第70話 星と雲 ⑦
「うおおおお!!」
暖斗の突撃と共に、ツヌ国のDMT、E-XFが千切れ飛ぶ。DMTの盾は通常左手に装備されているから、隊列の右側からの突撃には脆い。一瞬防御が遅れるのだ。
(そうだ。初手、定石度外視の左軍勢への攻撃も、暖斗機の突破力を考えて。意表を突いた攻撃、敵の弱み、すべて理に適っている)
暖斗の脇を守りながら、ソーラはそう呟いた。サリッサの回転音を戦場に響かせながら、暖斗機の蹂躙は続いていった。
「展開!!」
インカムにホーカの声が聞こえた。戦場の機微を掴んだ彼女が、円陣を解いたのだ。接敵していなかった12時と6時方面のDMTを、敵の横腹に差し向ける。逆包囲だ。
「右は戦列維持。我々は左を殲滅せよ!」
ついに指揮官のホーカもその剣――長巻を抜刀して敵陣に踊り込んだ。
「ぬっくん。あと一回いける? 無理はダメだよ。ただもう一回ワンパン入れると勝ち確だって。渚さんが」
「いいよ。大丈夫。回復方法は愛依が頼りになるから」
そんな会話が聞こえた。だがコーラには意味がわからず。暖斗の大きな深呼吸の後に、あの異変。暖斗機周囲の重力異常が起こった。
「ソーラ、002の真後ろからどいて。持ってかれるよ」
「え? 何言ってんのコー‥‥‥‥何これ?」
眩暈の様にふらつくソーラ機を、コーラが支えて引きはがす。
「ちょ! ちょっと待って! 風が、竜巻が。何あれ!?」
「あの両肩の砲台が『雲』、あの背中の竜巻みたいのが『風』なんだって。そしてあれが――――。
暖斗機は宙を舞って、位置転換をした。味方と森を破壊しない射線の位置に。重力異常が、暖斗機周囲の砂塵を竜巻状に巻き上げる。
高鳴るエンジンの金切音と、6門の大口径に集まる光子エネルギー。それが臨界を超えると、それは光の暴力として放たれた。
「強風」
左右6門の大口径ビーム砲口から、DMTの頭部ほどの発光弾体が連出される。
敵への同情すら感じる程に、圧倒的な破壊力だった。敗残の部隊の背後を襲った砲撃は、僅かに残ったシールドを剥がし、まだ動けるDMTの装甲を満身創痍にし、弱った敵を容赦なく吹き飛ばしていった。
***
僕は通信に耳を傾ける。
「港の奪還も終わったと、ナージアが。港にたどり着けた敵はほとんどいなかったようだ」
ってホーカさんは話していた。ラポルト定番の解析屋、紅葉ヶ丘さんがなんか別件で忙しいみたいだから、解析結果が出てこないんだけど。
子恋さんの予想戦力から見て、敵はかなりの部隊をホーカさん本陣への伏兵に使ったみたい。
「味方を船に乗せる為の時間稼ぎとあわよくば一発逆転、と言った所だろうけど、ちょっと配分が悪いね。志願者が多すぎたのかな」
と彼女は言っていた。それを僕ら3機で片付けてしまったから敵は大打撃どころか、トラウマレベルの惨敗だろうって。だって、港にたどり着けた敵DMTが150機、その内、船に乗って逃げれたのは130機くらいだろうって。
「‥‥そんなぁ‥‥土煙で見えなかったし、ホーカさん助けなきゃって。そんな大軍だったの? 言ってよ~?」
敵の伏兵規模を知って、コーラさんと、特にソーラさんがへなへなしてた。
ああ、そう言えばラポルトへの帰り道。麻妃とコーラさんと、DMTに乗りながら3人で帰投する時に、こんな事が。
***
「どう? 岸尾さん。アタシの『テオブロマ』の扱いぶり」
「ん、スゴイ上手かったと思うよ。コーラさん実戦経験豊富だから。さすがだったね。やっぱ」
「あはは。素直にうれしいんだけど、同時にゴメンなさい。この機体に乗るハズのパイロットの娘と親友なんでしょ? 初陣なのに色々傷だらけにしちゃった」
「ああ、そんな事気にするヤツじゃないよ。戦闘したらそうなるの当たり前だし。いや?むしろ傷だらけの方が喜ぶなアイツ。『それはぬっくんを守ってついた傷でしょ? 私の代わりにアナタが役割を果たしてくれたのね』とか言いそうw」
「傷だらけをむしろ喜ぶ――あわわ。やっぱり確定。その娘は真性。ガチガチ真性のドM」
「なんて? コーラさん」
「いやいや、何でもないよ暖斗くん。何でも。はは。‥‥っと、そうそう。コレ聞いとかなきゃ。『発光』したのにシールド機能してた件」
「ああ、それね。そんな難しい話じゃないよ」
「麻妃だからできるんだよね」
「ウチがさ、コーラさんのDMT設定変更してたじゃん? それで、機動、シールド、攻撃とかにエネルギー配分するんだけど、こっそり余剰をシールドに廻してたんよ。ほら、MAXにしとけばシールド能力切ったって、減衰するまではしばらくシールドあるわけだし」
「麻妃はそういう細かい配分設定を、リアタイでやっててくれるんだよ」
「‥‥‥‥アマリアにそれ出来る人はいないよ。だって、自分のKRM操縦して、アタシとソーラの面倒も見てたって事でしょう?」
「うん。追加兵装で暖斗くんの面倒見なくてよくなったのが大きい。『あんよが上手♪』な赤ちゃんに」
「‥‥‥‥麻妃!」
「ごめん! ごめんて! ぬっくん」
「いや、でもね。正直ちょっとうれしかった。あの発光はひめっちとウチとで練りに練った戦法だから。それが日の目を浴びた。ぶっつけなのに、ぬっくんとの連携も及第点だよ」
「ああ、‥‥‥‥練りに練って‥‥‥‥たのね。アレ」
「そう言えば、発光する前、なんか決めゼリフ言ってたね。何あれ? 面白いや」
「『何あれ』 って、ひっどーい暖斗くん。アタシだってやりたくてやったんじゃないのに!」
「え?(麻妃)」
「え?(暖斗)」
「え?(コーラ)」
「ええ? ‥‥ちょっと待って‥‥ちょおっと待ってよぉ。嘘でしょう? 暖斗くんとタイミング合わせる目的とかで、ああいうかけ声するんでしょう?」
「いやあ。ウチとぬっくんとひめっちは、『小屋敷小トリオ』って言われた幼馴染みで。かけ声なんか無くても呼吸を合わせられるのが売りで、体験乗艦の運営も把握してて‥‥‥‥」
「うそうそ。だって‥‥‥‥そう! レジュメ! 説明聞いた時に貰った手元資料に書いてあったセリフよ。そうだよ!!」
「ああ‥‥‥‥そのレジュメ、『貰った』って今言った? 『貸す』って言ってなかった?」
「あうう‥‥‥‥よくよく思い出したら‥‥‥‥言ってた。『貸す』って」
「そのレジュメさあ。ウチのツレのなんだ。‥‥‥‥で、その決めゼリフさ、印刷で書いてあった? それとも‥‥‥‥やっぱり手書き?」
「あうう‥‥‥‥よくよく思い出したら‥‥‥‥手書き」
「アイツ言ってたんだよな~。『次のオーディションが遊園地のアトラクション、子供向けのそういうの。子供大好き。受かりたい! トゥインクル☆!』って‥‥‥‥ああ~。ほら、ぬっくん」
「ああ~。ひめちゃんだからか。ああ~。遊園地の営業」
「‥‥‥‥何よ。自分たちばっかで納得して、手書きでも何がどう‥‥‥‥あっ!」
「だ、だ、大丈夫だよコーラさん。今日は大戦果だし! う、うん。すごく良かった。すごくタイミング取りやすかったな~。いや~。良かったな、あのかけ声。『今から光ります』って分かりやすかったな~」
「おお、今日イチ最大出力のぬっくんだ‥‥‥‥。相変わらずやさしいねえ。ウチはもうフォローは無理だと思うわな」
「‥‥‥‥つまり、その、レジュメに書いてあったのは‥‥‥‥」
「いや、いや、そんな思いつめたら体に毒だよ。コーラさん」
「‥‥‥‥その、『ひめ』って娘が書いたメモかなんか、で‥‥‥‥」
「コーラさん。また一緒に戦おう。そうだ。『強敵』だ。キミの事を『|強敵《とも』と呼ぼう」
「ま、頑張りすぎて後遺症こじらすなよ。ぬっくん」
「アタシ知ってる。‥‥『美と健康! 補酵素戦士ピュアピュアプリンセス』。見てたもん。その決めゼリフも、そうだ‥‥アレだ‥‥!」
「コーラさん! なんかごめんね! ひめちゃんは生真面目だから、レジュメに書いちゃったんだよ。悪気は無かったんだよ」
「そもそもひめっちのだし。そのレジュメ」
「‥‥‥‥単なるアタシの勘違いで、あんな恥ずいセリフ絶叫してた、‥‥‥‥か。はは」
「ひめちゃんはモデルだし、芸能の仕事もちょいちょいやるんだって。だからこれは不運な事故‥‥‥‥あ! 麻妃! この! 逃げるなぁ!!」
コーラ機は走り出した。しかし暖斗機が回りこんだ。
「うわああぁん! みんな嫌い! みんな嫌いだぁ! うわあああぁぁぁん!!!」
「星」は逃げた。「雲」は追いかけた。
だが、星は輝くほど、夜の世界に、その影を落とす。
この黒歴史は、その「星」が強く光を放ったがゆえに、彼女の心に深い影を落とした。
※「美と健康! 補酵素戦士ピュアピュアプリンセス」は紘国の女児に大人気な、毎週日曜朝に放送中のアニメ。最近は「やっぱカワイイ」と一回卒業した中高生女子にも再流行中。
ラポルトメンバーにもファンがいて、プリントTシャツ所持者が何人かいます。
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