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1−6 悲劇

「お前の妹、殺されただろ」


 彩音は言った。


 静かにはっきりと、事実を淡々と。



 それは2年前の事だった。体験したことのない苦しみ、悲しみ。多くの人が体験しないであろう悲劇。


  

 妹が殺された。


 名前も知らない通り魔に。


 中学生の俺のショックは想像以上に大きいものだった。3ヶ月不登校になった。街中の全ての人が敵に見えた。悪魔に見えた。


 だけど、俺は立ち直った。無理矢理、立ち直らせた。家族で引っ越し、大阪府の有名府立高校に入学した。過去のことは隠し、忘れようとしていた。



 けれど、彼女は言った。


 俺をまた地獄に突き返そうと言うのか。



「聞いてるの。答えてくれる? あなたの妹は殺された?」

「関係ねーだろーが」

 俺の声は想像以上に小さく冷たかった。


「私に協力して」

「……」

「ね、聞いてる?答えて」


「何なんだよ、さっきからー」


 俺は図書室にいる事を忘れ、大声で怒鳴った。


「人の妹が死んだって事実をよくもまぁそんな簡単に喋れるもんだ!お前になんの関係があるっていうんだ?」


 俺が叫んでも彼女は静かにこっちを見ていた。


「関係あるから言ってるの」

「はぁ?」


「私の妹も殺された。」


 え?


「あなたの妹を殺した人物と同じ人物に」


 背筋に電気のようなものが走ったのを感じた。


 俺の妹、花菜を殺した人物。奴はまだ捕まっていない。


 俺の謎の全てが繋がった。


 どうして彩音は俺の名前を知っているのか。

 どうして彩音の顔に懐かしさを感じるのか。

 

 今、思えば俺が当然のように言ってる、彩音。普通なら上の名前の、平木と呼ぶはずだ。


 俺の妹の花菜が殺された一週間後、全く同じ場所で当時の花菜と同学年、つまり小学4年生の少女が殺害された。

 

 俺はその日、図書館に行っていた。花菜が死んだ悲しみから立ち直れず俺は本を読み耽った。その時の癖で今も読書家というわけだ。図書館の帰り道、ゆっくり自転車を走らせていた俺は

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

という悲鳴を聞いた。


 その悲鳴は花菜が殺害された場所の方からだった。


 花菜が殺されたのは町の中では大きめの総合公園だった。ただ俺は事件の日からそこを避けていた。


 その日も公園を避けて自転車に乗っていた。秋の日の午後7時くらいで肌寒い風が吹いていた。


 悲鳴を聞いた俺は初め、無視して帰宅しようかと考えた。しかしどうしても気になった俺は公園の方へ引き返した。


 人混みをかき分け、前の方へ進んだ。

 そこには悲劇があった。小学生の女の子が大量に血を流して倒れている。その女の子の横に中学生であろう女の子が泣き叫んでいた。倒れた女の子に必死に声をかけている。淀みなく溢れ出す涙。彼女の顔は俺の脳裏に焼きついた。


 俺は何もせず、ただ突っ立ていた。血を流す少女、泣き叫ぶ同い年くらいの女子、俺はただ彼女たちを眺めていた。




「私の妹が殺された現場にあなた、居たでしょ」

 少し、口調が優しくなった彩音は静かにゆっくり話しだした。

「ああ。居た。お前のことも見た。」


「私はあなたが、その時の少年かどうか確信が持てなかった。ただあなたが朝言っていたことで確信が持てた」

「朝…」

「公安警察」

「あっ」

「改めて楠原誠一郎君、私に協力して」


 長い沈黙があった。俺は返答に迷った。


「分かった。協力しよう。けれどお前が怪しいと感じた場合は即座に協力をやめる」

「わかった。じゃーあー、この事は秘密ね! 楠原君!」


 彩音の死んでいた目は生き返り、さっきまでの笑顔を作った。うふふと笑っている彼女の笑顔が演技だったとはな。


「ああ。秘密は厳守する。」

 


 今までの綾音の言動が裏の顔だったとはな。


 綾音のいない教室で俺は静かに目を閉じる。


 花菜、これでいいんだよな。


 続く

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