


「そうです」


 廊下のエイリアが振り返る。


「その赤ちゃんアバターは暖斗さんが魔法力を取り戻すための云わば『充電モード』。ほ乳瓶で生成される透明のミルクを飲んで、寝ていればいいんです」


 エイリアのその言葉に「ふむ」と頷いた麻妃だが、すぐに疑問がわいた。


「んん? 待って!? その理屈だとお風呂も入れなくていいんじゃない?」



「いいえ。この赤ちゃんは、愛情をもってお世話をした方が回復が早いんです。前の世界でもそういう事例があったでしょう?」


 そういうと、エイリア姫は意味深な笑みを浮かべた。



「う、そっか。『マジカルカレント後遺症候群の早期治癒』か」



「ええ。愛依(えい)さんと一心同体であるわたしは、それを誰よりも深く知っています。


『マジカルカレント』と、『マジカルリゲイン』、

『あちらの世界』と『こちらの世界』


 は、緩やかに【リンク】しているのです」



 麻妃は両腕を曲げて肩をすくめた。


「‥‥まあ、‥‥異世界転生を実体験中の身としては、信じるしかないわな。姫さんがアッチの世界にいたって話も今のところ矛盾点が無いし」


 エイリア姫は腰を落とし、ゆっくりとお辞儀をした。高貴な所作だ。


「わかって頂いて助かります。麻妃さん」


 麻妃は、その一連の動作を見ながら。


「まあ、もう一ヶ月経つからね。今まであんまり聞けなかったけど、おいおいその辺のハナシも教えてよ。ね、姫さん」


 そう言いながら麻妃はキッチンへ歩き出した。


「ぬっくん連れてきて。もうメシにしようぜ」



「はい」

 姫は赤ちゃんを抱きかかえると、食堂へと足を向けた。



 が、赤ん坊と目が合うと、再び「むちゅ~」とキスをする。





「今夜は一緒に寝まちょうね~~。べびたん」





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