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第5話 発端Ⅰ①

 




 話は咲見(さきみ)暖斗(はると)の初陣の、2日前にさかのぼる。



「通信が、繋がらない?」


 子恋(こごい)光莉(ひかり)は、戦艦「ウルツサハリ=オッチギン」のブリッジで、その報告を聞いた。


 怪訝そうな顔をして振り返る。


 ボブヘアーに黒縁メガネの、真面目そうな印象の女の子だ。

 視線の先には、通信員用の席に座り、身を乗り出してパネルをのぞき込む、(なぎさ)陽咲(ひなた)の姿があった。


「ええ、5分前から、何度も再試行してるんだけれど。あと、民間のネットも早朝から繋がらないみたい」


 彼女は髪を少し明るめの茶色に染めて、肩まで垂らしている。


 2人とも附属中――国防大学校附属中学――の制服を着ている。


 肩や胸に徽章が付けられた、黒に近いカーキ色の制服はまるで軍服だ。渚は脚を露わにしたタイトスカートを着ているので、中学2年生にしては随分と大人びて見えた。


 ちなみに子恋は膝下タイトスカートだ。




「おかしいわね」


 子恋は、知的な顔立ちを曇らせる。


「紅葉ヶ丘学生、聞いてる?」


 彼女は耳のインカムに手をあてて問いかけた。すぐに返事が返ってくる。


「聞いてるよ。子恋学生。繋がらないね。海軍本部とも、運営とも、随伴艦とも。一応監視カメラやセンサー類は、随伴艦が『いるであろう』方角に集中させとくよ。どうする? 航行続ける?」



 そう言ったのは、この戦艦の頭脳の中心部、電脳戦闘室(エンケパロス)にいる、紅葉ヶ丘(もみじがおか)(みお)だ。


 彼女も附属中からの乗艦で、同様に軍服のような制服に身を包んでいる。


 だが、それに反してそのルックスは、おかっぱ頭にリボン、膝下のノーマルスカートに白ソックスの、見た目小学生みたいなかわいい女の子だそうだ。




 電脳戦闘室(エンケパロス)は、ブリッジのすぐ奥にある。――のだが、彼女はそこに引き籠っているので、その容姿を知っているのは同じ附属中の2名しかいない。


 他の中学からの参加者で、彼女を見たものはまだいなかった。




「‥‥一応、このまま航行を続けよう。で、不測の事態だと確定するなら、乗員全員で今後の事を相談しないといけない」


 子恋が落ち着いた口調でそう答えると、渚も続けた。


「警戒レベル2のメールを入れときましょう。みんなの軍用スマホに」




 ***




 メールから90分後、停止した艦の食堂に、僕、咲見暖斗(さきみはると)を含めた16人の乗艦メンバー全員が集まっていた。


 白い壁にプロジェクターの光を投影し、その前に立つのは子恋さん、傍らに書記の様な感じで渚さんが座っている。


 残りの14人はその2人に正対する形で、思い思いの場所に座った。




 あらためて全員集まったけど、僕以外全員女子。すっげえ居づらい。



 僕も、幼馴染みの岸尾(きしお)麻妃(まき)のとなりに座った。その向こうには、麻妃と友達の、逢初(あいぞめ)愛依(えい)さんも座っている。3人とも同じ「みなと第一中学」の2年生で、逢初さんとは春から同じクラスだ。


 ただ、まともに話をした記憶はない。


 今日も、彼女は僕と目があうと軽く会釈をし、僕も一応あいさつを返した。そんな感じだよ。




 子恋さんが口を開く。


「もうみんな、知ってると思うけど、運営本部や、随伴艦と連絡が取れなくなりました。ネットも繋がらないよね。それで、随伴艦から先ほど、アナログな方法で指示をもらったんだけどそれを伝えて、みんなの意見を聞きたいと思います。‥‥あ、便宜上、私が司会をやるわね。‥‥いい? うん。ありがとう。それじゃ‥‥」





 そう、この絋国が誇る最新鋭の空中戦艦、「ウルツサハリ=オッチギン」は、16人の中学生で運用されている。僕を含めて、全員みなと市の中学2年生だ。


 絋国の中でも軍港として古い歴史のある、みなと市。毎年夏休みに、地元の中学生を募集して空飛ぶ軍艦の体験乗船をしている。名付けて「ふれあい体験乗艦」だ。



 だけど、今年は特別だった! 


 何でも、万年人手不足に悩む絋国軍が軍艦をAI完全自動化したとかで、その成果を外国にもアピールするために



 16人のガチ中学生だけで、約1週間のガチ航海をさせる!!



 という無理ゲーを企画した。「#ガチ中二16人で戦艦回してみた」ってみんな笑ってた。



 当然、危ない武器とかは封印してあるし、軍事機密的なヤツも僕らには見えないようになってる‥‥‥‥らしい。


 それに、というか当然なんだけど、ちゃんと本物の軍人さんが乗ってる随伴艦がフォローしてくれるってことで、「なんだ無理ゲーじゃないじゃん! 軍艦カッケー! うおお!」 ってノリで、みなと市中の中学生がこれに応募した。



 で、ほぼ1年かけて選抜試験もかねた研修を受けて、選ばれたのが僕ひとりと女子15人! 




 あれ? 女子が15人‥‥‥‥で、男子は、僕ひとり。



 正直聞いた時は固まった。受かったって喜んだ直後だし。――――同級生(あいつら)には「ハーレムだ」ってからかわれるし、なんか知らないけど「いい気になるなよ!?」って突っかかって来るヤツとかいたし。



 なんでこの男女比率になったのか、――――運営のチョイスに悩むよね‥‥。





 あ、ちなみに出航式の時には、新聞社が来た。「ノスティモみなと」だけじゃなくって、ちゃんとした全国紙がね。でも‥‥‥‥。




 航行2日目にして、運営さんと連絡つかない。ネットも無理。随伴艦も行方不明?




 普通に詰んでない? ‥‥‥‥これ?




 あ~。いきなりのトラブル発生かあ。こんな中2だけでどうしろと? まあ、仕切ってるのが、「附属中3人娘」だから何とかなりそうな予感はある。



 附属中、というのはみなと市にある軍港に併設されている、国防大学校って高級軍人さん育成用の大学の、付属中学の、みなと校、のこと。


 もうなんか、制服だけじゃなくて、雰囲気が軍人さんなんだよね、むっちゃ厳しいってウワサだし。


 女子でも「○○学生」って呼び合うし。よく友達がマネしてるよ。




 確か、「戦術科」の渚さん、「戦略科」の子恋さん、「情報処理科」の紅葉ヶ丘さん、だっけ。



 あ、紅葉ヶ丘さん初めて見た。背小っちゃいな。2人が、「カワイイカワイイ」言ってた子。


 う~ん。女子同士の「カワイイ」はアテにならないって先輩言ってたけど、このケースは例外じゃないかな。3人ともそれぞれ美人だね。――まあ、この体験乗艦に選ばれた子達、ぶっちゃけ顔面偏差値高いんだけど。



 で。


 随伴艦からの指示は、信号旗だったらしい。その内容とは!?


「不慮ノ事案出来(しゅったい)。本艦(まか)ル。貴艦ハ別命或ル迄遊撃シ艦態保持ニ務メヨ」





 は? 意味わかんないよ‥‥? 暗号?






※「発端」シリーズ。

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